客に番頭やらせたりする緩い昭和的な下町情緒と純和風ファンタジーがキチンと噛み合った良作です。更にシナリオの核として、人と「かみさま」の在り方、相互理解・歩み寄りまでの道程を描いており、ここら辺が好きな人にも悪くない読後感をもたらしてくれると思います。購入検討用に長文の最初は微バレのみです。
※良いゲームでしたので、布教と、またメーカーさんへの惜別の意も含め、購入検討用の微バレを書いておきます。
①萌えゲーの不文律は大丈夫か
長く生きる「かみさま」がヒロインという事で、過去に恋人が居たり、夫が居たりという裏設定も作れないことも無かったハズですが、今作では全員処女かつ主人公が初恋という萌えゲーの不文律はキチンと守られています。逆に言うと、籐子などは「2000年生きてて一度も恋愛しなかったとか、どうなのよ」と主人公にすら突っ込まれていますが、そっちのリアリティ欠如を気にする人は回避でオッケーかと思います。
②男の娘や怪物的な見た目のヒロイン
杏理の男体エッチは一回あります。擦ったら気持ち良かったですよ。あや乃の面白い体の方でのエッチはありません。流石に見た目的にアレという判断でしょうね。特殊性癖が一切無くホモセックスを見るのも嫌だという人は厳しいかも知れませんが、見るくらいなら平気という人なら、杏理の一回だけで購入は蹴らないで欲しいです。
③恋愛上の注意点
①の補足になりますが、恋愛関係の構築において、順序が人間と違うタイプの話もあり、具体的に言うと共通内で(恋愛関係前に)カラダの関係を持つヒロインが二人います。告白してキスしてデートしてセックスして……という段階を大事にする方はハゲてしまうかも知れませんね。僕もあまり好きではないクチですが。他ヒロインのルートに入る際は選択肢でこれら二つのエロシーンは蹴れるので、一番最悪な、他のヒロインと関係を持った後で別ヒロインのルートインという不誠実展開だけは免れることが出来ます。
④暴力ヒロイン・理不尽系ヒロイン
体験版などやれば、すぐに分かると思いますが、ヒロイン勢は所謂「聖女みたいな萌えゲーヒロインの典型」ではなく、どっちかというと、物語世界で「生きていて」好き勝手するタイプばかりです。主人公が間違えばキツイ灸を据え、逆に自分たちが間違って人を傷つけ謝ったりします。当然ストレスを受ける事も多々ありますが、そこを乗り越えてデレさせて愛でる事が出来る人なら、聖女タイプよりハマる可能性はあります。
⑤結局どういう感じなのか
④まで読めばある程度察せると思いますが、典型的な萌えゲーほどユーザーの顔色は窺ってません。かと言って、過度に不快になるほどに萌えゲー的バランス感覚が欠如しているワケでもない。ユーザーに媚び過ぎないお蔭で「生きた」下町とその住人を描けている。感覚としては昭和と平成の両天秤と言ったところ。令和に何言ってんだ?と思われてしまうかもしれませんが。他のライターさんの名前を出すのも些か失礼かとも思いますが、世界の巨匠・近江谷氏や丸谷さんといった年嵩のライターさんの書き筋が彷彿させられます。
以上です。ここからはネタバレ全開の感想ですので、プレイ前には読まないで下さい。
グラフィック(19/20)
最初は立ち絵がヨダ絵みたいな体で何とも言えない気持ちになりましたが、プレイしている間に慣れました。一枚絵もやや胴長ですが、顔のタッチは凄く好きで、みんな可愛く感じました。また銭湯内の背景絵も愛すべき古臭さで、雰囲気作りに一役も二役も買っていました。異形のかみさま達のキャラデザもどこか愛嬌があり、素晴らしかったです。タケちゃんや滝さんは名脇役でしたね。
ストーリー(40/50)
テーマとしては「かみさま」と人との共存ですね。体の変質を込んだ異文化交流とも言えるかも知れません。「かみさま」たちは普段は人の姿を取り、神由町で暮らし、夜になると憩いの湯・かみのゆで本来の姿でくつろぐ。この設定を使って、その二面性を相互理解の試練として、また一助として使った3ルート。人とのハーフ、生粋にして変化しない「かみさま」との在り様をそれぞれ描いた2ルートという大別で見ていきましょう。
