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taken178さんの世界と世界の真ん中での長文感想

ユーザー
taken178
ゲーム
世界と世界の真ん中で
ブランド
Lump of Sugar
得点
85
参照数
154

一言コメント

「距離」というと物理的な道のりを思い浮かべますが、「距離感」と言うと心理的な尺度に聞こえてきます。これはそんな「距離と距離感」を題材にした人間のお話です。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

世界と世界の真ん中で、ですが実際に遊んだのは発売当時です。
最近これくしょんとして最新OS対応で再販したのを機に再プレイしました。

世界と世界の真ん中では、行き場を失った感情が集う天球儀の世界の話という、
ちょっと不思議な世界を舞台に話が進みますが、
そこで語られることはむしろごくごく普通の人間らしい悩みと言えます。

まずは各ルートの簡単な私見を。

美紀ルート:
特殊な三角関係に悩む話です。友達の距離、それからもう一人の自分のとの距離。
もう一人の自分は双子の姉妹か、それとも鏡に映った自分自身なのか。
そんな悩みを抱える中で、同性でありながらも友達の距離から一歩詰めようとしてくる先輩。
2点を繋ぐことで測れた距離は、実数世界で1点に重なり合ってしまったことで不確定になってしまう。
それを天球儀世界という向かい側の象限に点を再び置くことでお互いの間に距離が生まれ、
お互いの気持ちを伝えることができた。という話。

この話、最初は三角関係だったような気がするけど、二人のみのりの話だけで終わってない?と思いましたが、
再度読んでみたら、「生徒会のメンバーが新しくこの世界に来た感情を迎えにいっている」という記述がありました。

もしかしたら赤い髪の彼女でしょうか。もしそうであれば、彼女の後悔もこの世界で昇華されて、
みのりの旅立った先に辿り着けることを願います。

愛良ルート:
愛良かわいいですよね?僕もそう思います。
歌との距離というよりは、自分の好きなこととの距離ですね。
愛良は歌で友人との距離を縮め、そして歌で友人との距離が遠ざかってしまいます。
やがて、自分の本当にやりたいことがわからなくなり、
彼女は一番近くにあった歌を一度遠ざけます。
そして、間にできた距離から再び歌そのもの、「歌う」ということを見つめ直し、
自身が何のために歌っていたのかに気づきます。

僕が愛良が何となくシンパシーを感じている部分が、
愛良は他人との関係に何かしらの物事が入っていることが見受けられます。

それは智香との関係では歌であり、連理との関係では最初は彫刻でした。
私自身も共通の趣味を持った者同士でばかり話をすると思っていますが、
結局好きなものを通してでしかお互いの距離が測れないからなのかもしれないなと。

ある意味、間に何も挟まずにグイグイ来る美紀みたいな存在が
一番貴重で大切にすべき友なのかもしれません。

遥ルート:
今作のケモミミ枠ですが、遥さんはキツネです。
遥さんの数学者との同居シーンでもらえる星座が「こぎつね座」なのと
「みゃおー」のイントネーションがキツネの鳴き声だからです。
(Youtubeでキツネの鳴き声で検索すると出てきます。かわいい)

あと根拠はないですが、なんとなく獣に拘ってそうなブランドで、
「あの尻尾でネコ科はないかな・・・?」という個人的な見解ですかね。
※ふさふさの尻尾の猫もいますが。

さて、彼女は距離そのものの答えを導き出そうとしていましたが、
その動機は数学者の出した答えを知りたいというものです。

ある意味彼女も愛良と同じで、数学者との距離を測る為に数式の答えが知りたかったのではないかと。
動物って人間のやることにいろいろ興味を持っていそうだという印象がありますが、
もしかしたら彼女のスナック菓子が好きなところも、子狐時代の憧れだったのかもしれません。

また、遥さんを筆頭に、本作は「二人きりでじっと静かな時間を共有する」というものが度々ありますが、
恐らく「互いの関係を距離で表現している」ことに他ならないと思います。
言葉はなくても、距離でわかる。その距離の答えに遥さんは辿り着きました。

小々路ルート:
魂の妹小々路ルート、もとい連理ルートです。
厳密には違うところではありましたが、妹という距離から恋人という距離へ変わるというもの。
それから、居場所は例え遠くたって心が決して離れることはない。そういった心の距離の話でした。
病室の小々路は連理を通して距離を知り、また連理は木の上から小々路を通して距離を知ります。

