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tarehyunさんのこの恋、青春により。の長文感想

ユーザー
tarehyun
ゲーム
この恋、青春により。
ブランド
MORE
得点
73
参照数
2099

一言コメント

いろいろと挑戦的な作品ですね

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

 知る人ぞ知る名作「ヒマワリと恋の記憶」を作ったメーカーであるMOREさんが新作として出してきた「この恋、青春により。」について、いろいろ思うところを述べていこうと思う次第です。前作ヒマ恋のネタバレも多分に含まれる感想になりますのでお気を付けください。











 さて、私がMOREさんの作品に触れるのはヒマ恋に続いて二作目なのですがメーカーに対しての期待していたものなんかをまずは一つ述べようかなと。私が思うに、ここのウリは何といっても「作品にかける想い、こだわり」だと思います。今まで発表した作品数も少なく、まだまだ駆け出しのメーカーなのでしょうが、このメーカーの作品には、一本の大きなテーマを設定し、拙いながらもそのテーマを描き切ろうとする「作品作りへのこだわり」が感じられます。私個人として、この姿勢が好きだなあと思って、「こだわりをもったMOREの新作」には注目していました。
 さらに言えば、前作での「また君に恋をする」という言葉の意味が明らかになる際の「見せ方の実直さ」と、先ほど述べた「こだわり」が結びつく形で、泥臭くも胸が熱くなるような、でもどことなくノスタルジックな、思い描く限りの理想的な学生時代、そんなものがうまく描けるメーカーであると私は思っていました。
 他にMOREに対しては、一種の思い切りの良さとでもいいましょうか、そういった点でも評価できると考えています。この手のゲームはある程度の本数をプレイしてきましたが、どうしてもヒロインにまつわるストーリーに隠しきれない格差というものが存在すると思います。例えばNableさんの「乙女理論とその周辺」、もうすぐ続編にあたる新作が出ると盛り上がっていますが、この作品のメインは間違いなくりそなでしょう。りそな、メリル、エッテの順にお話の良さが並べられるんじゃないかと、個人的には思います。このように見ると、一本のエロゲというものは、製作陣が書きたかった特定のお話を披露するためにあるともいえないでしょうかね?私個人の考えですが。
取りまとめますと、ストーリーの格差やお話の出来の差というものはどのエロゲでもあるということになります。それが相対的でも絶対的な評価でも、です。その考えを元にした時、このMOREというメーカーは実に思い切りがいいという話に戻ってきます。他に多数のメーカーさんの作品に触れてきましたが、どの作品も面白いものばかりでした。しかし、ルートごとの力の入れ方とでも言いましょうか、やはり偏りがあったり均等にどれも力を入れていたりと、メーカーにより、作品によりばらつきがあるのは確かな事実であるように感じます。その中でもMOREさんは、前作で言うのであれば特に「茜」に力を入れたことは容易に見て取れるように、単独のヒロインに注力するタイプのようです。その他のヒロインである「かなちゃん」や「汐里」のルートはどうにも数合わせ感が否めない、「亜依」は役割上重要であったため、先の二人よりも待遇は良いかも知れませんが、やはり主人公と添い遂げられないという点で、ヒロインよりもサブキャラとしての性格がプレイ後には目立ちます。MOREさんのこのようなヒロイン一人に全力投球(本作は野球も重要な構成要素でしたね)する姿勢と、作中の主人公の熱さが相まって私にはこのメーカーの作品には期待するようになっていました。ともすれば、他のヒロインの切り捨てかもしれませんが、本当に主題にしたいテーマを描くために一人に注力する作品作りの姿勢には評価できるものがあると思います。