まず前者の3ルートの中でも一番毒が多く、そして恐らく今作のテーマを一番に体現したルートであろう、あや乃ルートから。
彼女は美人画商として生計を立てる昼間の顔と、そのアートを丸きり飲み込んだ混沌美の夜の顔を併せ持つ、一番主人公(一般的な人間)から遠い「かみさま」です。商売人として人の世の合間に生きている割に、人間の価値観を全くと言っていいほど理解せず、画商の時間ですら、異邦の神です。微バレの方でも書いたように、彼女は全くプレイヤー(人間)におもねる事をしないので、非常に理不尽に感じるやり取りが多い。よく分からない理由で怒ったり、空気を読まないほどの毒舌を吐いても悪い事とも思っていない様子で、一歩間違えば不快ヒロイン枠まっしぐらですが、裏を返せば、それだけ存在の遠さを感じさせる事に成功しているとも言えます。彼女は作中、こんな事を嘉人に言います。「あなたのほうこそ、かみさまなのではないですか? 私の……かみさま」。人がすなる恋というものを教えられるとは、全く予想だにしていなかったんでしょう。欧州で生き、様々な西洋美術に触れて、紆余曲折経て流れ着いた極東の島国で、美術なんてド素人のただの一人の人間に、初めての感情を抱かされたのなら、まあ無理からぬ台詞かも知れませんね。何もかもが遠く、何もかもが違い過ぎて、お互いに神を見たようなカルチャーショックを与えあった二人。そんな二人が真に愛し合うには中々に骨が折れる過程を経ました。美的感覚の差が如何とも埋めがたく、主人公は例の面白い体の方のあや乃を「化物」として見るのを止められず、恋愛の障害と認識してしまいます。逆にあや乃の方は人型の方こそ醜く思っており、よってその体に頓着しません。共通内での主人公へのフェラチオ行為は根底にこの無頓着があるからこそ、という伏線になっていたりします。微バレの方では恋愛手順上、ややネガティブなトーンで書きましたが、シナリオ上は必要な描写だったように思います。
「わたし、綺麗な絵だけ食べますね」という台詞が、グサリと、主人公を貫通してプレイヤー自身にも刺さります。結局、嘉人くんがダイス(多面体)の話をして、人にも神にも多面性があり、あや乃を好きな自分も見えない出目だとしても、反対側に必ず居るんだよ、みたいな何か良い感じの話で纏めあげてましたが、オモシロ体躯でのセックスが無く、何だかなぁ。多分ライターさんは書きたかったんだろうと思うけど、仕方ないね。特に今作はスウィートライトへの試金石的な一作だったと思うし、寧ろ止めたのはファインプレーなんだろう。
百ちゃんは、箸休め的なルートになっていて、ロリっ子版とグラマー版の違いとか正直エロゲーマーの感覚で言うと、何を躊躇う事があるんだ? って感じで、あや乃の二面性と比べたら諸々マイルドで、障害として体を成してないレベルですね。同様に、杏理くんに関しても僕的には寧ろ男体の方が興奮するくらいで、何をグジグジしてんだ、このノンケは? くらいの気持ちで読んでましたが、まあこっちは抵抗ある人も多いと思うので、百ちゃんよりはシリアスへの説得力は有ると思います。
いずれも、ロリ/男を含めて愛してあげられるか、そこまでの葛藤とすったもんだが話の軸で、結局主人公が受け入れ、ロリマンコもケツマンコも突き詰めればマンコという事で、決着します。また2ルートとも独自で両面を愛せる手段を確立し、最終的には脱・かみのゆ的展開となります。ちなみに、あや乃にしても、人の姿でしかセックスしない為かみのゆが二人にとって徐々に不要になっていき、やはり脱する形になります。卒業ですね、言ったらば。
乙女ルートは一番出来が悪かったですね。自身の強すぎる正義感と視野の狭窄化の狭間で揺れ、嘉人が言ったように「仕方なく罪を犯してしまうヤツ」とどう向き合っていくか、を描きたかったんだろうけど、ちょっと決着としては弱かった。最低でもダルマ一家と乙女の対話はシーンとして長めに取らなきゃいけない所なのに、どころか一文程度の振り返りで済ましてしまいました。ただでさえ、「かみさま」ヒロインじゃなくても出来るような話だった上に、この書き方では厳しい。
