運命予報に続くエロゲーマーへの皮肉が込められた作品と解釈した。
体験版でその面白さにやられて発売が待ち遠しい作品だった。魔法の本の設定とか大変好みだし、ライターの過去作を漁ってしまうくらいには魅了された。上述したように色々考えた結果、これは痛烈なエロゲーマーへの皮肉と解釈した。それについてはネタバレの為、後述する。キャラ絵が可愛い為、キャラゲーとして考えていると痛い目を見る。少しはイチャイチャもあるが色々制約がある状態ばかりだし、完全なシナリオ目的でないと満足出来ないと思う。逆に少し変わったゲーム、パンチの効いたシナリオを求めている人には是非お勧めしたい。
本作は完全に第三者目線で見るべきもの。感情移入はかなりしにくい。それは魔法の本によって登場人物の人格・設定が歪められてしまうから。登場人物が少ないからこそ、同じキャラに様々な役柄を振り違う物語を展開出来るのは利点でもあるが、そのキャラ自体に愛着が湧きにくくなってしまう。なので物語に感情移入する人は合わないかも。
原画・シナリオ・塗り・音楽については文句ない。それぞれハイレベル。しかし、これらが良いからこそ演出の悪さが際立っている、他の部分もしっかりして欲しかった。特に演出。バグは仕方ないとしても、演出については相当貧弱。SEでも爆竹が鳴る音、平手打ちなどが無いので寂しい。魔法の本の開閉時にも背景が乱れるとかそういうのが欲しかった。また、過去回想でも幼少の立ち絵が無いなどせっかく感情移入しやすい部分なのにおざなり。
象徴的な図書館での日常もキャラ集合CGが無いのが勿体無い。登場人物達が集まる特別な場所でのキャラ達の集合CGは必要不可欠だと思う。最果てのイマの「聖域」、まじこいの「秘密基地」のようにそのゲームの象徴ともなる場所であるのだから、図書館内でのリビングでの全キャラ集合絵は絶対必要だった。恐らく、時間・予算などの要素もあって見送られたと予想されるが、一度描いてしまえば何度も流用出来るのだから頑張って欲しかった。日常が幸せだったからこそ後半の悲惨な現実が映えるのだから。
新規ブランドで資金がないのも理解しているし、大変なのも分かるが、フルプライスで購入した1ユーザーとしては、他の大手メーカーと比較して悪い部分は悪いと言う権利があると思うし、それがないと向上もしないと思う。ライターも視覚的・聴覚的に補助出来る部分があるからこそエロゲという媒体を選んだと言っているのだから、今後予算とか制約があるだろうが精進して欲しい。
不満点ばかり述べたが二転三転する物語は本当に熱中できるし、伏線についても考えて楽しめ、あとで読み返してみると再発見出来る部分も多々あるよく出来たシナリオだった。考察ゲーが好きな私としては大満足だった。このような作品が新規ブランドから出てくれるのも単純に嬉しいし応援してゆきたい。体験版をプレイしてシナリオ展開が気になった人は面白いと思う。
とりあえず1章からダラダラ感想書いてゆく。以下ネタバレなので注意。
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一章:ヒスイの排撃原理
まさに一章として相応しい内容だった。魔法の本の性質をユーザーに印象付けすることに成功し以後の展開が否応なく期待出来る。登場人物が少ない為、犯人の予想はしやすいが何気なくプレイを始めた私としては本当に面白かった。これが評判になってから身構えてプレイしていたら少しは印象も変わったかも。また、何気ない会話でもハッとさせられる一言が多く、それを行えるライターの手腕に惚れた。キャラ同士のグダグダの会話も雰囲気作りとしては否定はしないが、やはり鋭い一言・センスある一言があると会話自体も締まるし、良作にはそのような印象深い一文が必ずある。ライターの過去作を調べてみたら一時期批評空間で点数がそれなりに高い「運命予報をお知らせします」の人だった。当時は絵で回避したが、プレイしてみたら中々興味深い題材を扱っており面白かった。気になった時にプレイしておけば良かったと後悔するばかり。