 前置きが長くなってしまいましたが、それを踏まえて本作「この恋、青春により。」の感想を攻略順にいきましょう。







青春のすべてを、君と






若林奈央
 「いますよねえ・・・こういう子。」って思わせたいんですよね。まんまと引っかかってます。無気力気まぐれ刺々しい、となかなかヒロインとしてめんどくさそうな設定を背負わされてしまいました。ですが、こういった子の懐いてきた姿はエロゲプレイヤーの支配欲なんかを満たすにはうってつけなわけですね。「他の人には見せない一面を俺だけが知っている」ってやつです。ヒロインとの中が深まるにつれて当然のように、作中の他のキャラが知りえない一面を見て、より一層ヒロインの魅力に没入していくのがエロゲの常であると思いますが、この子も御多分に漏れずです。一年の時から主人公の活躍を陰ながら追っているような描写、なんだかんだと面倒見が良かったり、人の心の機微をうまく捉えている世渡り上手な一面であったりと、いろいろと見せてくれる魅力にどんどんと引き込まれていくわけです。奈央可愛いよ。
 抱えている彼女の課題は、「家族関係」。これに関しては、あるあるですよね。前のお父さんや今のお父さんとの関係性、自分の年齢、心の奥底にかすかにありそうな母への甘え。このくらいの歳で親が再婚なんてされるといろいろ悩むもんですよねえ。問題の解決法と言いますか、主人公君がとった行動やその結果なんかもあっさりしたものでした。まあ、予想の範囲内ですね。特筆しておくことはありませんが、前作のかなちゃんや汐里と似たような評価になるんじゃないかな。個人的にはこのキャラお気に入りで、登場一発目の「武下~、ねえねえ武下~」の脱力感はかなりお気に入り。他にも「~すんなし!」なんかのいかにもイマドキを意識したような口調はとても気に入っています。演技すごくいいですよ。一度は聴いてほしいものです。
 お気に入りのシーンはもちろん告白のシーンで、「死ねっ!」の何たる可愛さか。この子はプレイヤーを悶え死にさせる気か!とまさしくニヤニヤしたものです。これこそ、恋愛系のエロゲの魅力だよなあ、と。やはり、キャラの立ったキャラクターというものは、それこそ画面に登場して話をしているだけで満足感がありますよね。登場してこない時には、登場シーンを待ち焦がれ、登場した時には確かな満足が得られる。奈央ちゃんはまさしく、登場してくることが待ち遠しくなるキャラクターでした。
 ほかには、特に京子ルートでの活躍はさすがの一言ですね。詳細は京子の感想のところで述べようかと思います。ざっくりとした説明をするなら、彼女になって満足していた千春、千春が好きじゃないのに付き合っていた主人公君、自分の気持ちを隠してその間を取り持つ京子に大立ち回りを演じ、全員の目を覚まさせる「喝」を入れるんですよこの子。いやあ、痺れましたね。文化祭シーンなどのやる気のなさから空気の読めないキャラのように誤解されがちだと思いますが、実際には人の心の機微の感じられる子で、物怖じすることなくズバズバ意見を言うことができる。すごくいいキャラクターだと思います。







宮城野凛
 彼女の外見でなによりも目を引くのが髪の色。現実志向なのか髪色は黒や茶色の落ち着いたものが採用されている中での金髪はパッケージにおいても目を引きますね。どことなくミステリアスな雰囲気のある才女、彼女を一言でいうならこんなところでしょうか。
本作のヒロインの中で唯一、作品内時間が始まってからまっとうな出逢いをするという点でオンリーワンの立ち位置を持っています。前述の奈央は主人公が一年の時から、千春は二年から、京子はもっと前からの関係で、作品内時間が流れ始めるまでにある程度の関係性を構築しています。しかし、この子に関しては出逢いの段階から始まる。このことによって、クラスメイト→友人→気になる存在→恋人→生涯を誓い合う仲、と段階を踏んだすべてのステップを、プレイヤーである我々は見ることができるわけです。本作において、この遷移が見られるのは、凛だけ!とおいしいポジションにいることは間違いありませんね。
 さて、ストーリーを大まかに言いますと「進路と受験、自分がやりたいことと親の期待」あたりですかね。親からの期待に応えるため医学部を狙っている、でも本心としては服飾に興味がある。こういったケースでは親御さんとの仲が悪かったりするものですが、そういった事もなくある意味安心して見ていられますね。最終的に、主人公君の子種がクリーンヒットしてしまい(野球は重要な構成要素ですよ)、主人公君と子育て学生をすることに・・・という風な終り方ですね。優しい世界!ですよねぇ。その辺を突っついても全然面白くありませんし、これはこれでいいでしょう。
 この子の一番の見どころシーンは、クリスマスパーティ、通称クリパ(枯れない桜のある島の学園にこんなのありましたね)で、彼女が作ったドレスを着て二人が躍るところですかね。それまで知られてなかった彼女の魅力が衆目にさらされる、いわゆる晴れ舞台なわけですね。
 まー、奈央ちゃんに比べれば他のヒロインルートでのインパクトも強くありません。でも、だからこそ他のヒロインでは描けなかったことを表現する異色の存在として強く印象に残ること間違いなしなヒロインですね。好きです。浴衣姿、美しすぎます。あれは絶対に見逃してほしくないですね。フラグが分かりにくいですが、あのCGは絶対に見てほしいです。