二面性に関しても、正直かみのゆに居る状態の弱乙女でも結構ズバッと物言うし、大して差別化できているようには読めず、実際主人公も凄くナチュラルにどちらも愛しています。まあ見た目は何一つ変わらないですからね、あとは性格の問題だろうけど、それも上述のように大差感じないんだから、そりゃそうなるわな。この子に関しては、かみのゆが大して必要とされていないって言う。
と、ここまでかみのゆを卒業したり、そも要らなかったヒロインをピックアップしてきましたが、卒業も廃業も出来ない残された一人が、籐子になります。そう、他のヒロイン選んで卒業したら、籐子は置いて行かれてしまうんですよね。ちょっとズルいよね。同情ポイント入ります。僕的には杏理くんが好きなんですが、同情ポイント込むと籐子ちゃんも相当好きで、さいかわは甲乙つけがたし状態。
まあ結構面倒くさい性格なんですけどね。ただ女の子しまくりだから、そこまで苛ついたりはしなかったですね。すぐからかったり八つ当たりするくせに、そのたび嘉人がバイト辞めるんじゃないかとビクビクしてしまう。可愛かったですね。ただ根底には、置いて行かれる怖さ。置いて行かれたら自分には追いかける術が無い事。郷里に残す家族への後ろめたさのような、切ない感情が去来しました。籐子は籐子で、縛れないと考えて最後の一線は引いてしまう臆病さもいじらしく、やっぱズルいなーとw そうして別れを切り出しておきながら、本当は別れたくないし何なら見つけ出して抱きしめて欲しい。言ったら非常に女々しい。女は愛嬌と前時代的な事を平然と宣うからには、やっぱ生粋の女の子なんだよね。そしてそれを丸っと包んでやるのが、男の度量ってな寸法で、これまたどうも昭和的な香りがする書き筋でしたね。全然嫌いじゃない。
最後の展開も大好物で、封ぜられて動けない籐子の為に、主人公の方が「かみさま」となって、いつまでもいつまでもかみのゆに居続ける。風呂焚き奴隷。しかも永遠を二人で生きる。徹頭徹尾、人間が神へ献上したルートでしたね。大した学術的な考察が出来るワケではないけど、このルートって実は結構異質なんだよね。杏理や百は勿論、あのあや乃ですら人の世の間で生きていくというのに、籐子だけは、完全に人間を取り込んでしまう帰結。かみさまモノって結構あるけど、ここまで行ったのは珍しいと思う。これ、人間の側から見ると完全に神に魅入られた子が神隠しに遭ったのと同じだから。あの神社跡には御キツネのまつろわぬ神様が封ぜられていて、気に入った人間を連れ去ってしまうんだ。後世こんな語り口で始まっても何らおかしくない。もちろん籐子の方から言わせてもらえば、愛した人と永遠を生きていく、どこまでも幸せなラブストーリー。作中、籐子が封ぜられた経緯について、嘉人くんが「勝者(人間)の都合で語られた事情」ではなく籐子の言い分を聞きたいと言った時点から、既に彼が人間を辞める兆候があったんだろうな。
総括。まあ、色んな形で人と「かみさま」の関わりを描きました。どこまでも明るく昭和の寄り合い所帯じみた温かみに溢れているものの、同時にシナリオゲー寄りの棘を含んだお話でもあり、ちょうど「かみさま」の二面性のようにも感じました。元気を貰えて、ちょっと考えさせられ、ほっこり温まる、楽しいゲームでした。
エロ(14/20)
百のみ5枠、他が4枠ですね。4枠中1枠が前戯終了で潰してしまうので、本番至上主義の自分としては少々減点しました。杏理くんのオスプレイで二回もアレを放出したのでチャラみたいな所はありますが。卑語は少なめ。おっぱいの描き方は結構好きでした。陥没乳首みたいに見えたけど、あれがデフォなのねw
音楽(9/10)
OP曲は賑やか系。ED曲が和風ロックバラードで大分好き。BGMは「のれんをくぐれば」「かみ宿る里」が純和風で凄く良かった。「真打登場」も主人公のハードボイルド趣味に合わせたような曲調で、良かったと思います。
合計(82/100)