この章では妃が推理を披露するが、
「上質なプロットには無駄なシーンが一切ないのです。全ての文章には意味があり、伏線があり、作者からの意図が込められている。」
とか言われたらこの作品に対しても期待してしまうに決まっている。
二章:ルビーの合縁奇縁
完全にやられた。一章での魔法の本の印象が強すぎて完全に途中まで騙されていた。この章では夜子が瑠璃を憎からず思っていることが分かり、本作自体が夜子の失恋物語とも言える為、予想以上に必要な描写だった。これは構成的にここに入れるしかないだろう。体験版部分(三章)以降で夜子がデレてもそれは遅いし、ここでしっかり印象付けなければ。
三章:サファイアの存在証明
ライター自身も語っていたが本作で一番重要な章であり、ミスリードを仕掛けて来た章。HPで公開されている三章の題名の「サファイアの存在証明」は嘘で実際は「オニキスの不在証明」。
妃の不幸話が明かされ現在の兄妹達の境遇について分かる。この過去話が今後重要かと思っていたがそんなこと無かった。個人的に妃ヤンデレ説を考えていたので、父親に襲われる部分は「瑠璃の対応をみる+家庭を崩壊させて二人だけで生きて行きたい」とかの想いから実際は妃から誘ったのかと考えていた。まったく違ったけど。
本作後半で明かされる真実を知ると教会での妃の瑠璃への愛の誓いは感動的。体験版がこの章までなので終ってから「何故、妃は死んだのか」を考えていたが納得。だが、奏に魔法の本は危ないと警告されているのに自分から開くとか自業自得。頭良いキャラだから安易な行動にはちょっと疑問もある。その上自分一人で決断して自殺しちゃうのもなんとも。この時点では主人公達には魔法の本を壊せば物語は終わることを明かしてないので仕方ないかもしれないけど、ちょっと相談すれば死なずに済んだことを考えると少しアホらしい。だからこそ悲劇なんだろうけど。
ここまでが体験版部分である。せっかくなんで体験版終了後に書いた的外れな妄想を記す。
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一章の
「上質なプロットには、無駄なシーンが一切ないのです。」
「最も怪しい人物は、ミスリードのためのスケープゴート。」
これにより闇子・クリソベリルが黒幕説は確実にないと思われる。夜子の為なら手段を選ばないとかあからさまに怪しすぎる。
となると邪道な推理として本作の予約特典に注目してみる。体験版内では圧倒的なメインヒロイン力を魅せている妃だが、実際の特典ではA3タペストリーのみに甘んじている。かなたは2つ絵柄があるというのに。これは妃自体が本作の黒幕であり、製作者側がそんな腹黒ヒロインを前面に押し出すのを躊躇した為ではないかと邪推してしまう。少なくともかなたの方が特典が多いのが理解出来ない。
そして注目するのが一章の展開。かなたが自身を好きになってもらう為自作自演を行うわけだが、この一章が本作の全体像を表しているのではないかと予想する。
「瑠璃が、彼女を守ろうとしたわけではありません。彼女が、瑠璃に守ってもらう状況を作ったのです。」
↓
「瑠璃が、妃を好きになったわけではありません。妃が、瑠璃に好きになってもらう状況を作ったのです。」
みたいな感じで。
そうなると夜子があれほど瑠璃を嫌っていることも納得出来る。夜子が瑠璃を嫌うことで得するのは誰だと考えた場合は、それは妃以外にあり得ない。恐らく幼少時に魔法の本によってそうなるように仕向けたと思われる。
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妄想ここまで。
私は妃に恨みでもあったのだろうかwww。でも特典の偏りとかプレイ後にはかなり納得。かなたちゃんマジメインヒロイン。黒幕は安直ではあったな。一応、実は無自覚な夜子の願望が全て悪いとか言ってたが、やっぱクリソベリルが極悪すぎる。
四章:アメシストの怪奇伝承