なぜ小々路が最初の出会いの時点で連理を認識できたかと言うと、それは後に天球儀の目となるからであり、
連理が屋根裏で鍵を入手できたのは、現実世界で数学者と出会った縁があったからと考えます。

天球儀世界は現実の時間軸に囚われない部分があるので、因果関係が前後していますが、
小々路が特別な存在とされている一番大きな理由が、
連理と天球儀世界で結ばれたからなのではないかというのが個人的な見解です。


<考察>

◆天球儀世界とは何だったのか

天球儀というものは、外側から見ると星空の鏡写しになっていますが、
これは天球儀の内側に大地を想定してそこから外側の天球儀上の星の方向の遥か彼方に
実際の星があるという見方になります。
これは、我々の世界を透視天球儀の内部と考えた時に
外側を全て天球儀世界が覆っているカタチになっていると言えます。

ここでもう1つ。天球儀世界は現実世界の時間軸に関わらず干渉できることから、
天球儀世界は点であり、そこから現実世界の全てを見渡せるようにできているのではないかと考えます。
外を覆っている天球儀は裏返して球体となっており、
大地だった部分を裏返して、球体となった天球儀の全天に広げた形となっている。
これが天球儀世界から見た、現実世界との世界構造の関係ではないでしょうか。

また、天球儀世界は平行世界と呼ばれる、いわゆる「現実とは異なる現実」ではなくて、
「現実世界と天球儀世界という2つで1つの現実」なのではないかと考えています。

天球儀世界の成り立ちに関しては、ある二つの感情がぶつかってと本編で示されましたが、
感情には質量があります。強い想いはとても「重い」です。
例えば深すぎる愛情のことを「重い」と表現することがありますが、
これを基に感情には質量があるというように考えると、質量を持つものですから引力が生まれます。
そんな質量を持つ感情同士が引かれ合って生まれた世界が天球儀世界です。
これも、元を辿ればヒトという生き物が感情を獲得し頭の中で考えること、
「思想」ができるようになったからこそ、天球儀世界は生まれたのではないでしょうか。

ところで、この「ある二つの感情がぶつかって」の部分は、
恐らく最初の人類二人の感情がぶつかってできた結果だと考えます。
なので、恐らく天球儀世界とは宗教的には天国とか、神さまとか言われているものかもしれません。

ただ、この辺りはキーパーソンに「数学者」を添えた作品だという点で、
観念的なものではなく、観測できる事象であり、
人類が人類だったときからいつも傍にいて見守っていた"そういうもの"で、
はっきりと認識される以前は超常的なものだと思われていただけ。
という風に読み解きたいです。

かつて宗教のものだったかもしれない、最初から近くにあったその世界は何と形容すればよいのかというと。
「現実世界の隣人」と形容するのが最もらしいのではないでしょうか。

◆「世界と世界の真ん中で」というタイトル

世界と世界の真ん中にある層、それが天球儀世界でした。
では、何と何が世界だったのでしょうか。
それは「人」だったのではないかと思います。
人はそれぞれ認識や価値観に違いがあり、それぞれの世界を持っています。
そして、世界と世界=人と人のコミュニケーションには言葉が用いられますが、
もっと重要な要素があります。

それが「感情」です。

人と人とのやり取りで発生したディスコミュニケーションによって、
行き場を無くした感情が行き着く先。それが天球儀でした。

孤独では距離が測れない。それを、天球儀世界という不思議な世界を点として用意することで、
その距離を改めて俯瞰し、悩み、考える。
結局この作品が語りかけているものは、人と人との間の距離「人間」についての話なのだと結論づけます。

世界と世界の真ん中で、人と人との感情のやりとりを静かに見守っている。
まるで、"夜空でいつも、そっと輝く星のように"。


<まとめ>

世界と世界の真ん中では、はっきりいってランプオブシュガーの作品群の中では
突っ込んだ設定まで読み解こうとするとパッと見より難解だと思います。
現実の学者や実業家などと照らし合わせての考察もあるように、作品のポテンシャルはかなり高いです。

しかしながら、不思議で非常に魅力的な世界観を持ちつつも
語られる内容は、年頃の少年少女の、人間として当然の悩みや望みについて描かれたものでした。

現実と少し違う価値観の世界で、現実にもある悩みを抱え、それについて考え、結論を出す。
この作風は初代タイトルのナーサリィライムから続く、ランプオブシュガーの色であり、
そういった意味で「ランプオブシュガーらしい作品」と自分は考えています。

「キャラがかわいいだけじゃないんだぞ」というのは本当に声を大きくして伝えたい。