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syakuさんの月陽炎 DVD Editionの長文感想

ユーザー
syaku
ゲーム
月陽炎 DVD Edition
ブランド
すたじおみりす
得点
95
参照数
372

一言コメント

発売された時期も踏まえて考えると傑作の域に入るのではないかと思います。確かに直すべき点も多いのは確かですが、当時としては創意工夫にあふれた試みが多く見られ、今のゲームと比較しても十分に面白かったです。シナリオもテンポよく、前半部分の日々の掛け合いだけならば満点の出来とも言えるでしょう。以下長文。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

月陽炎と月陽炎~千秋恋歌で構成されてます。点数は2つの作品の満足度を合計したものです(月陽炎85点、千秋恋歌10点)
このスタッフが作ったclover heart'sが個人的に非常につぼだったので、この作品を試してみたのですが・・・・・・思いのほかよかったです。
日々の掛け合いなどはヒロインたちの個性が生かされた、非常にのりのいい会話で構成されており、シリアスなところも上手くまとめられていたような気がします。ただ、伝奇物などを書くのがあまり得意ではないのか、少々伝奇部分の必要性を感じないような後半部になってしまっていました。戦闘の部分は書きなれていないのか、少々日常の記述とのレベルに差があったと思います。
誰もが不幸になることなく、幸せにはなれない、誰かが傷つかねば誰かが幸せにはなり得ない。そんなシナリオなので、単なる萌えゲーだと思ってやると、いい意味でも悪い意味でも衝撃を受けます。死生感などをテーマにするゲームがあまり好きではない方は控えたほうがよろしいかと思いました。結構重いです。また、最初はどっちにしろバッドエンドを見て、そうならないようにしていくというシナリオの薦め方を強要されるので、実際のところゲームを何周もすることになります。
あと、最後の幸野双葉のシナリオはいろいろな意味で笑えました。いや、このシナリオが必要だったかといえば否ですが、まあ、面白かったので(シナリオというよりも存在が)よしとしましょう。
イラスト的には、少々立ち絵は気になりましたが(特に美月)、全体のCGなどは綺麗にかけていました。音楽は少々雰囲気から逸脱しているものもありましたが、全体の雰囲気はとてもよかったです。

各シナリオに関して(月陽炎)
美月編
活気のいい、元気な娘さん。ツンデレ属性もちです。最初の最悪の出会いから彼女が主人公に心を許し、べたべたになっていく過程を楽しみましょう。しかし、彼女のシナリオが元気いっぱいの明るいものか?そんなわけなかった。堕ち神の子孫で、彼女が事件の原因となっているだけあり、シナリオは重い話になってます。
最初の分岐で下を選ぶと強制的に彼女のシナリオになります。で、どう頑張っても一回目はバッドエンドになるのですが、このバッドエンドが強烈でした。これで終わりではないのでちゃんとゴールを目指し、何周もしてください。TRUEエンド以外はどれも実際のところ普通のゲームではバッドエンドといえるような感じなので、せめて幸せといえる領域のエンドが見たいのであればTRUEエンドを目指して頑張ってください。個人的には美月との日常が非常に楽しかったので良しとします。

柚鈴編
銀の髪のおとなしい女の子。最初は対人恐怖症ですが、主人公に対して次第に心を開いていきます。本来の自分を取り戻した後の彼女の健気さはイイ。
本当は主人公の片割れであり、一回目のシナリオでは結ばれると主人公が消えます!これで終わりではありませんよ。
彼女のシナリオが個人的には最もHappyエンドに近い位置にあるのではないかと思ってます。彼女のエンドのうちのひとつが千秋恋歌の画面になってますから。主人公の能力、他のヒロインたちの設定もこのシナリオが一番生きていたように思います。

鈴香編
普通の恋愛に少々伝奇を加えただけ。サブヒロインならこんなものか、という程度です。鈴香の、母と妹が人でないと知ったときの豹変振りに少々唖然としました。

葉桐編
「背徳の」というフレーズのよく似合う。シナリオは軽く、旦那さんがかわいそうと思うくらいでした。

双葉編
名前が幸せの双葉ですから、clover heart'sはここからとったのかな?と思いました。シナリオは主人公が突然神社の跡継ぎ息子から探偵へと変わってます。いや、これなんか違うだろ、と。
シナリオは作品が別の舞台へ変わっているためなんともいえません。

千秋歌恋
鈴香編
父が事件で死ぬことなく、親子として暮らすことが出来るかという題目のお話。死の倭際になってようやく親子らしくなるというありきたりな展開なのですが、そこに至るまでに苦労します。

双葉編
何だ、この三文小説は。

といった感じでした。もし千秋恋歌に美月、柚鈴のシナリオがあったなら、満点もあったのではないかと思います。これが進化して幸せの四つ葉になったのだと思うと感慨深いものがあります。では次回作Triptyckに期待しつつ。