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tanisigeさんの終わる世界とバースデイの長文感想

ユーザー
tanisige
ゲーム
終わる世界とバースデイ
ブランド
コットンソフト
得点
90
参照数
286

一言コメント

妹ゲー

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

【総評】
本ゲームには、SF、終末(思想)、パニックホラーと様々な属性があるが
一つだけゲームの特徴を挙げろと言われたら妹ゲーだと答えるだろう。

シナリオとしてはループゲーを基本としたSFモノで、コンピュータが構成している仮想空間の
ループを体験するということ自体はさして斬新な設定でもない。
ループの終着を世界の終末に繋げたのは緊張感を醸し出す効果はあったが中心的テーマというわけではない。
本作品の魅力はそうしたループ構造やホラー的な特徴よりも、キャラ描写にあると思われる。
メインヒロインの入莉は、弱視という障害者設定に加えて、兄の事故死で主人公を兄と見分けがつかなくなっているという
最初の時点でかなり痛々しい状況であり、本来は幼馴染であって妹ではないが
この主人公と妹の偽兄妹にどこまで感情移入できるかがポイントになるだろう。
早い話がプレイヤーも兄のようになった気持ちで入莉を見れるかどうかが問題だ。

最初の入莉ルートであるカサンドラシンドロームは大量に伏線が張ってあって、ミステリー物としても面白いが
なんといっても最後の引きが強烈で、すぐに次のルートに行きたくなる衝動に駆られる。
基本的に前半の入莉の話は不幸妹の不憫な話が圧倒的で、痛々しさに拍車がかかるが
後半のTrueルートに入るとただ守られているだけだった入莉が主体的に動き出し、人格も安定するようになる。
作中内ゲームの目的が人工意識の育成だったように、入莉もゲームの進行に応じて成長したことが感じられる。
残念だったのが、この成長がゲームの進行と共にプレイヤーにも着実に実感できれば良かったが
カサンドラシンドロームを終えた後Trueに入るといきなり成長したように感じられたことだった。
ただ他キャラルートでは入莉はメインにはならないのでそこに焦点をあてるわけにはいかないのは
構成上やむをえないところか。
いずれにせよ、過去の死者を投影し弱々しい庇護対象だった偽妹である「入莉」が
最後は自立した人格を持った本当の妹である「イリ」へと転生した姿こそ
このゲームを真の妹ゲーに仕立てた最大の要素だった。

【死者蘇生】
死者蘇生というテーマは色んな切り口で扱われているテーマだが、このゲームの場合
コンピュータによって人格を再現する是非が問われることになる。
コンピュータによって作られた人工意識で死者を「蘇生」させるのはただの欺瞞なのか
人工意識は人間と言えるのかという道徳的テーマが成立する。
ゲーム中ではそこまで実現されなかったが、たとえば人工意識を入莉のクローンにあてはめたら
まさに魂も身体も「入莉」を再現したことになる。それでも、それは「入莉」ではないと否定できるかどうか。
ゲーム中では、最終的に「イリ」が人工意識と自覚することにより、新たなアイデンティティが生まれることで
入莉の代替という立場は否定されたが、創造者であるトウヤ達がそう割り切れたかどうか決着がついたとまでは言えない。

人工意識が死者を投影した産物であったとしても、成長を経て新たに生まれ変わった「冬谷イリ」が
現実世界でも何らかの形で受け入れられるエンドがあっても良かったとは思う。
とはいえ、"Happy Barthday"で締めくくった本作のTrueエンドの余韻はED曲と共に素晴らしい出来だったのは間違いない。
最後の締め方が如何に重要か再認識させられたゲームだった。

・システム面

ゲーム中のSNSに関しては最初は微妙かと思ったが、思ったよりワンポイントとして上手く生きていた。
これがただのワンポイントではなく、ゲームシステムとして本格的に使えたらかなり面白くなるだろう。