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talkshowhostさんの夏神楽の長文感想

ユーザー
talkshowhost
ゲーム
夏神楽
ブランド
でぼの巣製作所
得点
64
参照数
1259

一言コメント

ミニSLG付き陵辱ゲー。途中で人物設定の元ネタに気付き、俄然やる気UP!でも物語には活かされておらず、しょんぼり

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

03年度オリジナル版経験者には不評のようですが、そちらは未プレイ。

同ブランドの神楽道中記想のライトな陵辱が好みだった自分にとっては、エロ傾向が同じ系統である本作も期待を大きく外れるものではありませんでした。
ただ、巫女姉妹以外のサブキャラが2人しかおらず、しかもその2人がエロ薄なので、ちょっと幅が足りない。
葉子さんとのエロがアッと言う間に終わってしまうのも肩透かしでした。
全体として期待から外れはしなかったけれども、上回ることもなかったという印象です。

ゲーム部分はキャンペーンMAPクリア型の戦術級SLGで、ユニットの能力は進行度合いに応じて固定されており、SRPGのような成長要素はありません。
難易度はNormal、Easy、Very Easyの3段階。
ヒロインユニットの敗北で陵辱発生なのですが、取り敢えず初周は行けるところまで本気でプレイしてみようとNormalに挑んだところ、すんなりEDまで敗北無しのまま到達できました。
全てのユニットは3属性3すくみの関係にあり、その補正がかなり大きいため、これにさえ気をつけていれば、常に優位に攻略を進めることが出来ます。
ユニットの強さ固定、すくみ補正大の二点により、力押しは難しく、ゲームバランスはぬるめながらも良い感じでした。
ただ、中ボス戦x1とラスボス戦を含めて全21面と、ヴォリュームが少な目。終盤まで進んでもMAPはそれほど広くないので、ゲーム部分に重きを置いて楽しみたい人にはきっと不向き。
あくまでSLG風ミニゲームが付いてくる抜きゲーと思った方がいいと思います。
それと、敗北エロとSLGの食い合わせは、ローグ形式に比べると相性好くないんじゃないかと。回収に手間がかかってしょうがない。

シナリオは16Pの読み切りマンガなみに短く、見所もこれといって特に無いです。
ただ、最初のうちは鼻糞ほじりながら読んでたんですが、過去の夢を見るシーンに桂姫と初花姫という名前が出てきてビックリ。
九尾狐にまつわる物語で桂姫と初花姫が出てくると言えば、『玉藻前曦袂(たまものまえあさひのたもと)』!!!
桂姫、初花姫を筆頭に、安倍泰成、藤原道春、薄雲皇子、獅子王の剣といったゲーム内に出てくる設定の数々。これ全部『玉藻前~』に出ているものなんですよねぇ。
なお、初花姫はゲームではハツカですが『玉藻前~』ではハツハナ、薄雲皇子はゲームではハグモですが『玉藻前~』ではウスグモと読みます。

以下、ゲームとは関係ない話たくさん。

『玉藻前~』は19世初頭、江戸時代の文化年間に書かれた人形浄瑠璃芝居です。
成立の経緯をサクッと説明すると、18世紀半ばにオリジナルの『玉藻前~』が上演され、
そこから約50年後に九尾狐ネタの読み本が大ヒットしたのを受け、
読み本の設定を新たに加えたリニューアル版が上演され、それが現在にも伝わっています。
全五段構成で、登場人物がひじょうに多く入り組んだ物語なので、ザックリ要約した粗筋を次に記します。

序段は天竺。金毛九尾は王をたぶらかすも獅子王の剣の化身に見破られ東に逃げる。
二段目は殷の時代の中国。九尾は妲己にとりつき紂王を唆すが、太公望に神鏡でもって陰謀を暴かれ、さらに東へ逃げる。
三段目から日本。ここからが『玉藻前~』のメイン部分となります。
鳥羽天皇の兄である薄雲皇子は叛逆を企て、忠臣藤原道春を失脚させるため、彼から獅子王の剣を盗み出す。
剣を紛失した道春はその責を負わされ、娘桂姫の首を差し出すよう皇子に迫られる。桂姫は陰陽師安倍泰成の弟采女之助と恋愛関係にある。
桂姫の妹初花姫は姉の身代わりを申し出るが、結局桂姫が犠牲になってしまう。
四段目。初花姫は入内して名を玉藻前と変えるも、金毛九尾に取り憑かれる。薄雲皇子と金毛九尾はお互いの目的が一致し手を結ぶ。
一方、那須野では、天皇方の武将である三浦介義明と上総介広常の2人の活躍と少なからぬ犠牲により、獅子王の剣が取り戻される。
五段目。薄雲皇子は鳥羽天皇に代わって内裏の実権を握る。
皇子の愛妾の一人が安倍采女之助と通じ、皇子の所持する太公望の神鏡を彼に託す。愛妾は皇子によって殺される。
安倍泰成は獅子王の剣の威徳をもって玉藻前の正体を看破。剣と鏡の力が揃い、ついに金毛九尾は那須野ヶ原で殺生石となる。
玉藻前の助けを失った薄雲皇子の野望は潰え、大団円を迎える。

だいたいこんな感じなのですが、お分かりいただけるように、
姉の桂姫が犠牲となり妹の初花姫が九尾狐に取り憑かれるという設定は『玉藻前~』に依拠しているのです。
異なるのは、桂姫の恋人が安倍泰成ではなく、その弟采女之助になっている点でしょうか。
いずれにしろ、夏神楽の設定が『玉藻前~』を元ネタとしていることは確かでしょう。
数ある殺生石伝説ですが、桂と初花の姉妹が登場する他の物語は寡聞にして知りません。いや、あるのかもしんないですけど……。
もしご存知の方いらっしゃったらお教え下さい。お願いします。まぁこの感想読んでる方いればね。

『玉藻前~』は人形浄瑠璃以外に歌舞伎にも移入され、基本的に三段目の切(※注)の藤原道春館の場のみが上演されました。
『玉藻前~』の三段目ということで、俗に「玉三」(たまさん)と呼ばれています。
近年は歌舞伎での上演は稀となり、平成3年を最後に上演が途絶えています。
人形浄瑠璃では昨2015年に三段目から五段目にかけて(四段目の切を除く)が上演されました。
素浄瑠璃でも好事家から愛好されていると聞きます。

※注:基本的に浄瑠璃の一段は、端場(はば)と呼ばれる導入部と、切(きり)と呼ばれる中心部に分けて語られる。

話を戻しますが、夏神楽が『玉藻前~』の設定を取り入れているのに気付いた時は、ビックリしたと同時に嬉しかったのです。
そもそもエロゲと浄瑠璃という異なる趣味がリンクするなんて、今まで無かった事ですし、
しかも浄瑠璃のフィールドでも近松の諸作品とか『仮名手本忠臣蔵』みたいなメジャー級ビッグタイトルに比べずっとマイナーな作品が取り上げられるなんて奇跡みたいに思えたんです。
ところが、ところが、せっかくの設定が全然活かされずシナリオが盛り上がらない……。
輪廻の過去は過去、今の俺たちとは無関係だ!って主人公が決意するのはいいんだけど、、
マジで一切なんの影響も話に及ぼさないと、じゃあなんで過去を夢で見るなんて思わせぶりな展開を盛り込んだんだよ!と突っ込みたくなります。
初花の葛藤とか獅子王の覚醒とか、もうちょっとやりようがあったでしょと思える場面多数でした。