情ある男が狂って成った、悲しき復讐鬼の話。冬矢(主人公の男)ゲー。ある一定人種に限るが女性向けかも
オススメしてもらって、買って一章までプレイして、「あーこれは他人の評価はともかく、自分にとっては絶対宝物みたいな作品になるなー」って予感があったんですが。いや~その予想めっちゃ当たりましたねえ。こうして伊波冬矢という男の事を想うだけで涙滲むわ……。冬矢は弁解の余地のない狂人で、それもかなりねちっこいタイプの鬼畜です。なのに何故か……憎めないしその酷い生き様に泣いてしまうんですよねえ。美文の三人称のお陰で悲しいけど引くほどの痛さではなかったというか、入り込んでするする読めてしまったのもあるのかな。
それ以上に冬矢の悲しみが伝わってくるんですよね。同情引くような書き方ではないし、そういうの冬矢自身が虫唾がはしるわ!って感じに拒絶してるレベルなんですが、だからこそ。「こんな事がなかったら嫁が大好きな、心優しい男だったんだろうな……」ってのが過去回想と、狂人の今に残ってる優しさの残滓、情を知ってる人間じゃないと出来ない具体的な鬼畜の所業でわかるんですよねえ。ハナアジサイを渡すような、詩的な優しい男がコイツの根っこなんだろうな……って思う。
途中から「絶対こいつの旅路の果てを見届けたい!」ってなってガンガン読み進めていってしまったくらいには冬矢という男に目を離せなかった。その旅路の果て、トゥルーのいちエンドのエピローグ演出は……「お前どこまで不器用なんだよお!!!!!!」って泣いてしまった。そしてこんな詰んでる作品に漂う優しさが沁みた。龍宮主人のところでぐずりかけた鈴子が泣く前に、そっとにゃんこがひざを占拠して泣かせまい!ってするところもそうなんだが、こんなどうしようもねえ話なのに、この作品に漂うのはどこか優しい情なんだよね。坊を死なせまいと育児奮闘するリンドウとか。冬矢は運命には愛されなかったけれど、周囲の人間には十分愛されていたと思う。それでも曲がらねえその狂人っぷり……だからこそ大好きなんだけど、しまいにゃ泣けてくるよね。
このゲームのスタッフロールに、たまたま大好きな夏夢夜話のライターの水無神知宏がいたんで、ちょっと引き合いに出しちゃうんだけど、心に傷を持つ主人公の旅路、一本道ゲーって意味では共通するのに、こんな全然違うっていうか、夏夢夜話とか他の作品では選択肢でエンディングになるようなところに選択肢がないんだよな、このゲーム……。ギャルゲーって分岐いくらでも作れるから、このゲームももし作ろうと思えばそれなりに救いのあるコースアウトエンドくらい作れるだろうに、ないんだよね。どのエンディングも物悲しさや鬱が漂うし分岐も少ない辺り、徹底してるっていうか、伊波冬矢という男の業とガチを感じるというか……。夏夢夜話も決して明るい物語ではないが、それでもコースアウトエンドは「君はここで夢をみていていい」って感じに幸せなエンディングも多かった。伊波冬矢という男はそういうわけにはいかなかった。(これはどちらが作品として上ってわけじゃなく、主人公の生き方、修羅地獄の差として)いやマルチエンディングに出来るゲーム媒体っていうメタ視点から見ても、どこか優しさはある物語を純粋に追っていてももう少しは幸せになれる余地があったろうに、それを否!とするかのような冬矢の生き様、天晴れなり。お前がオンリーワンだ……! 女達は冬矢のその頑固さに反して、冬矢の蛮行を結構許してしまっている(七章で見せられる幸せな世界とか見てても特に)と感じるんだけどね。冬矢を一番許せないのは冬矢自身だったんだろうな……。
そういう前述のエロゲらしい日和を叩き潰すかのような構成、エロゲでヒロインの物語ではなく、終始主人公の男、それも狂人の物語(そこに寄り添う女が約一名いるわけだが)だった……ってのはすごい。その主役をやりきった伊波冬矢もだが、コレを迷いなく描き切ったライターも。この主人公と物語を賞賛する人は決して多くないだろうけれど、突き刺さった一部の人はずっと覚えてるタイプの作品だと思う。美しい美文と伊波冬矢というどこまでも不器用で生きづらい狂人に精神揺さぶられまくるほどにやられたのと、こういう一般受けしない物語をブレることなく描き切ってくれるエロゲってあんまないところをやりきってくれたライターと主人公に敬意を払って、100点。もう完全に個人の趣味でつけてるんで、ぜーんぜん参考にならない配点だとは思います。
一言感想でも言ったけど、冬矢みたいな悲しい狂人好きな女子って多分一定数はいるんじゃねえかなあ……。そういう意味で極々一部の女性向け。冬矢の初美(と、いち)への想いって、暗い重い女の夢感がある……。
文章全然纏まってないけど個人的にめっちゃ刺さって冷静でいられないからしょうがない。てかもうED曲がすごい冬矢を歌ってるし、なによりムービーが灯篭流し、しかもその灯篭の柄がさあ……;;;;;;
プレイし終わって何日か経っても、この人生丸ごと不器用な、普通の善人にも突き抜けた狂人にもなれない男の事を考えると胸が詰まってしまう。心の中を灯篭と、散華の花びらと渡しそこねたハナアジサイがずっと流れ続けているかのようです。
冒頭でも言ったが、他人に手放しで勧めるタイプの作品じゃないよ、念のため。読者の共感を持つ善人としても生きられなければ、かといって一周回ってみてて面白い突き抜けた狂人でもないからね、冬矢は。自分のやってる事は理解してしまえている理性は残っている基地外。それが悪いわけではなく、だからこそ私は胸打たれたんだけどね。