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taima_iceさんのもののあはれは彩の頃。の長文感想

ユーザー
taima_ice
ゲーム
もののあはれは彩の頃。
ブランド
QUINCE SOFT
得点
84

一言コメント

選択肢ではなくサイコロでルートが決定する理由で感心した

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

冬茜トムさんの作品をプレイするのはジュエリーハーツアカデミアに続いてこれで2作品目。
ジュエハでは「プレイヤーに隠されていたけどキャラクターには当然の常識だったその世界の秘密」が打ち明けられてプレイヤーのジュエハ世界観に対する認識を引っくり返して度肝を抜かせるシーンでのインパクトが非常に強く、そういった方面の能力に秀でているライターなのだろうという印象はあったのですが、今作にもそういった場面は作られていましたね。○○○○周目のやつ。
輪廻に関する伏線や情報は事前に撒かれていたので予測も立てやすく、ジュエハほどのインパクトはありませんでしたが、それでも数字の大きさにビビらされる。

双六に関しては、ルート毎に「購買要素のある双六(四つ巴戦)」「獅子身中の虫(要するに人狼)」「陣取ゲーム」とルールが変更されていたのが有難い。やっぱり全部同じ内容の双六だと、展開が違ったとしても見た目のワンパターンさに少し飽きが入って来る可能性は否めませんので、マップもルールも異なるものを用意してくれたのはやっぱり嬉しいポイントでした。

・みさきルート
一周目にプレイ。
ルールを分けてくれて嬉しかったと言ったばかりでなんですが、このルートの戦暦双六(四つ巴)に関しては正直、双六そのものを楽しめたかというと微妙なところではありました。
というのもこのルートは主人公達が四人で縁陣を組んで(要するにチーム結成して)双六を進行するのだけど、主人公達が緑マス(現実の自分達を回想して失った記憶を取り戻せるマス)にしか止まんないから、やってるのは双六じゃなくて回顧録なんだよね。その間他のメンバーやチームが争っていく中で鹿乃が虐殺していき、その鹿乃を相性の良いみさきが倒す流れになるので割と主人公達が作中でも自嘲してる通り漁夫の利なとこあるし。
ただまあこのルート、
・鹿乃はまともに接敵するとイコールでゲームオーバーが確定する盤面上最強の暴
・みさきの目的及び作品全体を通しての目的
・主人公達四人や鹿乃の過去と現実での真実
等の事実をプレイヤーに提示していく必要があるため情報量が多く、特に四人の現実での関係性を充分に理解させるための尺は多めに取る必要があるので双六を描写する暇があんまりないと言われればそうかも。

・琥珀ルート
二周目にプレイ。
反面、双六を一番楽しめたのはこのルートの獅子身中の虫双六かなと思う。要するに双六に人狼ゲームを足したようなルールなんだけど、人狼に双六が合わさっていることや隠されてる裏ルールの存在で運ゲーに加えて頭脳戦の要素が強く組み込まれていて独自の面白さが形成されてる。クレアが虫を装ってブラフをかましたのは頭脳戦の下敷きになってたし、そのブラフに引っかかった鹿乃が早々に脱落したことで「最強でもルールには敵わない」公平さが示されたのは好みなバランスだった。
暁の天縁でカラスが脱落したこともありメンバーの中でトップクラスに頭脳明晰な黎が優勢になるものの、それを人間の常識にとらわれない理外の琥珀が覆す流れは全ルート中一番“ゲーム”を楽しんでいる感があって面白かった。

・クレアルート
双六世界の秘密の大部分を解き明かすシナリオ。双六は陣取合戦。決着の付け方に関しては「双六で無限ループ引き起こすのってそんなのあり?」とは思ったのだが、縁陣も不可であがれるのは一人だけというルールで他人の勝ちに協力してくれる協力者がいないと成り立たないのは普通に考えれば不可能な勝ち方なので、これはこれでルールの裏を突いてる勝ち方なので最終的にはありだなと思えた。カラスの戒が実は他人に攻撃してもらうこと前提な縁だったのも面白かったし。
作中設定の多くが明かされるルートなので三巡目の攻略推奨。

