ダークホース
絵柄やパッケージをみるとハーレム萌えげーらしい装いだが
公式HPにわざわざ「悪夢と終末のハーレム」って書いてある通り、ただのハーレムではない。
序盤から例の塔を含めて伏線を張りまくりだし、BGMも怖いし、哀愁を感じさせる「春よ来い」も不気味に感じる。
とにかく謎の世界の正体は何なのか、キャラクターと一緒にプレイヤーも予想することが、このゲームの基本的な楽しみ方だろう。
前半の秋桜まではサスペンスゲーで、冬音編の後半から一気にSFモノにシフトする為、前後半で大分趣が違うのもこのゲームの特徴だ。
このゲームの長所は地味だが細かな演出面にあると評価できる。
「24」っぽい演出の「○日目」という日付の表示により、シナリオ上の焦点が「時間」に当たっていることが暗示され
また、時間の経過でどのようなことが起こるかプレイヤーの想像力を掻き立て、一種の緊張感を生み出す効果がある。
またあえて、「1日目」からでなく「春休み」の途中から始めるというのもポイントだろう。
「1日目」から始まるのであれば、プレイヤーは単純に時間の経過としか捉えないだろうが
途中から始まることで、この日付の表示というのは一体どういう意味があるのか最初から穿って見ることになる。
このようにただ文字で伏線を張るだけでなく、演出を含めて不気味な世界観を醸し出しているところが、このゲームの最大の長所だと思われる。
もう一つの特徴は言うまでもなく人工的に形成された閉鎖空間でのループ構造である。
ループゲーの定番である気が狂うほどに多くのループが繰り返されることで
ループ構造の非人間性が際立つわけだが、本作の場合種の保存がそもそもの目的なので
ループ内で暮らすキャラ達の生活は人為的に意味のないものにされている。
どんなにプロローグで確固としたハーレムを築いても、春休みが終わればまた全てリセットされてしまうわけで
物質としては不老不死でも、人物としてはループが終わることで毎回死んでいるに等しいということだ。
途中のループ描写で、キャラクターの性格が通常と全く異なる様子が出ていたのも、そうしたループに潜む無常観を表している。
その一方毎回死んでいるキャラクターはむしろ幸福な方で、記憶を引き継がなければならない立場の
冬音やその後継者の主人公の方が精神が限界を迎えるほど不幸だったというのも、ループ構造の残酷さを見せつけている。
ループ構造における狂気をどう表現するかはループゲーの見所の為、そこを妥協せずにしつこく描いたのは高評価となる。
ループ構造をタイムワープ(タイムリープ)以外で一応科学的な説明をつけているのも特徴的だが
SFモノとしての評価は正直難しいところ。
最終的にループ構造を脱出して、人類として新たに歩み出すという締め方自体は良いのだが
直接事態を解決した主体はAIで、主人公たちは受け身に近い立場なので、若干肩すかしというかあっけない気はした。
とはいえ、少なくとも静夏編の最初まではトップクラスに面白かったのは確かである。