泉千春
 さあ、来ましたね。多分本作の中でも一番か二番目に好き嫌いの分かれるキャラクターになってしまうんじゃないかと思います。黒髪ロングのお胸の大きい優等生さん。いやあ、盛ってきますねえ!OP始まるまでの短い登場シーンだけで、主人公が好きなことがまるわかりになってしまうくらいには分かりやすい子でした。私が本作を買おうと思ったのはゲームショップでこの子が描かれたポスターに一目惚れしたことがきっかけでした。そのくらいには外見のオーラ、持ってますね。
 さて、この子のお話は京子のお話との対のようなものになっていますね。主人公の気持ちが千春に向いているのか、京子に向いているのか。その違い(実際には好感度の高い方)が、分岐に影響してくる感じですね。千春ルートの場合、主人公と京子の間に入り込み京子から主人公を奪った、京子のことが好きだったかもしれない主人公の退路を断ってしまった贖罪の感情から表面上はお付き合いをするカップルとして、本当は体の関係がメインっていうのには、舞台設定の青春にはない背徳的香りがしてドキドキしました。しかもそれが、チャラついてそうな奈央なんかじゃなくてそういったことには縁遠そうな千春が、ってところに意外性を感じたものです。その後関係を続けていくうちに本当に好きになっていった主人公、アメリカに行くことが決まっている千春のすれ違いがメインとなっていきます。このあたりはまあ、落としどころとしてはいいのを設定したんじゃないかなーと。親の都合での転校のような、本人たちにはどうしようもない別れってのは有無を言わせぬ説得力がありますし。
 で、冒頭で書いた好き嫌いの分かれるヒロインだという話。特に、京子に肩入れする人にとっては、千春はもう、敵にしか思えなくなってしまうんですよねぇ。恋心にくぎを刺された挙句、アメリカに行くことが決まっているという切り札で協力せざるを得ない状況に京子を追い込んだ、と一面的な見方ではありますが、千春を見ることができます。この視点に立ったとき、千春はまあ悪者ですよね。三角関係描こうとするなら、どこかで悪役ポジションは必要になりますのでこれはこれでよいのかと。なによりも、このように千春に一種の小狡さや女社会的な抜け駆けなんかをさせたことはむしろ加点対象なんじゃないかと個人的には思います。やっぱり、エロゲのキャラってのは、特に最近の作品ばかりプレイしてきた私にとって、どこか理想的、でもある意味で男性好みにチューニングされてると思うんですね。やっぱり、キャラ売りをするのがメーカーにとっては楽に儲かりますからキャラクター性ってのは今の時代重要になっていることは諸兄には感じられることでしょう。その環境の中で、男性プレイヤーが嫌うような、女のどろどろとした世界の一端を垣間見ることができる千春の存在はかなり珍しいものなんじゃないかなーと思います。この辺もあって、好き嫌いの分かれるヒロインになってもおかしくないかなって思いますね。