待望の体験版以降。まず驚いたのが作中で1年経過していたことである。あの体験版の最後に「これから妃を取り戻してやる!」という熱いノリだったのに出鼻を挫かれた感じ。いきなり
「だけど、それでも、現実は思い通りにならなくて」
「クリソベリルが提示した真実に、俺は敗北する。」
「結局、物語はバッドエンドで終ってしまうんだ。」
「そして物語は、一年後へ。」
だもんな。
ある意味体験版詐欺。この部分まで収録してこそ体験版の意味があった気がする。少なくとも「妃を取り戻す為に魔法の本の謎を解き明かす」という展開に期待していた人はガッカリするだろう。販促としては上手いやり方だとは思うけど。この部分で本作を低評価とする人も多そう。
本章では再度かなたが本を開く。今回は幽霊の都市伝説が物語。サファイアの存在証明で一度忘れてしまわれたかなたにはピッタリの役柄。レイプ目かなた怖い。開くのにも願望が必要という魔法の本を再度かなたが開くことが出来る理由がずっと疑問であり、登場人物が少ないが為のご都合主義と勝手に納得していたが、プレイを終えてみれば必然なのだからその構成力はやはり凄い。また、一章のヒスイを受け継いでアメシストが展開しているというのは面白かった。これもその章で現れる魔法の本はその章で完結しているという思い込みを上手く利用したミスリード。
「私のことを一人の女の子として見てくれないのなら、無責任に恋人になったりしないでくださいよ」
「彼氏だと自称しないでくださいよ。大好きだって、嘘をつかないで下さい」
全部知った後だとここらへんも結構意味深。
五章:アパタイトの怠惰現象
妃が戯れに描いたニセの魔法の本。怠惰で変化のない、しかし幸せな日常。それを読んだ主人公がかつてあった日常を取り戻そうと決意する話。他キャラも探偵部に入部したりして一番エロゲらしい展開ではある。しかし探偵部があんまり後半機能しないのは残念。猫の蛍をかなたが飼っていることが判明して「ご都合主義だな」と思っていたら、後で必然だったと分かる。このライター「何故そのような状態に至ったか」についてしっかり構想を練って物語を紡ぐので、まるでパズルのように綺麗に当てはまり爽快感がある。そういう意味で瑠璃の自殺も必然だな。
内容も特に大きな展開も無く、汀と奏の魔法の本に対するスタンスが明らかになるくらい。ある意味汀の方が主人公していて好み。瑠璃については立ち絵もないし、感情の起伏が少ないので印象が薄くなってしまう。その点、汀の方が嫉妬と後悔により猪突猛進に魔法の本を憎むのは人間らしく共感出来る。
六章:ローズクォーツの永年隔絶
「吸血鬼→眷属」がそのまま「作者→本」の関係を表してこれも対比だろう。瑠璃が理央を庇って刺されるシーンでなんともないのも、瑠璃が本だという伏線かと思ったりした。理央は設定にがんじがらめにされていたのだから、魔法の本により設定が上書きされた時にもっと夜子への不満とかをぶっちゃけたら良かったのになと思う。この章の肝試しが唯一全員で行う楽しい日常描写。もっと全員でワイワイ楽しいシーンも見たかった。ここで理央が一時退場するからそれは難しいのは分かるけど、もっと全員での交流を行っていた方が後半の展開は映えるはず。せっかく探偵部があるのだから、魔法の本が一切関わらない日常の謎とかほっこりするような展開を一つは用意して欲しかった。
理央√(ローズクォーツの終末輪廻)
いきなり記憶障害設定とか出てきて面食らったが、理央が設定に縛られていると知った後だと納得。この√は悲劇でしかないと思う。理央の設定は絶対に覆えらないものだし、瑠璃も偽物なので人形が演じるBADEND。理央自身も瑠璃は自殺済であることは知っているはずなので、理央の気持ちも良く分からない。理央が紙の上の存在ながらもそれを覆す為に魔法の本を上手く利用して自身の想いを伝えたというギミックが面白いとしか感じなかった。体験版から一貫しての不遇ヒロインだった。人気投票も一時3位になったが結果は結局4位だし。かみまほプレイ者による純粋な人気投票もやって欲しいなと思ったり。
