それでも、ここは楽園だったよ。
物語の冒頭から中盤までの勢いは引き込まれるものがありました。
気がつけばそこは一面の翠の海。行き着いた洋館での見知らぬ人々との共同生活。
みちる曰く「楽園」で半永久的に繰り返される平和な日常。
一方であるはずのないものがあり、昨日までいた人がいなかったことになっている狂気的な日常。
そんな平穏の中に隠された狂気が、おぞましい過去を鍵に上手く表現されています。
表には出さないそれぞれの思惑と、水面下でのやりとりは見ものです。
裏の顔が垣間見えるとぞくっとします。
物語のターニングポイントは過去と向き合うか否か。
向き合うならどのような着地点を模索するか。
バッドエンドも含め、多くのエンディングがあるのでさまざまな視点から楽しめます。
いずれの選択をしようにもやはりここは「楽園」だといえる不思議。
当初は他人の犠牲で成り立つ「監獄」のような場所が、
「楽園」のはずがないと意気込んでいたのですが・・・。
しかし自分が望んでも手に入らなかった幸せが実現した場所を守るためだと考えると、
やはり複雑な気分になります。悩み、苦しむからなおさら。
もちろん人殺しは許されるものではありませんが、楽園ってそんなものじゃあないのかな、と。
十人十色なら理想の楽園像もそれだけあるということか・・・色々考えさせられました。
話自体は悪くないのですが、なんというか物足りない気が。
エンディングの多さのせいか、どのルートも短めでパンチ力に欠けます。
楽園に留まるにせよ、出るにせよ、どういう過程でそうなったのか丁寧に描いてほしかったです。
特に楽園から脱出する際の過程はかなり飛び飛びでついていけませんでした。
主人公やみちる、知紗を長く苦しめてきた元凶がこうも簡単に解決してしまうとはなんとも。
ということでキャラに入れ込む余裕がなく、
バッドエンドとつらい過去を吐露する場面がやたら印象に残ってしまいました。
いっそのことエンディング数を減らすのもありだったのかもしれません。
ちなみにエロシーンはメイン3回、サブ2回でおまけもあるよって感じです。
サブあるのは嬉しいです。
では最後にその他の点について。
まずグラフィックは安心のさえき北都氏。流石というか、レベル高すぎです。
美しく、そしてエロい。表情のバリエーションも豊かで、口元まで描く丁寧さ。
ダークモードにスイッチ入ったときの表情は鳥肌ものです。
次にサウンドについてですが、こちらも総じてレベル高いです。
特にBGMは温かいようで冷たい雰囲気にぴったり合った名曲ぞろいです。
クライマックスでの「別れの旋律」は切な過ぎて泣けてきます。
そしてCVですが申し分のない演技力です。表と裏の顔を見事に演じ切ってます。
おかげで話に集中することができました。
演出やシステムは普通です。
カードモードで話の全体像が把握できるのはいい試みではないかと。
最初はてっきりミニゲームでもあるのかと思いました。
それはともかく管理者権限でプレイしないと、
セーブどころかエラーで強制終了してしまうのはちょっぴり不便です。
しばしばそのことを忘れて起動することがあったもので。
どこかぎこちなさを感じさせますが、
プレイヤーを楽しませようとする熱意が伝わってくる作品です。
処女作にしては上出来でしょう。次回も期待です!
沙羅なめてました。あの絶妙なツンデレは最高です。