希有な運命のもと発売された存在自体が奇跡のような作品
まず最初にことわっておきますが、かなり個人的な思い出補正がかかっていますので五割引くらいで読んでください(笑)
。
まず本作の背景について。
くわしい経緯は省略するが、
Aerisというブランドが処女作として本作を発表。
そしてデモ動画が公開されると、その歌が彩菜さんということで注目を集めた。
ところが発売延期に延期を重ね、ついに発売中止、ブランド解散となる。
某巨大掲示板の住民は後の「欝だSNOW」を傍目にみながら、あるいはそれに参加ながら、ただひたすら奇跡を信じて待って保守していた。
そしてある寒い日の夕方…このときのことはよく覚えている。
私は薄暗い研究室で、私物Air-EDGEから某巨大掲示板をみていると、雑誌情報としてminoriがサルベージ(全知的所有権の継承)するとの報告があがっていたのだ。
中庭に飛び出して大声で叫びたいほどの喜びであった。
minoriの動きは遅々としていたが、スレには楽観的ムードが漂っていた。
私のもつSofmap予約券は何度も更新を繰り返したが
(感熱紙印刷は半年程度で読めなくなるので定期的に印刷しなおしてもらう必要がある)
私たちは待つことには慣れていた。
「発売日未定ゲーム」リストの常連状態が永らく続いた。
そして5年越しで迎えた発売日。
本当に実物を手にとるまで、私は発売したということが信じられなかった。
minoriにとって本作が片手間だったのか本気だったのかどうかは不明だが、シナリオはあまり長いものではなかった。
とはいえminoriが引き継ぐ前に発注されていた原画などを生かしての復活である。
瓦解した他社のプロジェクトを引き継いでここまで完成させたこと自体、ソフトウェア工学的にみても素晴らしいことだ
(無論、それはエロゲという芸術作品の評価とは直接的には関係しないが)。
作品の質も短い点を除けば充分に及第点である。
静かなBGM。
夜の学校独特の冷たく透き通った雰囲気。
静かに、しかし、少女たちと出会うことにより、ゆっくりと主人公と物語は動き出す。
ここよりネタバレ。
主人公は精神的な病により、昼の学校をやめて定時制に転学した者。
特定ルートでは主人公が処方されている薬品の商標名がそのまま登場する。
少くとも私は精神系の薬品の特定メーカーの商標名がはっきりと登場した作品は後にも先にも本作しかしらない。
女の子の姿がみえない(光を…)とか、人格がふたつある(だぶるまいんど)とか、女の子が全部ガラクタにみえてロボットだけ美女にみえる(火の鳥)とか、
そういった派手さはないものの、病は確実にある。
CGは美しい。
原画の八樹隼一郎氏は本作がゲームデビュー作となるわけだが、かなりの時間を投入したそうだ。
CGの空気感がよく、一枚一枚に温度(色温度や暖色・寒色等ではなくより感覚的な)といったものが感じられる。
音楽も素晴らしい。
欠点はやはりシナリオが短い点。
もともとAerisの挫折はシナリオが完成しなかったことに起因するといわれているので、おそらくminoriにてシナリオは大幅につくりなおされたのであろう。
すでに発注され、完成していたCGにあわせるようにシナリオを書くというのは大変な作業であっただろう。
あまり求めるのも酷というものかもしれないが…
定時制という舞台や病気といった面白い舞台・道具を用意したが今一つ生かしきれていない点も残念な点である。
もう少し頑張れば…名作となったであろうが、作品の希有な運命を鑑みればやむを得ないかもしれない。
最初に担当していたシナリオライタかどのようなシナリオを考え、なぜ「拳銃もった少女」というCGを発注していたのかは今となっては永遠の謎である…
彼のかいた「Aeres版AT」も見てみたい気はするが………それは永久に封じておいたほうがよいのかもしれない。
なお、未使用CG、Aeres時代のデモ動画などはおまけフォルダに格納されている。
いずれにせよ「ゲームが無事発売された」ということ自体が奇跡のような作品である。
発売中止とブランド解散を経ての復活である。
「欝だSNOW」よりも絶望的な状況。
ずっと追っていた私たちには、この点は大変感慨深かった。
minoriへのアプローチは原画の八樹隼一郎氏の熱意が通じたためであるという。
その熱意はゲームの中のキャラクターに宿る熱意ではなく、実在する我々人間の中に宿る熱意である。
奇跡は熱意で起こすことができる。
その具現である熱意の結晶に出会えたことを、感謝したい。
って、かなりプラス補正がかかってしまいますね。
夜中に書いたラブレターのような(笑)。