青葉京子
 本作のメインヒロインちゃんですね。ありとあらゆる面で優遇されています。可愛いです。主人公と幼馴染で、野球部のマネージャーとして二人三脚気味に夢を追っかけています。
で、この子のルートで何が面白いかと言いますと、そりゃあもう千春と主人公と京子の三人での三角関係ですよね。ここからは京子ルートにおける一人ひとりの在り方でも見ていきましょうか。
 まず千春は、アメリカに行くことが決まっているので最後の学生生活を目いっぱい楽しもうと思っている。それは、二年生から始めた野球部のマネージャー業であり、主人公への恋心だったりするわけですね。で、前向きなのですが前項にも書いたように、京子の主人公への想いを知っていながらも京子に「主人公君が好きなの・・・」とくぎを刺しちゃうんですね。少女漫画なんかでよくあるやつです。ま、そこまであからさまにくぎを刺すような言い方ではありませんが。
 続いて主人公は、プレイヤーの私たち次第なところもありますが、京子ルートに入った場合には、昔から京子のことが好きだったようですね、はい。今までは野球を通じた仲でしたが、例の事件をきっかけに野球以外での付き合いを通して自分の心に気づいた、というところでしょうか。ですが、夏祭りの日に京子を誘って祭りに行くことを約束したはずが、偶然出くわした千春の告白を受けてしまうんですね。なんと言いましょうか、若さゆえの過ちですかねえ。
で、京子。この子もこの子で、自分の気持ちを殺して千春の応援をするんですが、野球を介さない主人公君との新しい付き合い方に、どんどん心惹かれていってしまうんですね。声優さんは、その優しさゆえに千春を応援するもどこか主人公を諦めきれてない感がよく表れている、いい演技をなさっているかと思います。
 で、結局は三人の気持ちが交差する三角関係になってしまうわけです。そのいびつな関係のやきもきする感覚はプレイ中にとても感じられました。具体的には(え!京子選び続けたのに、千春のルート入ってしまってる!?)という感じですかね。私のプレイ順では千春ルートとの違いが分かりましたので、そのまま進められましたが困惑する方も中にはいらっしゃるのではないかと。そんなやきもきする感覚のままあれよあれよと物語が展開されていき、迎えたのは文化祭。文化祭はこのゲームにおいて、かなり重要な意味を持ちます。詳細やその是非は後述しますが、本作はヒロインごとに違ったイベントが展開されるのではなく、決まったイベントを違うヒロインと過ごすとどうなるのかを楽しめるつくりになっています。ですから誰を選ぼうと文化祭はありますし、クリスマスパーティーも開かれます。受験もしますし、卒業まで描かれます。その中で隣に寄り添うヒロインが誰なのか、というのが本作の骨子なわけですね。話を戻しますと、文化祭というイベントは本作において重要なイベントであります。奈央ルートでは告白が、千春ルートでは京子と千春の間で揺れ動く自分への決別がなされたりとなかなかに山場なわけですね。そして、この京子ルートでは本番前の準備が特に念入りに描写されています。この段階では、まだ千春と主人公がお付き合いをしていて、クラスメイトがそれを冷やかしたり、気を遣って二人で作業できるように取り計らってくれたりします。何ともほほえましい状況ではありますが、主人公はもやもやしている風ですし、千春もなんだかおどおどしている。京子もいつも通りではない不穏な空気が漂っていました。 そこで切り込んだのが、われらがヒロイン奈央ちゃんなわけです。彼女は千春には「自己満足のために親友から主人公を盗った」と非難し、主人公には「千春の事好きじゃないんでしょ」と詰め寄るような劇的な行動をしてくれます。いやあ、スカッとしますねえ!どん詰まりになりそうな空気をドカーンとぶち壊してくれました。その後に当人たちは自身や相手と向き合うことで、あるべき形(主人公と京子がくっつく)に収まっていくんですね。その後は、なんだかんだと問題を迎えながらも愛を育んでいく二人の様子にニンマリできるでしょう。
 で、とりわけ私が京子ルートにおいて推したいシーン、いくつかあるんです。まず一つ目が、Missingが流れる夏祭りのシーン。これはよかったですねえ。京子と待ち合わせして祭りに行くことになっているんですが、そこに京子が現れない。京子は定期テスト前から形態を没収されていて連絡がつかない。主人公が待ちぼうけていると、そこに偶然千春が現れる。千春はそのまま主人公に告白し・・・というところで、京子が、下駄の鼻緒が切れ、はだしで息も絶え絶えになりながらも、待ち合わせ場所に現れる。その告白の場を見て京子が一言、「私って・・・本当に馬鹿だ・・・」ここで挿入歌Missingが流れ始める。すごくいいですよ、これ。泣いているんです、京子。千春を応援するとは言いつつも、やはり主人公が好きですし、その気持ちに蓋をすることができない。でも応援すると言った手前、千春に譲ろうと思っている。そんな中、夏祭りに誘われ喜び、当日になって遅れながらも主人公のもとにたどり着くと千春の告白現場。そこで、思い知るわけですね。自分の気持ちをごまかしてたことが馬鹿なことだったんだなあ、と。いやあ、たまりませんね。こう、キュンとします。甘酸っぱいです。京子の、不器用なりに強く彼を思う気持ちが痛いくらいに感じられるんですね。でも、親友千春とのことを考えると・・・という風なやりきれない気持ち、それが先ほどの一言に凝縮されているように感じます。
 もう一つのお気に入りのシーン。それは、最後のED内で、主人公と京子の出会いから現在までのダイジェストのCGが、これまたMissingに合わせて表示されるんですね。この演出!卑怯です。前作でもこの手法を使っていらっしゃったのですが、本当に卑怯です。こんなのグッと来ないわけがないんですね。作中で私たちが知る由もない「二人が積み重ねてきた時間の重み」というものは、往々にして強い説得力を持ちます。ついこの間出た、恋×シンアイ彼女のVFB内でライターの新島氏も「説得力を出すために時間を経過させた」との旨を述べていたように記憶しています。私が何を伝えたいのかと言いますと、主人公と京子は、それこそ千春や奈央や凛が入り込めないくらいに強い関係ですでに結ばれているということを強く感じさせられるつくりで、これは素晴らしいということです。出逢いの場面、主人公と京子が親に引き合わされる形で出会う。小学校低学年くらいのキャッチボールをする場面、主人公の方が下手ですね。さらに、主人公の方が、背が低いことが見て取れます。同じく低学年くらいで、二人で肩を組んで笑っている場面、仲良くなったんですねえ。ユニフォームを着て打席に京子マウンドに主人公が立っている場面、小学校高学年でしょうか。どんどん成長していきます。二人の身長も同じくらいになっています。中学校の制服の京子がユニフォームの主人公にノートを見せている場面、ここで主人公の背丈がはっきりと京子を上回りました。成長がひしひしと感じられます。同じく制服の京子が主人公にはちみつレモンをあげている場面、完全に主人公が京子を抜き去り、京子も女性らしく、主人公も男らしくなっています。そして、学園への入学のシーン。校門に向かって歩く二人の姿はもう・・・このあたりで、うるっときました。こんなの反則です。二人の青春模様をこれでもかと作中で見せられた後に、すでに二人の仲は子どもの時から強固なものだったと感じさせられる。一面的に見れば、確かに徒労なのかもしれません。でも、そこには確かにキャラが生きてきた歴史を感じさせられました。同時に、京子と主人公の関係にうらやましさや、あるべき姿に収まった二人の関係に、ある種の親心のような感情で、(よかったなあ!君ら!)とグッとくること間違いなしです。











