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t2さんのジュエリー・ハーツ・アカデミア -We will wing wonder world-の長文感想

ユーザー
t2
ゲーム
ジュエリー・ハーツ・アカデミア -We will wing wonder world-
ブランド
きゃべつそふと
得点
90
参照数
867

一言コメント

能力バトル中心のダークファンタジー。ずっと暗い展開が続きエグい場面も多いが、少年少女たちの前向きさもあって鬱度・不快度は抑えめ。サクサクプレイできる先が気になる物語、わかりやすい読みやすい万人向けテキスト、敵味方サブモブどのキャラにも見せ場があり、そして世界設定と伏線大どんでん返しありと完成度が高い名作。/欠点は「本編にエロ・恋愛一切無し」と「ラスト」。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

「ここにさ。学校が、できるんだって」

「きっと……楽しいよ。色んな人たちが、明るく暮らせる学校だったら、いいなあ」





インストール容量は3.95GB

●《アリアンナ・ハートベル》
CG16枚 (通常CG10枚+HCG6枚) 回想3枠 (本編0回+おまけ3回)

●《ベルカ・トリアーデ》
CG16枚 (通常CG10枚+HCG6枚) 回想3枠 (本編0回+おまけ3回)

●《メア・アシュリーペッカー》
CG16枚 (通常CG10枚+HCG6枚) 回想3枠 (本編0回+おまけ3回)

●《ルビイ》
CG16枚 (通常CG10枚+HCG6枚) 回想3枠 (本編0回+おまけ3回)


●その他
CG31枚 SD絵はなし

合計CG95枚 回想12枠
BGMは23曲 ボーカル曲は5曲




本編にエロはありません。恋愛もありません。完全一本道です。


システムは『アメイジング・グレイス』や『さくらの雲、スカアレットの恋』と全く同じ。

文字装飾がなく文字が読みにくいです。読むゲームなので泣く泣くウィンドウ枠不透明でプレイ。
テロップ演出では文字の縁取りがあります。これをテキスト欄の全ての文字に適応してほしいです(要望3回目)。
ゲームエンジン「Ethornell」のエロゲーは毎回、文字の読みにくさに泣かされています。
ただ「Ethornell」は動作が業界最小級の軽さ。低スペックPCでもサクサク動くのは好感。

セーブファイルが80個しかないのも全然足りていない。『アメグレ』『さくレット』『ジュエハ』3作とも無理矢理バックアップ取って160個使いました。

立ち絵は2パターンと少な目。サブ男は1パターンなので特にメインキャラの《マークス》が王子ポーズ?しかないのは可哀想。
キャラ自体が多く立ち絵ありキャラの数は多いですが、立ち絵がほしいサブキャラがもっともっといます。

エロ絵は6×4=24枚まで減っています。
ここ2作はCS移植しているメーカーなので通常CGがある程度ないとCS版が悲惨な事になります。そこでエロを削るわけです。
その分、重要イベントシーンのCGは気合入っていました。枚数も増えてます。
どのメーカーさんもエロCGの枚数減少の傾向にあります。エロゲーなのに。

また聞いたことない謎の新人声優さん達が並んでいます。《メア》の棒声は特に酷かったですね、解説キャラなので長台詞が多いだけに。
準ラスボスの《ギメル》は大御所を使ってくれましたが。EDテロップ(真)の声優さん一覧がすごい人数。

BGMは23曲まで増えました。明らかな不足は無かったですが、ボリュームがあるシナリオゲーなので個人的にはもう少し欲しい所。
40~50曲あると理想、30曲強が現実的なラインでしょうか。1stOPを削れば予算確保できるはず(CG枚数と声優さんの数を見るとかなり予算かけていますが)。









本作はダークファンタジー。
テキストは丁寧で読みやすくわかりやすさ重視。行動1つ1つが理詰めなので頭にすっと入ってきます。

最初こそ学園モノ、バトンリレーから始まりまたほのぼのゲーか?と警戒しましたがそれはフェイク。
隕石襲来からはバトルシーンが多くなります。日常シーンはなく学園モノぽくなくほぼ前線基地扱い。
でも楽しかった日常からの落差があるから面白くなるのです。とにかくバトルばかりなので退屈しません。


サブキャラやモブキャラはたくさん死にます。
5~8話の《メア》編は虐待シーンが多くかなりエグいです。《ゲゼルマン》はなかなかの鬼畜さですね。
エロゲーは18歳以上向けで、これくらいのダークさ・シリアスは必要です。面白くするためならいくらでもシリアスを入れてください。
ただプレイヤーは不快になりたいわけではないです。面白さと不快軽減の両立を求めています。
絶望的な展開でも絶対に諦めない、常に希望があることで不快度を軽減し面白さだけを残してくれているのです。

この子たちはみんな意志が強い頑固者の「子供」なんです。軍の指示に従わず何回でも勝手な行動を取ります。
それでも意志を貫き通して成長していく子供たちは眩しかったです。大人や政治と、ペガサス組の子供たちの対比も良く出来ていました。

ペガサス組は最初は仲が悪く、何回も何回もぶつかりながら友情を深めていきます。それぞれ同じ方向性を向いていません。
6人が全員同じことを言っているわけではなく、それぞれ独自の答えを持っているのはポイント高い。
《マークス》なんかはネタキャラから大きく成長していきます。

