海己ゲー
・王道幼馴染の憂鬱
幼馴染キャラの中でも、長期間主人公との関係が持続しているヒロインを再会系・疎遠系幼馴染と区別して王道幼馴染と言う。
王道幼馴染は「朝起こしに行く」とか「家が隣りで家族ぐるみの付き合いがある」といった幼馴染キャラのテンプレ的要素をつめこみやすく
開始時点で他のどのヒロインよりも主人公と近しい関係にあることが多い。
とはいえ、エロゲーである以上はいくらアドバンテージがあろうと自分のルート以外では他のヒロインに敗北するし
そもそも、そこまで仲が良いのに何故ゲーム開始時点までに関係が進展しないのかという疑問がある。
主人公が鈍感だとか、誰かに遠慮していたとか色々考えられるが、あまりに主人公との仲を親密に書きすぎるとフィクションとしての不自然さが目立ち
主人公との距離を離すと王道幼馴染キャラの良さが生きないというところにジレンマがある。
その上元々仲が良いだけに攻略から外れると逆NTRのような後味の悪さも付きまとう、ある意味困った存在である。
・聖域型幼馴染
王道幼馴染の良さを生かしつつも「何故関係が進展しなかったのか」という疑問に対してそれなりに納得いく回答を見せたのが本作である。
海己は主人公に対してべったりを通り越した依存型の幼馴染で、攻略から外れると大荒れになるんじゃないかと心配になるが
あっさり引き下がるというかむしろ応援してくれる。
海己の望みは依存はするが現状維持志向であり、むしろ関係進展は拒否する。
その直接的な原因は親同士の駆け落ちと閉鎖的な田舎の環境だが、元々内向的な性格で自分から変化を起こすのが苦手な様子も伺える。
海己ルートに限らないがこのゲームは過去描写が大事にも関わらず全体的に淡泊な点が目立つのが残念。
いずれにせよ、主人公側からみると手を出したくても出せない「近くて遠い」聖域型の幼馴染であり、恋人ではないが特別な存在だという
幼馴染としての絶妙な立ち位置を上手く演出することに成功した。
自分以外のルートでもところどころ存在感を発揮しており、本作の影のメインヒロインとも真のメインヒロインとも評価できる。
・めんどくさいほどかわいい?
なお、こうした変化球的な幼馴染シナリオに加えて海己のキャラ自体にも工夫がある。
海己の性格は、優しい、おっとり、世話焼き、家事好きと来てどこにでもいそうなタイプのヒロインに見えるが、一方で非常に強情な一面がある。
こうしたおっとりしたキャラは大概押しが弱く、従順であるはずだが、海己は作中で最も我が強い。
この性格は作中で空気が読めないと何度も言及される通り欠点にもなり得るが、一方でどこにでもいる大人しいテンプレキャラ化することを避け、意外性のあるキャラとして印象づける効果も担っている
この結果「控えめで世話焼きな正妻」と「強情で危うい依存型ヒロイン」が共存した印象に残るキャラに仕上がっている。
ヒロインの欠点を描くことは美点を描くより大概難しいが、本作では上手くシナリオに生かすことができたので成功だと言えるだろう。