 さて、ここまでで大まかだったり、ざっくりではありますが各キャラのルートごとの感想を述べてきましたが、ここからはシステムまわりや作品としての取り上げるべき観点なんかについて述べていこうと思います。


・行動選択
 はっきり言って、このレベルで仕上げてくるのであれば、無駄です。この手の行動選択マップは特にアマガミなんかだと分かりやすいと思うのですが、製作側にとってのフラグ管理が難しすぎます。何度も何度もデバッグ作業が必要になる、イベント数を増やさないといけなくなる、連続性が失われる、などデメリットを数多く含んでいます。これに、ランダム出現なんかの要素が入ってくると、さらに製作が難しくなります。MOREというメーカーの技術レベルでは正直言って、アマガミなんかのレベルの完成度には追いつけるものではないのかと思います。バッサリいうなら、技術力ないのに高望みしすぎです。選択回数が多いだけに、イベント数を増やさないといけないのは分かりますが、同じイベントを何度も見るのは興醒めですし、もっと言えば、休み時間1「犬の飼い主が決まった!」→放課後「飼い主探しのポスターを作ろう」なんていちばんやっちゃあいけないこともやらかしてます。行動選択することによって生み出されるなんらかの効果(アマガミならイベント収集率として表示される)も特にありませんし、物語重視の作品においては連続性が失われ話への没入感が失われます。私個人の意見は、これはあかんな、というところです。