七章:ブラックパールの求愛信号
汀の妃への想いの深さが知れる章。汀が魔法の本を憎み壊していたが、妃の想い人を知る為にそれを利用するのは人間臭くて良い。やはり汀こそ王道の主人公のようであり好感が持てる。また、自身の考えを夜子に漏らした腹いせに瑠璃を嵌めるというのも、この2人が対等であり良い意味で騙し騙される関係を上手く表しており良かった。この本で妃が復活するのかと思ったが、死んだ人間が生き返らないのは本作では一応一貫してはいる。魔法の本によって復活はさせられるが、それはオリジナルでなく偽物であり、死んだ人間の尊厳は守られているように思う。
ふと思ったが、闇子は魔法の本を書いたことで過労死したようだけど全員言及しなさすぎな気がする。夜子に至ってはもう会えない気がするとかさらっと流すし。妃や瑠璃が亡くなった時は取り乱すのに肉親が死んだにしてはドライ。立ち絵がありかつ重要キャラにしては扱いが適当だなと思う。これも本作が一応恋愛青春物語としているので大人はご退場頂いたのかね。奏もいつの間にかいなくなるし。奏は後半に少しは活躍しても良かったと思うけど全く出番無かったな。
八章:フローライトの時空落下
ここから本作の物語が急展開を迎え、魔法の本の真実について明らかになってくる。理央が復活してきたのは少し驚きもしたが、まあ想像通りだった。体験版範囲内でしつこいほど「友達を作れない」「ここに生きて夜子の為に尽くす」「それが理央の役目」等と何度も明記されているので理央は魔法の本による創造物ではないかとずっと思っていた。2章の天使展開も天使=死亡済=人外とか想像してみたりもしていた。ここで「やっぱりな」とドヤ顔で読んでいたら、その後のCGがスライドして妃が映し出された時に度肝を抜かれたわけだが。同時にやっと妃が復活して真実が語られるのかと思ったら、そんなことはなかった。ここで本作は夜子の為の物語であり、魔法の本の謎や妃を助ける物語でないと確信した。妃が復活したことで、もしかして妃は初めから魔法の本であり、この世界自体が全て紙の上の存在によって成り立っているのではないかとか思ったが少しは当たっていたな。テンション上がってやはりメインヒロインは妃かと思っていたら、「私偽物ですよ。自身の存在が耐えれないので死にます。」とか残念すぎる。
妃√(フローライトの怠惰現象)
個人的に唯一納得できるEND。妃が自身の愛を貫く為に自殺したのにそれを勝手に生き返らせるとか、生き恥をさらすように感じるのだろう。3章での教会の告白があり、その場所にて心中とか感動的。そして2人とも本であることがBADENDではあるがHAPPYENDでもある。オリジナル達が行えなかった添い遂げるという行為を偽物達が行ったことで一番綺麗に終っていると思う。
「四条瑠璃に失恋をさせること」
「役目を果たしたら、自害すること」
を設定するとか闇子マジで鬼。
九章:ホワイトパールの泡沫恋慕
クリソベリルによる真実も交えた過去話でいいのだろうか。夜子の過去話により同情心を起こさせ、昔に夜子と瑠璃が付き合っていたと騙ることで、瑠璃に対して夜子を意識させようとする策略だろう。個人的にはこの話も全て真実ではないかと考えてしまう。特に根拠はないけど。教会へ妃が隠したパンドラの一部を探しに行くが、ここでの妃のセリフを読み返すと伏線オンパレードだし、改めて妃がメインヒロインだと思う。
「本当は夜子のことを愛していたのかもしれない。」
「けれど、そういうシーンを見せられたって、今の俺が持つ記憶は、別物なんだ。」
瑠璃自体がその時と別物なのだから、違う記憶を植え付けられたりしてそうでもある。
夜子√(ファントムクリスタルの運命連鎖)
デレた夜子が見れる√。魔法の本の影響によるものではあるが。ここで魔法の本に頼ってしまうのが夜子の弱さ。瑠璃が自殺していると知った後だとこの√も茶番に思える。それを知らずに夜子が素直になったのでは、罪悪感を乗り越えたと言えないし、本章も泡沫の夢の一つ。本当に意地が悪い作品だな。この章では普通にデレた夜子を楽しんでいたのだが、真実を知った後だと薄ら寒く感じる。読み返してみると瑠璃が本であることを示すシーンや最後の妃の独白なので色々伏線があって面白い。
