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takecchi67さんの穢翼のユースティア ~新装版~の長文感想

ユーザー
takecchi67
ゲーム
穢翼のユースティア ~新装版~
ブランド
AUGUST
得点
95
参照数
350

一言コメント

心に何かを残してくれる神ゲー

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

間違いなく神ゲーです。これまでノベルゲームはいくつかやってきましたが、シナリオが良いだけではなく、その他システムなども含めてバランスが素晴らしいゲームはそうありません。ラストはある程度想定していましたが、ボロ泣きでした。

世界観なども元々好きな部類なので、購入前の体験版からワクワクしながらプレイしていました。が、本編は想像以上でした。ボリュームのあるノベルゲームでは特に、シナリオが読みやすく、セリフの掛け合いが面白い+声優さんが上手くないと、必ず途中で飽きて耐えなければならない時間があります。穢翼のユースティアはそれがまったくないため、ストレスを感じる瞬間が極端に少ないです。そのため「続きが気になってとまらない」「サクサク読める」といった評価につながってくるのだと思います。
それに加えて世界観の設定、キャラの立たせ方、シナリオの構成、演出のタイミング、CGの完成度、世界観に沿った背景やBGM・効果音などすべてバランスが良く作品の良さを引き出しあっています。

また、エロゲーなのでどうしてもエロが入ってくるわけですが、無理矢理感は限りなく低く自然な形でHシーンへの流れが組み込まれています。どちらかというと、正ルート以外の個別ルートシナリオ自体のほうが違和感ある仕上がりになっていますが、そこは恋愛ゲームであることを思えば仕方なしと受け入れています。エロゲにありがちな「そこで脱ぐ必要ある?」「女の子からそんな会話してくることある?」と感じるようなお色気要素も最低限以下なので、完全にリアルなシナリオ重視のゲームと言えます。

ラストについては賛否両論があるようですが、私も終わってからしばらくは放心状態になるほど、深い悲しみに叩き落されました。とはいえ、このラストだからこそ、穢翼のユースティアなのだという価値観でおおむね賛同しています。ハッピーエンドとして完璧に終わらせる場合には、ティアが天使であるという設定を変える(人間に転生する等)というシナリオの方向性にしないと難しいかと思います。ティアは人間ではなく天使だからこそ、作中で2回も蘇っているのであり、天使として生まれ天使として死ぬ運命だったという世界観的な辻褄です。そうでないと異種族間恋愛となってしまい、それ自体は仮によくても、人間界で生きていくうえでティアの天使としての役割が宙ぶらりんになってしまいます。いずれその違いに2人が悩み苦しむことも予想されます。そこまではあのラストから描き切れないでしょうから、もし綺麗に片をつけるならティアを人間として転生させるか、心中エンド、もしくは天使イレーヌが慈悲で2人を救いその場でティアを人間にして世界も救ってくれるか……。いずれにせよ、一工夫以上必要だったとは思います。
オーガスト作品は初めてだったため、制作過程のことはよくわかりませんが、シナリオライターは最初からラストを決めて書き始めたのだろうと思います。穢翼のユースティアにおいてティアはこの運命を背負って、生まれてきたキャラクターだったと言えます。

ただ、最終章では複数のキャラを並行して描かなくてはならないため、少々描き方が浅く、キャラを引き立たせられていない部分は否めません。カイムの葛藤が長く続くため、その分他のキャラに時間を割くか、カイムと他キャラを関わらせて描く中で彼の葛藤を昇華していっても良かったかもしれません。とはいえ、終章での読者にフラストレーションを溜めさせる書き方が、大ラスでのカタルシス効果につなげるための伏線だった可能性もあるので、ライターに意図されたものでもあったとは思います。そこを強く意識しすぎたため、あからさまになりすぎてシナリオ全体としてのバランスがやや崩れてしまったという考察もできるかもしれません。

いろいろ書きましたが、一言でまとめれば「神ゲー」で相違ありません。ノベルゲーム好きなら一度はやって損はないでしょう。心に何かを残してくれる、素晴らしい作品です。