ErogameScape -エロゲー批評空間-

tarutarutarutoさんのStarTRainの長文感想

ユーザー
tarutarutaruto
ゲーム
StarTRain
ブランド
mixed up
得点
100
参照数
2458

一言コメント

正直、今までもこれからも批評空間で100点をつける事は一生ないと思ってました。 ここまで自分と考え方が被るのは初めてでした。 この作品に出逢うことが出来て、本当に心の底からmixed upさんにありがとうと言いたい。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

「ふたつめ、みっつめがある。だから初恋なんだ――」
この作品の魅力はやっぱり終わりから始まる事だと思います。
ずっと先輩の事だけを見てきた主人公。
主人公にずっと頼ってきた先輩。
お互い弱い所を知っているからこそ、お互いのことを理解出来てしまう。
Loveの好きでもLikeの好きでも大切だからこそ、関係を壊したくないと思う気持ち。
自分の事が大嫌いで、臆病で、似たもの同士な二人。
主人公にとって先輩、先輩にとって主人公は唯一無二の大事な存在。
だから主人公は先輩を好きになり、先輩は大事だからこそ関係を崩さないために付き合い始める。



こんな感じですよね。恋愛の難しい所って一人じゃない所だと私は思ってます。
二人だからこそお互いの感じ方が違い、違う世界を見ています。
だから、先輩の事を今以上に深く知りたくなる。例えそれが自分にとって良い事であっても、悪い事であったとしても。
でも先輩の事を知るという行為はとても勇気のいる事だと思います。なぜなら自分の知らない先輩を見てしまうから。
自分には向けない表情、自分抜きでの世界などに疎外感を覚えてしまう。
そして怖くなる。先輩が自分から離れていってしまうと。
だから引き止めておくために必死に先輩を繋ぎ止めようとする。自分と先輩だけの特別な”何か”を作ろうとする。
そうする事によって余計に気づいてしまいます。現実を見せつけられる。気づいてしまう。
先輩が好きな人は自分じゃないと。そして主人公は決意します。
1年に1度やってくる七夕祭りで先輩を幸せになるための後押しをしようと。




正直プロローグは見てるのが辛かったです。めちゃくちゃ感情移入しちゃって胸が苦しくて痛くて…。
今までずっと見てきたから些細な事でも気づいてしまうんですよね。
無理矢理 愛を強要するような事もしてました。
でも現実から逃げなかった主人公を素直に凄いと思ってしまいました。
結局先輩は主人公から離れていってしまいますが、これが最良の選択ですよね。
それが例え自分でなくとも、本当に好きだからこそ幸せになって欲しい。先輩に強くなってほしい。逃げないで欲しいと。
主人公は自分の事を弱いって言ってましたが、私は主人公が強いなって思いました。


このプロローグ部分があるからこそ、本当に良いモノに仕上がったと思います。
エロゲだからって恋愛をご都合主義にしない点は、本当に七烏未奏さんGJ。



●蓬√
個人的には一番この√が好きかも知れないです。

「例えば、自分の居場所だったり。」

お互いが一度失恋している所から始まる恋。
利害が一致する所から始まる恋。
人に求められている嬉しさ、相手にとって自分は特別な居場所にいるという独占感。
お互いが一度経験しているからこそ、相手の気持ちが理解できる。
立ち直れない、吹っ切る事ができないからこそ、自分と同じ立場にいる相手と一緒にいれば気持ちが楽になる。
お互いが良き理解者だからこそ付き合い始める二人。
恋愛っていうのは相手が好きでなければ、いけないのだろうか?
私はそうとは思いません。そりゃ好きでいてくれた方が嬉しいに決まっています。
恋愛って後付けでも良いと思うんですよ。
相手の事が好きではなく付き合ったとしても、色んな相手の事を知り、見て、感じてから結論を出しても良いと思います。
大事なのは相手を好きになろうとする気持ち。自分を知ってもらおうとする気持ち。
別に前の相手と比べても良い。
主人公は先輩と蓬を比べた事で、蓬に罪悪感を持っていました。
ここで罪悪感を持つっていうのは、向きあおうとしてないからだと思うんです。
元々始まりが特殊であったが為に、向きあうって事はとても難しい。
お互いが代替品として成り立った関係だから―。
精神的に弱っている時だったから余計に深く依存してしまい、主人公を求めてしまった蓬。
悲しい、辛い だから代わりに主人公で寂しさを紛らわせようとしたから余計に溢れでてしまって…。
もうブレーキが壊れてしまって、止まらなくなって。欲しくて、欲しくて、欲しくて。
そして先輩と別れてから1回目の七夕祭りで主人公は、蓬と別れます。