「ホワイトパールの泡沫恋慕」で過去に初体験を行っていたシーンがあり、今回も処女だったのでホワイトパールは否定されたとも考えられるが、逆に今の夜子が紙の上の存在なのではないのかと私は疑ってしまった。紙の上の存在になったことで処女膜は再生されるのかは知らんが。
十章:オブシディアンの因果目録
ここでようやく妃の死の真相が判明する。と同時に瑠璃も既に自殺しており、現在は紙の上の存在であると明かされる。妃の死が「オニキスの不在証明」による瑠璃以外への愛を強制されるのを嫌っての自殺というのは大変納得できるし、それを知った瑠璃が自殺するのも自然な流れ。妃(偽)が自身の死について語った時に「魔法の本は関わってない」というのは上手い言い回しだ。確かに、魔法の本の影響による強制的な死ではなく、自身の信念に基づいて行った自殺である。また、その時に真相を明かせば瑠璃が自殺してしまうとも予見して真相を語らなかったと考えられる。自身の愛を守るために自殺するとか強烈なキャラだ。私的に死んでしまったらどうにもならないと思うのだが。でも今考えると3章で執拗に抱いてと求めるのにもこういう訳があったのだな。あそこで抱いていればもしかしたら未練が残って瑠璃や夜子に頼る選択も出来たかもしれないと思うとやるせない。
主人公が偽物だったというのは衝撃的な展開であるが、その為の伏線が少ないように感じた。もっとケガとかしても治りが早いとか、趣味・嗜好が少し変化していたとかで違和感を植え付けて欲しかった。また、4章以降の恋愛模様は全て偽物が行ったものであると考えるとあんまり気分が良いとも言い難いので、どんでん返し的な展開にもってきたいのは分かるが、主人公を自殺させるのは得策ではなかったように思う。あと、せっかくの主人公の首吊りというシーンなのだからCGが欲しかった。全体的に話としてはエグいのも多いのに、それを表現するCGが少ないので記憶に残りにくい。原画家の今後の成長に期待しとく。
十一章:(サファイアの存在証明)
かなたまで過去に関係しているとは完全に予想外だった。3章で夜子が瑠璃に対して「サファイアは開いている」と断言しているので、それはいったいどういう意味か引っ掛かってはいたのだが、これで完全に納得である。初めから絶対既になんらかの魔法の本が開いた状態で本作は始まっているとは予想していたが、それがサファイアだったとは。良く考えれば分かったのに悔しい。これでヒスイとアメシストもかなたが開けたのが腑に落ちる。また、猫の蛍をかなたが飼っていたのも必然。かなたは唯一幼少時の立ち絵もあるし優遇されている。ここで店舗特典が夜子に次ぐ2個であるのも納得できる。でも体験版範囲でここまで重要人物とか誰が予想しただろうか。
十二章:ラピスラズリの幻想図書館
やっと夜子のターン。しかし失恋が確定しているという珍しい構成。普通の脱落方式なら、夜子が失恋してからかなたと付き合うのが自然だが、この後半に持ってきたということは夜子の失恋がこの物語の本筋であり、それ無くして本作は語れないのだろう。つまり、夜子の成長物語が主題。
夜子が魔法の本を使って瑠璃に会わないようにする。まあ、真実を知って妃の自殺などを自分の責任と感じれば自然だと思う。そして、悪役クリソベリルとの対決。本章はクリソベリルがウザかったな。全部お前の責任だろうがと何度思ったか。瑠璃の本にクリソベリルが設定を追加してかなたに暴力を振るうが、かなたの気丈な態度と瑠璃への愛に記載された設定を覆す。ご都合主義かと思ったが、
「やっぱり、妾じゃ、駄目だった……夜子、貴方じゃなきゃ物語は紡げない」
と言っているので魔法の本の正式な書き手でないと一番効力を発揮できないと取れる。逆に言えば、紙の上の存在は書き手が書き込んだ設定には絶対に逆らえないのだろう。理央が死んだ目で瑠璃に対応した通り、やはり紙の上の存在は人間でなくどこまでいってもまがい物なのだろう。