最初は《アリアンナ》の戦いは止めようよ説教はウザかったです。それでも何回も繰り返していくことで説得力を増しています。
《メア》編終盤の「だから――友達ってのは――喧嘩するもんなんだぜ!!」の台詞は刺さりました。大好きなシーンその1。
最初は嫌いだった《アリアンナ》がどんどん好きになっていくんですね。ただ綺麗な言葉を並べるだけではなくちゃんと殴り合いが必要なのです。
主人公ポジが《アリアンナ》、囚われのヒロインポジが《メア》になります。《メア》のあの服装は反則的な可愛さ。



「現実世界の常識を覆す叙述トリック」。
最大の伏線回収はほとんど気がつかなかったですね。「リビュア」への長旅で食糧はどうするんだ?と思ったくらい。
あの吸血CGを見ても「え?」って感じで理解が追いつきませんでした。いやーよくこんなトリックを思いつくなーと敬服します。
ちゃんと最大トリックが物語の世界観と直結しているのも良い。
私たちは「吸血鬼は日光に弱いはず」という常識があるからハマってしまうのです。
また亜人間(今回は獣人)が出てきた場合、他にも(正体を隠している)亜人間がいることを疑わなければならない、といつも書いているのに気がつかず。

ただ同時に賢者の石が日光耐性をつけるものならば、この物語のオチが予想できてしまいます。
「《アリアンナ》が覚醒して吸血鬼が人間の血を吸わない世界になる」。10話時点でのオチ予想は当たりでした。
でもオチがどうこうより《ギメル》との直接対決があるだけで十分でしょう。その後のオチはどうでもいいのです→(本当にどうでもよかった)。


9~11話の政治の話は少しだけダレだかなあ、と。まあ必要な話ではあるんですが。
他種族との共存を強制するのではなく、棲み分けを提案しているのは納得できました。
しかしこの手のバトルファンタジーで政治解決しているのを見た事がなく、破談するのは予想通り。
最重要人物が演説中に銃撃されるとか物凄くタイムリーな。2022年7月現在、世界で戦争真っ最中なのも『ジュエハ』の世界観を楽しめた要因。

大好きなシーンその2は《マークス》vs《ヴェオ》のシーン。男は拳で殴り合うものです。このゲームは少年心をくすぐる熱いシーンが多くていいですね。

《セシリア》編はオチは大体予想は出来ていましたが、最もストーリー上重要なところで、メインプランで最大の破壊力になるように使っています。
予想通りなのにこのシーンはボロボロに泣きました。これ反則でしょ。大好きなシーンその3。
ああこれなら吸血鬼を全部滅ぼすような強すぎる「意志」でも大いに納得、と強い説得力がありました。
「冬茜トム」さんのエロゲーは最大トリックのほうに話題が行きがちですが、私はこのシーンのほうが好きです。





ダメな所も(シナリオで)。

バトルが多いですけどバトルは2流だと感じました。(1流>2流>3流>4流>そっくりさん>映す価値無し なので上から2番目)
私は燃えゲーや燃えラノベはあまり読まないので、バトルについては他の人の感想のほうが参考になると思いますが、と前置きして
勝ち負けが一方的でどっちが勝つ流れなのかすぐにわかってしまいます。駆け引きが弱いです。
ピンチになると主人公が誰か助けてくれるフラグを立て、誰か来るor覚醒のワンパターン。

少年の心をくすぐる熱いバトルという点では十分に成功しています。純バトルではなく説教シーンとしてみるといいかもしれません。


ラスボスは何ですかこいつ。他全員が魅力満載なのにぽっと出のサブキャラがラスボス???動機もひっどい。
他種族と手を組む為に全人類の敵となるラスボスを用意したかったのはわかりますが、
それは《ソーマ》《ルビイ》で出来ていることで全人類に強制的に適応するのはどうかと。まだ早い。
「敵幹部がいきなり仲間になる」「偽エンド」とかいらないいらない。
せっかくループゲーから脱却できたのにこれではまた次もループと言われてしまうでしょうに。

まあ20分で終わったのが唯一の救いですか。その後の超展開・ご都合主義エンドは完全予想通りなので何も言わない。
きっとCS移植すると思いますが、シナリオ変更してラスボスを削除したほうがいいと思います。《ギメル》ラスボスに改変しても誰も文句言わないはず。





名作でした。

ダークファンタジーの良さを引き出せています。ちゃんとエグい展開を入れつつもキャラの前向きさで不快・鬱を軽減。
日常少な目でガンガン進む、バトル多めで飽きません。
世界設定や最大伏線の出来も非常にいい。
味方も敵もメインもサブもモブもキャラ全員1人1人に個性があり、少年少女の成長物語になっています。

そして何よりも万人向けのゲームです。
読みやすい、わかりやすい、癖が少ない。多くの人に自信を持って薦められるシナリオゲーですね。
購入検討している人は、「絶対買いなのですぐにエロゲ屋にGo!」と言っておきます。

ラスボスは無かった事に。










2017年に『もののあはれは彩の頃。』を発掘した1人として。
「冬茜トム」さんのエロゲーは『サイコロ』『アメグレ』2作とも購入前の期待値を大きく超えてくれました。
前作『さくレット』は私の発売前期待値より下の内容でした。期待値が高すぎたかあと思いながらも色々書きました。

本作は過去作で指摘した欠点を全部直してくれましたし、トムさんの全く新しいシナリオ路線が見れて大満足です。
これからも「冬茜トム」さんの活躍に期待しています。


最後に素晴らしい名作をプレイ出来て本当に良かったです。
ありがとうございました。