「昔の恋人を綺麗に忘れて新しい恋を見つけること。」
恋と依存は繋がってる事が多いですが、繋がってない事もあります。
この段階では、蓬は主人公を埋め合わせのために求めていたのではないかと思います。
これも恋なのかも知れないです。もしこれが恋だとしても、昔の恋人を引きずっての恋…。
NORMAL ENDとして有りましたが、とてもモヤモヤが残りました。
前の恋人がどうなのだとか、そういうのは関係なくお互いが向きあうことが大事だと思うんです。
このまま付き合ってしまうのは…逃げだと思うんです。



この√では、生きるとは何か?という疑問がよく出てきたと思いますが、この√に置いて大事なのは"居場所"ではないのかなと思います。
主人公も蓬も二人とも、相手しか見えて無かった。
周りを見ていなかったからこそ、相手と別れてから自分がどうすればいいのか、そういう部分がわからなかったのではないかと思うんです。
その時に二人が仲良くなったものだから、更に視野が狭くなったのじゃないかなと。


蓬は旅に出ましたが、その時に世界の広さというモノを知りました。
主人公は生きること・恋愛する事に於いて重く考えすぎでしたが、麻衣子によって心の枷を外して貰う事が出来ました。


ここからがまた、二人の新しいStartRainではなかったのでしょうか。

それにしても蓬のシーンはめちゃくちゃエロかったです。これはいいア○ル。
もうテキストがエロすぎて…エロすぎて…。
処女厨涙目ですが(笑)


●飛鳥√

「例えば、まだ見ぬ幸せへの憧れだったり。」


「自分の事好きやないと、幸せにならへんのやで」
この台詞が脳内に凄く焼き付いています。
正直結構甘い感じの話を予想しながらプレイしましたが…全然違いました。
幸せを手に入れるためにはどうすれば良いのかというモノを考えさせられました。
自分が不幸だからこそ、幸せに憧れを抱いてしまう。
自分が不幸だからこそ、幸せが憎い。自分も幸せになりたいから、幸せだと思い込むしかない。
この考え方に飛鳥の優しさが含まれてるなって思いました。
私だったら幸せと思い込むのではなく、幸せな人を憎んでしまいます。
そういう考え方の部分にも、飛鳥の性格そのものが出てると思うと温かい気持ちにもなります。
最初は幸せになりたいが為に、付き合って見たのかも知れない。
それだけのために利用したのかも知れない。
でも一緒にいるうちに段々主人公の事を好きになっていく飛鳥の純情さに胸が熱くなりました。
泣きながら告白するあのシーンは本当に良かったと思います。
主人公も先輩の事を飛鳥と一緒にいるうちに吹っ切れて、次第に惹かれて行く様がとても良かったです。
幸せともう一つ、この√で扱われていた事があります。「親子」です。
家庭環境が色々と複雑で、貧乏な家庭に産まれた飛鳥。
欲しいモノも満足に買えず、苦しい生活を過ごしていたある日に、母親に嫌いって言われて。
それが飛鳥には辛くて、耐えられなくて。別に貧乏でも良い。母親さえいれば幸せで。
母親もこんな事はしたくないけど、自分と同じ人生を歩まないように強くなって欲しいという想いがあって…。



確かに貧乏っていうのは不幸かも知れない。父親がいないっていうのは不幸かも知れない。
でも好きな・大切な人が一緒に居てくれれば、不幸な事も幸せに変わるんじゃないかと想いました。


飛鳥は本当にみるさんの方言が光り輝いていました。拍手上げたいぐらいに。
ちゅーをせがまれた時はもうニヤニヤが止まりませんでした。




蓬と飛鳥は恋愛に到るまでの話を描いた物語だと思います。




●奏√

「理由なんて詮索するのが無骨な、純真だったり。」

奈美と奏と司って本当にみんな似たもの同士だと思います。
臆病で、あと一歩が踏み出せなくて、関係が変わってしまうのが怖くて。
大好きだから、大切だから慎重になってしまう。慎重になりすぎてしまう。
奏は司の背中を見て、司は奈美の背中を見て、奈美は振り返りながらも別の方向を見ていて。
本当に歯車が合わないというか、恋愛って難しいなと思いました。
主人公は関係を壊したくないから、大切にしたいから、気づかないフリをして。
奏もずっと見続けてきたものが終わってしまうのが怖くて。勇気が出せなくて。
でももうチャンスを一度逃してるから。今しかチャンスが無いことがわかってるから。
だから告白する決意をして。もう一度頑張ってみようって思って。
詩に意味があることはわかってましたが、まさか縦読みだとは思ってませんでした。
それを知った瞬間何か凄い気持ちが溢れてきました。
ドキドキが溢れたというか、言葉にできない何かが。
本当に奏は司の事が、好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで大好きで。
その気持ちがものすごく伝わってきました。プレイしてる私にまで伝染っちゃいそうでした。
大袈裟かも知れないけど、ここまで主人公を好きなヒロインはあまり見たことがないくらいです。



