ErogameScape -エロゲー批評空間-

tanisigeさんの古色迷宮輪舞曲 ~HISTOIRE DE DESTIN~の長文感想

ユーザー
tanisige
ゲーム
古色迷宮輪舞曲 ~HISTOIRE DE DESTIN~
ブランド
Yatagarasu(八咫鴉)
得点
90
参照数
911

一言コメント

フローチャートの迷宮

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

【総評】
「狂った運命の輪」と称される1週間のループを繰り返すゲーム。
システム的にはエロゲーでは珍しいオートセーブを採用しており
自由にロードが出来ない代わりに、時間移動が可能な特殊な
フローチャートを行き来しながらシナリオを進めていくのが特徴のゲーム。
エロゲーだがエロは本当におまけで、ヒロインは実質1人(サキと咲を別にしても2人)と潔いが
その分「運命の輪」に集中することが出来て無駄な色気を出さずに良かったと思われる。
システムも手間がかかる部分はあるが、ただ形だけの選択肢を選ぶだけの
実質ビジュアルノベルのエロゲーが多い中で、これだけ凝った作りをしようと
考えた意欲は特筆できる。

【システム】
システム面の大きな特徴として挙げられるのがキーワードシステムだが
これは正直デメリットが目立った。シナリオの進行と共にキーワードを拾っていき
要所で選択肢の代わりにキーワードを使っていくわけだが、ダミーキーワードが
無駄に多くてヒントを使わないと難易度が高い上に、失敗すると運命量が減っていく為
変なところでシナリオが中断されて巻き戻される場面が目立つ。
特に序盤はキャラの運命量が安定しない上にゲームに慣れていなくて
失敗しやすいので、シナリオがぶつ切りにされる感覚が強い。
キーワード自体もあまり面白味や意外性がなく、ただ地雷を避けるための
作業といった趣が強い。またシナリオ上の大きな分岐点(細かいのはそこそこあったが)が少ないため
キーワードを使う自由度も比較的低い。


もう一つの特徴である特殊なフローチャートについては時間移動を繰り返す
ループゲーのシナリオと組み合わさって、非常に雰囲気が出ていた。
運命量の増減が少々シビアな代わりに巻き戻るデメリットがクリックを数回する程度と軽い為
少しループの重みが薄いのは残念(その代わりに「全てをなかったことにする」
という特大の地雷が一つ仕込まれているが)。
分岐を増やしてプレイの自由度を増やし、運命量の増減を単純なキーワードのミスで
管理するのではなくプレイヤーの選択で管理できるようにすると
かなり面白いシステムになったと思われる。

【シナリオ】
 ループゲー、メタフィクション、妹ゲー、狂気・猟奇と色んな要素を詰め込んでいるが
このゲームのシナリオ上のテーマは「一つを得る為に他のすべてを捨てる葛藤」にあると言える。
これは結局ループ構造から脱却しなければ何もなし得ないので、目的を達成する為には
手段を選ばなくなるという話だが、三月ウサギの狂気と合わさってかなり
極端な形でループ構造の非人道性が表れている。ループを繰り返すことで
人間の死や過去が相対化され、ループしている主体に人間性が失われるというのは
よくある展開だが、ここで少し面白いのはゲーム中の大半はループが生まれる大元である
妹を助けるという動機で主人公は動いていないことだ。(そもそも妹の存在自体が途中まで隠されていたが)
普通なら「妹を助ける為に全てを犠牲にする」という動機でループを繰り返しそうだが
(美月は実際このタイプだった)、主人公の場合にはループの原因が謎で強制的に
ループしていただけなのが、徐々にループに主体性が生まれる方向に
シフトしていくのが特徴である。ループゲーとしては何故ループが発生しているかという理屈よりも
演出面を重視した作品と言えるだろう。


和奏と一葉は不遇中の不遇なキャラだが、せめておまけ程度でも個別エンドが用意されていたのが2人に対する手向け。