本章の夜子の告白シーンは大変良かった。記憶にずっと残ると思う。他に記憶に残っている告白シーンだと「コンチェルトノート」の莉都や「向日葵の教会と長い夏休み」の雛桜かな。それまでの流れ、告白する場所なども合わさって記憶に残っている。妃が夜子に現実の恋の残酷さを説き最後の「恋に敗れて、死んでしまえ」も良いセリフ。
十三章:煌めきのアレクサンドリア
クリソベリルの過去話こと魔法の本が発生する経緯が語られる。私的に蛇足に感じた。過去話もよくあるテンプレものであるが、別にこれ自体に不満は無い。白髮、赤目のアルビノは他者と違い神秘性に富み、それが迫害に結びつくことは分かりやすく、夜子に対してクリソベリルが共感して応援するところまでは良い。しかし、夜子の為に妃を自殺に追いやっておいて、のうのうとあの図書館で償うとかそんな甘ったるいことは私は許せない。妃の自殺が予見できず本当の意味で後悔してるなら分かるが、妃が自殺した後の3章の最後でクリソベリルは下記の通りのたまう。
「貴方は、愛する妹御のため、真実を見つける覚悟を決めたのよね?その純粋な想いに、妾は心打たれたわ。何も知らない貴方に、真実という剣を授けてあげる」
「全ての真実をプレゼントしてあげる。貴方に、現実と戦う剣をくれてあげる。その刃をどこへ向けるか、それは貴方の自由よ」
「――さあ、これからが本番ね。日常と非日常の境界線に至って、そこにあった青春の1ページを読み進めていきなさい」
どの口が言うんですかね…(ドン引き)。青春の1ページ(笑)こいつ過去に村の少年を絶望させたことから何も学んでいない。情状酌量の余地すらないわ!
そして結局瑠璃も自殺してしまうという。完全にクリソベリルの責任。こんな鬼畜な所業を行ったキャラが許されて幸せになるとか我慢ならない。予約特典内の猫の蛍と完全に同じ気持ち。まあ、特典内で蛍がこの心情を吐露するからライターもそういう感想を抱くユーザーもいることは理解しているとは思うけど。そして取って付けたエロ。エロシーン描写も上手くはないし、完全にエロないと売れないから入れた感があって萎える。このエロはせめて回想に入れてくれた方が良かった。仮にもTure ENDに至る途中でこんな萎えるシーンはいらない。
本作は個人的に物語として3章後半で完全に終っている認識。そもそもオリジナルの瑠璃と妃が自殺している時点でこの物語はBADENDと言っていい。まだ瑠璃、妃が紙の上の存在として出現して、残された人達の想いを断ち切って前に進ませるとかの展開ならば理解出来るのが、その偽物の主人公がそのままオリジナルにとって変わって最後まで終わるのが最高に気持ち悪い。全キャラもそれはオリジナルで無くて偽物という嫌悪感もみせないのがおかしい。
後半には夜子に対して「空想に生きるな」とか言っているが、まず主人公(偽)が空想の産物だし説得力が皆無。オリジナルは現実に耐えきれずに自殺を選んでしまっているのだし。妃の死の真相を知ったら主人公が自殺するのは自明で、それについてはまったく異論は無いのだけど、作品としては主人公は死なせないほうが良かった。憔悴する主人公を仲間達が記憶を忘却させ回復させたとかの展開の方が共感出来た。主人公も後に残された人達のことを一切考えずに自殺するし、それだけ妃のことが好きだったとも取れるが、それならやはりこれは3章後半までの瑠璃と妃の物語と言える。