まさにはーど純愛。純粋に愛。ああこれこそが純愛。
本当に心から満たされる√でした。
本当に奏が幸せそうで少し涙が出ちゃいました。
そして主人公盛りすぎ。



●七美√

まさにこれこそTRUEEND
蓬・飛鳥・奏√全てをまとめた√だと思います。



奈美に容姿が似ている七美に興味を持ち、関わり合って行く事で、奈美とは全然違うことに気が付きます。
結局、なぜ奈美と七美が似ているのかについてはわかっていませんが、私はもうひとりの奈美なのかな、なんて思ったりしてます。
七美が居る間は奈美が登場しなかったと言うのもありますが、1年前の祭りで短冊で書いた、「先輩が幸せになりますように―。」
そして、先輩に強くなって欲しいという思いで別れた、あの夜の出来事。
あれのおかげで先輩は人に想いを伝えるという事に臆病にならずにちゃんと前を向いて歩けました。
森先輩には振られてしまったけど、ちゃんと気持ちが言える。沢山泣いたけど後悔はなく、次に進むことが出来た。
本当に司に感謝している先輩が流星群に乗せて願った事ではないのでしょうか。
私は幸せになったから、次はツカちゃんの番だよと―。
色々と世界を曖昧に描いている描写がありましたが、あれはここの伏線になるんじゃないでしょうか。
なんじゃもんじゃの木は人の願いを宇宙に届ける―。これは先輩からの贈り物なんじゃないんでしょうか。
私はそう結論付けました。ちょっと電波っぽくなってしまいましたが。
でも、ここはプレイしたユーザーのご想像にお任せする部分だと思いますので、自分で考えて結論付ける所だと思います。



蓬は友達の中に居場所を見つけて―。
飛鳥は司が立ち直る姿を見て、母親と仲直りする事で幸せを見つけて―。
奏は振られてしまったけど、司が好きだから挫けずに自分を磨いて―。

最後の奏とのシーンがありましたが、私は奏じゃなくて奈美先輩と幸せになったんじゃないかなと思ってます。
あの頃はお互い自分自身が嫌いだった。
けどお互い挫折するたびに周りに支えて貰って。色んな事を経験して。自分自身がちょっとでも好きになって。
そんな二人だからこそ、次は逃げずにまっすぐ恋愛をできると思うんです。



―StartRain
七美を失って、また始まっていくこの世界での物語。
大事な人の居ない世界に意味はあるのだろうか。
幸せじゃない人生に意味はあるのだろうか。

―StarTRain
宇宙の旅する銀河鉄道。この鉄道が願いを宙に届けるんじゃないでしょうか。
みんなの想いが集まるこの鉄道の中、司は七美にこの世界の素晴らしさを知ります。
素敵な事は遠くではなく、近くに転がっているモノなんだよ―。

―StarTRain
StartRainで知った「絶望」StarTRainで知った「希望」それが合わさって産まれるスタートライン。始まり。
終わりと始まりは正反対だけど果てしなく近い―。



●総合的な感想
・音楽
OP曲もED曲も遊女さんが歌われていますが、とてもこのゲームの世界を表現出来ており、深い曲です。名曲だと思います。
BGMもとても田舎町を表現出来ており、凄く淡い曲が多いです。

・絵
キスCGがキャラごとであるというのは素晴らしいことだと思います。
質もとても良く、なんといっても髪のラインの書き方がとても好きです。

・キャラクター
どのキャラクターも最高です。みんな個性的でとてもかわいかったです。
中でもマイコとヒロキにはMVPを上げたい。
間違いなくこの作品のキーマンだと思います。そして楽しい日常をありがとう。


・全て
結構青臭くクセがある作品だと思いますが、本当に自分に重ねてしまった作品でした。
ギャグさえ合えば日常もあっという間にテンポよくサクサクいけてしまうあたりもGJ。
でもびっくりするほどパロディネタが多いですね。そして日付が変更されることにアイキャッチ的に出てくる黒板がマ○キチ。


こんなに深く、自分にとって意味のあるゲームは初めてでした。何度お礼を言っても足りません。
これだからエロゲはやめられないですよね。
mixed upさんはもう作品出さないんですかね。またやすゆき×七烏未奏×水原優の3人が関わった作品をプレイしたいです><


とても長文で拙い文章を書いてしまいましたが、最後まで読んでくださった方ありがとうございます。