・地の文、台詞
 エロゲメソッドとでも言いましょうか。序盤において常識として、「台詞とともに新規キャラが登場→主人公の独白のような形で、新規キャラのプロフィールが明かされる→情報を把握したうえでキャラ同士の掛け合いを楽しんでいく」という流れがあることは、ここに足を運ぶような諸兄には当然理解しておられることだろうと思います。えー、本作にはほぼ地の文がありません。ですのでこの常識は通用しません。突然現れた新規キャラが、いきなり下の名前あるいは苗字だけで呼ばれ、どういった立ち位置なのか説明されず、また各キャラとの関係性さえ不明なまま、物語の一員となっていく奇妙な感覚に襲われるでしょう。今の時代、どのような業種でもお客様への過剰ともいえる優しさ、サービスは当然となっています。エロゲ業界も例に漏れず、徹底して他の男キャラが登場しなかったり、NTRはもはや禁忌となっているくらいにはユーザに配慮された作品があふれています。その中で、このようなキャラ紹介のやり方は、比較しての話ですが、どうもぶん投げられたように感じてしまいます。地の文をなくして表現したかったこと、地の文をなくしたから説明できなくなったこと。この二つを見比べた時、前者でのプラス要素よりも、後者のマイナス要素の方がどうしても目立ってしまいます。それはなにも、キャラ紹介に限ったことではありません。各キャラが何を考え、どういう想いから発言しているのか。これが画面上から読み取れれば地の文をなくしたことにも効果があったと言えるでしょう。例えば、立ち絵の表情差分をもっともっと多く用意し、泣き顔にもバリエーションを持たせたりする。そうして、複雑なニュアンスを表現する際、台詞や立ち絵、音楽、声優さんの演技で賄うことができるのであれば地の文は必要なくなるのかもしれません。ですが、本作においてそれらの要素は充分であったとは言い難く、読み手であるプレイヤーは随所で置いてけぼりを食らってしまいます。特に顕著なのが、京子ルートにおいて千春とお付き合いを始めたところ。何の説明もなく、夏休みが終わると千春と付き合っているのは、本当に困惑してしまいます。これに関しても、試みたチャレンジ精神は賞賛に値しますが、結果は芳しくありません。




・バグ
 本作を語るうえで、避けては通れないのがバグのお話。フラグ管理はめちゃくちゃです。攻略順は前述のように感想を書いた順なのですが、最後の京子まで終わらせてアルバム(ギャラリーモード)を見てみると、千春のCGがなぜか消失・・・。千春を攻略した段階で、千春分のCGがすべてそろったことは確認していましたので、何らかのバグかなと。他には修正されましたが、奈央との休みの日に犬と遊びに行くデートにおいて、初期のバージョンではCGが表示されません。この辺のフラグ管理は最低限きっちりやってもらわないと・・・





・システム
 何人か書いてらっしゃる方もいるようですね。システム、特にセーブ周りが極悪です。何がひどいって、一番セーブしたくなる場所、行動選択マップにおいてセーブができない。これに尽きます。もうね、あほかなと。結局、セーブは勘で話が終わりそうなところを見極めてするほかありません。諦めてください(2016年5月16日段階)。
















 とまあ、いろいろ見ては来ましたがなかなかに評価が難しい作品であることに間違いありません。各キャラのストーリーなんかを見ていくと、ほどほどに良いものがあり、一定の満足感が得られるでしょう。京子に関しては、前作の茜に迫る勢いがあると個人的には思います。しかし、システム面や環境に目を向けてみると使いづらさや進行しにくさ、致命的なバグもあったりと苛立たされる部分があるのもまた事実です。エロゲとして作品に評価をつけるなら点数をつけるなら、ということで、私は本作には73点くらいの点数がつくのかなーと思います。点数のつけ方は私自身、感覚でやっているところがあるのでなんとも言い難いですが・・・
 感想を書くたびに言ってるような気もしますが、私はこの作品、好きですよとアピールはしておきます。
 長くなりましたが見て下さった方、ありがとうございました。