4章以降の主人公(偽)の物語は完全に別物。だが過去回想をバンバン入れてくるし、ヒロイン達にその回想時の主人公は既に自殺していることを認識して偽物を愛せているのかと問いたい。そこら辺の葛藤がまったくないので本当に気持ち悪い。別に主人公の偽物が悪いと言っているのではない。その偽物にしかない個性、魅力によりヒロインが好きになったら理解出来る。だがたいした活躍もなく、オリジナルが築いた関係の上でそのまま偽物に移行するから駄目。せめてかなたが4章以降に登場して完全な部外者として新たな関係を主人公(偽)と築き、そして恋仲となりTrue ENDとなったのならまったく異論は無いし、むしろそうして欲しかった。それなら偽物の物語としてしっかりと完結している。しかし、実際はガッツリと過去にオリジナルとの関係がある。そしてかなたは瑠璃が自殺していたことを10章で知るが、その後に側にいる想い人は偽物であることにまったく悩まない。お前が好きだったのはオリジナルでは無いのかと。自殺したと知った時点で自身が失恋したと何故考えない。極論言うとオリジナル1人と魔法の本により作り出した偽物100人が同時に存在したとしたら、かなたや夜子、理央は誰でも良いと言っているのと一緒である。
妃(偽)についてだけは自身は偽物と認識しているし、また主人公自身も偽物であるので妃√だけは私の中ではセーフ。二人の偽物が好き合って心中とか最高だし唯一納得できるEND。妃は本当にこの物語のメインヒロインだと思う。他キャラと違って間違いなく主人公と逆の立場になっても、偽の主人公は愛さないと断言できるし、妃のみ魔法の本によって唯一キャラ設定改変が一度もされておらず、それがキャラの不可侵性を表しているように思う。偽物が主人公になったのなら最後は消滅するのが筋と私は考える。だから、TrueENDは魔法の本の効力が全て消えて主人公、理央が消えるのが理想。そうすると夜子にとっては絶望しか残ってないので最高に後味悪そうだけど。だが絶望しか残らない時点でやはり本作は3章後半で既に詰んでいると言える。
私の語彙力では限界があるので、唐辺葉介(瀬戸口廉也)著『ドッペルゲンガーの恋人』より引用。
あらすじ:「亡くした恋人のすべての記憶を、僕はクローンに植え付けた。新しく誕生した「恋人」との暮らしが、僕と彼女を追い詰めていくとは思いもよらずに―」
「恋人の死はそんなに哀しかったんですか?」
「うん」
「今も哀しいですか?」
「それは…」
正解がわからない。口ごもってしまったから、
「少しは哀しいかもしれない。でもこうして戻って来てくれたおかげで、すでに過去の話になっている」
「私は、最初からどうしてもわからないんです。恋人は死んでしまって、あなたたちはその静かになった肉体を見た。そして私はその後に培養液のなかからやって来た人間なのに、あなたたちは故人のスペアでも身代わりでもなくて故人そのものだと言う、その気持ちがわからないんです。やっぱり、どこか偽っているんじゃないですか?そう思いたいだけなんじゃないですか?恋人は死んでいないって」p105より
まさにコレ。いくら本人と同等の記憶があろうと、偽物はオリジナルと同一でない。その葛藤がまったく本作には無い。妃(偽)が作中で言っているが
「それに、死というものが絶対不可避の存在であるからこそ、生きるということがこんなにも素晴らしいのです。台無しにしてはいけませんよ」
「私は、瑠璃の知っている月社妃ではありません。貴方がかつて愛していた、可愛らしい妹とは別の存在なのですよ」
ここまで明言しているのに、瑠璃のオリジナルが感じた絶望とそれによる自殺について、全キャラがまったく乗り越えてない。のうのうと魔法の本による偽物との生活を満喫している。気持ち悪い。
ライターの過去作の「Minstrel」では既に死んでしまった娘の人形を本物と信じている親に対して主人公は断罪し、現実に生きろという。そして人形をぶっ壊す。ここまで現実に対して厳しくしていたライターが本作で偽物を主人公としてEDまで問題なく至るのは本当に解せない。なんとかライターは理由があってわざとこのような歪な世界観を構成してのではないかと色々考えた。
ということでここから完全に私の妄想。根拠も無いし私が上記で納得行かない部分を無理やり納得させる為のもの。人によっては不快感あるかもしれないのでご注意を。
キャッチフレーズに注目する。
「キミと“本”との恋をしよう」
これは実は全てのヒロインキャラは本であったのではないかと以下のように考えてみる。
妃…4章以降、紙の上の存在。
理央…紙の上の存在。