・京楓ルート(?)
京楓ルート…なのか…?
輪廻が終わって黒幕との決着をつけるルートで、この後は現実に帰って各ヒロインとのエンディングを迎えるシナリオ……であるだけに、京楓ルートではないよなコレという感が物凄く強い。京楓との出会いが明かされるところからスタートしたりやってることは京楓ルートと呼んで差し支えないとは思うのだが。
このゲームが四ヒロイン制なのは間違いないと思うんだけど、正直京楓だけは輪廻途中の個別ENDが無いために一人だけかなり割りを食らってたと思う。敵手の役割を強制されてお邪魔虫化してたせいでみさきルート以外は大して出番もないし、いまいち不遇だった感は否めない。
主人公である暁が現在の人格(俺は世界一ラッキーな男だ)を得る切っ掛けとなった女の子であるだけに、やりよう次第でもっと良さが出ていたんじゃないかと思えるだけに惜しいなぁと。
他にもこの作品の大きな不満点はこのルートに集中してたなと思う。
例えば、狂言回しの役として作品全体を引っかき回してくれてたカラスの退場がめっちゃくちゃ雑だったり。え、これで終わり? としか思えなかったので…。後日談でも出番がないから、どうなったかもよくわからないし。カラスも含めて全員で上がろうぜ!ってみさきの理想どこ行った。作中での仕事量と結末の迎え方の釣り合い取れてなくねーかと…まあ改心の余地があった鹿乃と比べても、自分の手で黎を半殺しにしてることが確定してる悪役寄りのキャラクターだから大団円の縁に入れなかったのかもしれないが、なんともまあ損な役回りだ。またチャットに現れてくれ。
黒幕に関しては「まあ名有りキャラお前しか残ってないもんな」で納得はできたし、存在の強度に関しても納得のいく理由付けはされていた。暁との因縁も非常に濃厚でラスボスとしても文句はない。が、それだけに倒され方が「あ、こいつ自爆しとるやん」って気づいたみさきの手で一発逆転というのは少し、少し肩透かし感があった。とはいえ、どれだけの強者でも双六のルールそのものには逆らえないというのは鹿乃が散々証明してた事なので、説得力はあるし倒され方に対する不満はないんですけどね。
しかしながら、あれだけ「こいつは殺意の塊であり救いのない現実を生きているのでどうしようもない」と思われてた鹿乃がちゃんと救われて、かつ大誠くんにも良いお相手との縁ができたのはとても良かった。どことなく、某ゲームの病毒に心身を侵されてる悪役ヒロインとその子を救うついでに世界を救った主人公を思い出す関係性。
改心しても相変わらず暁の事だけは嫌いだったり、暁も暁で鹿乃にだけは喧嘩腰だったりとこれはこれで面白い関係を築いてるのも良い。そりゃまああれだけ憎んだり憎まれたりしてた二人がすぐ仲直りできるわけもないよね(素直になれていないだけの喧嘩友達とも言えるが)。
声優さんの演技に関しても鹿乃の人の演技が一番好みだった。現実ではいじめられっ子だけあるぼそぼそとした声も、現実での不満をお門違いな恨みで発散するしかない遣る瀬無い憎悪に満ちた発狂声も、大誠に堕とされた後の甘え声もどれも良かった。あまりエロゲ声優には詳しくないんですけど、他は何の作品に出てるんだろこの人。
個別エンディング…という名の後日談は、カラス以外の各キャラクターが今どうなってるのかが描かれ、それぞれが双六で得た縁を再確認するもの。黎が暁達カップルを見物するだけのためにわざわざやって来て、一目見るだけ見たらさっさと帰ってったのが笑える。あれだけ「世界つまんねーけどわざわざ自分からアクションするのも怠いな」って思ってた奴がわざわざ冷やかしのためだけに無駄な労働ができるようになったの、良かったねと言うしかない。あのシーンは地味ながらキャラクターの成長が伺える嬉しいポイント。

総じて、双六と縁とをテーマにした頭脳戦有異能戦有の双六バトル。一人一人のキャラも立っていて魅力的だったし、「ある日目が覚めたら自分を駒としたリアル双六を進行することが常識の世界が広がっていた」という非日常的世界観も魅力的で面白かった。
上記の通り不満点はあるものの、それを差し引いても「面白い」と思った回数の方が遥かに上回るのは間違いない。
双六が全ての世界というよく考えれば非常識な世界で、現実では友達同士だった奴らがわけもわからず蹴落とし合う序盤のシナリオも、デスゲームの醍醐味と言える部分を抑えていて楽しめましたし。



あとは京楓さえ…! 京楓さえ個別ENDがもう一つあれば……!