フルプラの価値はあり！
体験版当初の期待値を上回ってきた、安定のシナリオが好印象でした。
過去には『蒼の彼方のフォーリズム』『穢翼のユースティア』『車輪の国、向日葵の少女』など、シナリオ重視と言われる作品を好んでプレイしてきているので、今回もその匂いを察知して発売日に購入となりました。
とはいえ、今回の作品は上記に挙げたどれよりも点数は下回る出来と言えます。比べる対象のハードルが高すぎると言えばそれまでですが、あるいは勝るとも劣らないほどの出来と言えるのではと、そのくらいの期待感を抱かせた作品でした。
最初に言っておくと、エロとしての要素は限りなく薄く、少ないと思います。主人公が早漏のためすぐにエロシーンは終わりがちですし、シナリオの邪魔にならないよう、制作側で意図されている感じがあります。シーン自体を無難なところに置いて、できるだけシナリオへの没入感から遠ざからないようにという配慮が感じられます。おそらく、最初からエロ薄めという方針で作られているのでは？
私はエロを求めているプレイヤーではないのでそれ自体は構わないですが、エロシーンのみならず、全体的にボリューム不足の印象は否めません。それが細部に宿っているだけ、とも言えるでしょう。
『アインシュタインより愛を込めて』で突出して良かった点は２つ。
シナリオと、グラフィックです。どちらも有名な方を起用しているようですので、そこは安定の、と言ったところなのでしょうか。特にグラフィックについては、背景の美しさに目を奪われました。キャラデザなども大変魅力的でしたが、美しい背景が演出としてそれらを支えてくれていたように思えます。
シナリオについても、特に共通ルートでは笑える部分がたくさんありましたし、物語の中核～ラストの伏線回収に至るまで、しっかりプレイヤーを引っ張っていってくれました。ヒロインたちも全員が良い奴で、それぞれに個性があり、エロゲでここまでヒロイン全員好きになれる作品も他にないのではと感じました。そしてメインヒロインの有村ロミにおいては、その存在が最後まで主人公・愛内周太のみならずプレイヤーにも安心感を与え続けてくれます。メインヒロインにふさわしい存在感、立ち回り、そしてこの作品に欠かせないミステリアスさで、どこまでも追いかけたくなる魅力的な少女でした。
やはり、名作と言っていいくらいに好きな作品ではありましたが、良作に留まっている理由としては1点。
ボリューム不足、の一言に尽きるのではないでしょうか。
ラストまで走り切ったあとの物足りなさ。あれは「あまりにも美味しかったからおかわりしたい」、といった類とは似て非なるものだったように思います。細部まで手の届かない演出、表現の薄さ、単純なシナリオの少なさ、締め方の雑さ、投げっぷりなどが影響しているのでしょう。
FDが出て、はじめて満足と言えるような作品だと思います。
フルプラの値段相応かと聞かれれば、妥当だと答えるでしょう。それくらいの良い出来ではありました。雰囲気、キャラデザ、BGM、なにもかもが好物の作品でした。人は選ぶのかもしれませんが、買って後悔はしていません。この作品に出会えて良かったと感じます。だからこそ惜しい、作品でした。
今後に期待を込めて、ここに感想を書き記したいと思います。
ありがとうございました。