夜子…「まるで時間に取り残されたように、成長していないんですね」とかなたが作中で言っており、これは
「ホワイトパールの泡沫恋慕」の違和感ともなり夜子が紙の上の存在かもと思わせるミスリードなのだが、素直に受け入れて夜子は偽物とする。
かなた…無理やりだけど夜子が教会で告白シーンを目撃した時に黒い本が開いて死んで闇子によって書かれた偽物(突っ込まないでw
本作はキャラ同士の過去話が少ないし、魔法の本によりどこが真実かもかなり怪しい状態なので許容して欲しい。すると主人公が偽物のままEDに至った場合はまさに偽物達による劇。かみまほ世界内に私達が存在したら、死んだ人間の偽物達が織りなすあの図書館内のやり取りは気持ち悪く感じるはず。だが偽物達のやり取りを現実に照らして考えて見ると、それはまさしくエロゲーと言える。設定一つシナリオライターが書き加えるだけで、暴力的にも淫乱にもなるキャラ達。つまりそんなエロゲーを皮肉っている作品なのだと結論付けた。
思い返すとライターの過去作「運命予報をお知らせします」では、これでもかというくらいエロゲーに対して皮肉を言っていた。
「兄妹が結ばれるのなんてエロゲーしかありえない。」
「エロゲーのヘタレ主人公が許せない。」
「現実はエロゲーとは違う。」
etc
一章でかなたが「私が不細工な女の子だったら、あなたは助けてくれましたか?」問いかけるが、これもまさしくエロゲーマーへの皮肉だろう。また、運命予報は売れ線の原画では無かった為、売上もイマイチだったと思われ、それに対する皮肉もありそうだ。「原画が可愛くなくても、あなたはかみまほを購入してくれましたか?」とも聞こえる。
そんなライターだからこそ、以下の結論もあり得ると思う。
「あなた達は現実ではありえないこんな気持ちの悪い世界を楽しんでいるのですね。夜子にも言っているが引きこもったり、エロゲや妄想やネットで生きるのだけではなく現実に生きろよ」というメッセージが隠れている。そして本作を夜子=プレイヤー、本=エロゲーと置き換えればしっくりくる。エロゲーにどっぷり嵌まっており、会社・学校にも行かず、必要最低限しか外出せず、コミュ症であるプレイヤーに現実を見ろと言っているのだ。つまり夜子の成長物語である本作は同時にプレイヤーへの叱責でもあるのだ。また、12章で妃が夜子に現実の恋の残酷さを説くが、これもエロゲーマーに対して現実はエロゲーのように素敵な恋ではないとも言っているととれる。
そして夜子はかなたENDで
「これからもっと、好きなものが出来るのでしょう。色々なものを見て、知って、触れて--好きが増えていく。今から、それが楽しみね。」
と開かれた世界に飛び出してゆく。
しかし、小説の話題も出てきて「だけどそれは、変わらなくていい部分だ。」と肯定されている。
つまりエロゲーを全否定するのではなく「エロゲーも良いが現実も楽しいことが沢山あるぞ」と伝えているのだ。
改めて考えるとやはりかなたENDこそ本作のTrueENDに相応しい。
十三章の感想で述べたようにTrueENDはまったく納得できていなかったが、エロゲーへの皮肉と決めつけて考えると少し納得出来る。クリソベリルの「過去話からの和解→True END」もエロゲーのテンプレ的流れとも言え、ライターはあえてそれを描き「こんなお涙頂戴物の過去話で諸悪の根源を許してしまうのか。エロゲーマーチョロい。」とか思っていそうである。
長々と書いたが、私は本作の裏テーマは「エロゲーマーを皮肉り叱咤激励する作品」であると結論付ける。勿論、完全な言いがかりであるし、妄想甚だしいことも自覚しているが、我慢ならない不満点を解消するにはこの結論しか無かった。実際このような妄想をしなくても本作は物語の展開も面白いし、単純な夜子の成長物語としても大変出来が良い。その上でこのような私の妄想を裏で行える作品の奥深さを鑑みて高得点とした。勝手に妄想しまくったが、夜子=エロゲーマーは当たっている気もする。メッセージ性が強い作品だと感じた。次回作が今から楽しみである。(信者