ヒロインとの恋愛と、魔法という奇跡を通して描かれる『幸せ』のかたち。
総評としては、なかなか面白かったと思う。
前作は未プレイのため、オマージュやファンサービス要素は全然わからない。80という点数は純粋にはぴねす2だけを見た評価なので、シリーズのファンならばもう少し点数が上がるかもしれない。
魔法学園という設定、第一印象からくる雰囲気などから感じられるとおり、ライトなエロゲーです。
可愛らしいヒロインと学園生活を送り、巻き起こるトラブルを解決して幸せになるという流れは実にオーソドックス。
不快すぎるキャラもいないため安定感があり、かわいらしい立ち絵がくるくると動き回るのでクリックしているだけでも楽しいのはスゴイと思う。多くの人が抵抗なく楽しめるというのはそれだけで評価できるポイントなので、体験版が肌に合えばプレイして損はしないはず。
個別4ルート+グランドルートの計5本で構成されており、どのルートにもそれぞれ良さがあったと思う。
ただ、世界観や舞台設定に甘いところがあるし、特定のキャラクターに関しては掘り下げが不足しているという印象もぬぐえなかったので、そのあたりがしっかり埋められていたらもっと満足感は高かっただろうな、というのが正直な感想。
○舞台設定に関して
今作の舞台である御咲市には、魔法に関わる不幸なシステム『呪い』が人知れず存在している。
ものすごく簡単に説明すると、10年おきに一人が生贄として選ばれて、町に住む人たちの幸福のために死んでしまうというもの。
このシステムを作ったのは千年以上も前に実在していた一人の魔法使い。
つまり、人為的に作られた生贄システムによって大勢の幸福が担保されている、という設定。
なかなか残酷なシステムだけれど、なんのリスクもなく魔法という奇跡をバンバン使われるよりはしっくりと来る。
また作中の時間は生贄システムが発動する十年周期に当たっているため、個別ルートでは「どのようにして『呪い』を迎撃するか(迫りくる不幸を回避するか)」というポジティブな行動がルート終盤に組み込まれるため、主人公やヒロインの前向きな行動が見ていて気持ちいい。
設定を羅列するとエグいけれど、作中での描き方は必要以上にシリアスにならないような作りになっているのも良いと思う。
主人公の両親が呪いで死んでいる(呪いそのものでは死んだわけではないが)点や、楓子の母親が心を病んでいる点など、暗くしようと思えばできるところはすべてあっさりすまされているし、「呪いに関わった魔法使いはその記憶を失う」という設定によって真相を知る者が限定している部分も上手い。
はぴねすの明るい世界観を壊さないように配慮されていたように思う。
○共通ルート
前述した『呪い』に関する情報はほとんどなく、あくまで魔法使いの通う学園での日常が描かれる。
突拍子すぎる性格のキャラクターはおらず、なんというか「古き良き時代のエロゲー」という印象。
花恋との出会い、プレゼントの修繕などは前作の流れを踏襲しているらしい。そういう思い出がないプレイヤーとしては若干くやしい。
主人公はよく見る「高スペックだけどあまり社交的ではない」タイプ。
妹たちや腐れ縁の幼馴染とは騒げるが、それ以外のコミュニティに関しては淡泊な態度を取る。
両親の死や十年前の呪いによる記憶障害とかが原因なのだろうとは思うけれど、それにしては主人公の性格の作りはけっこうテキトーで、個別ルートに入って交際してしまうとすぐにバカップル化してしまう。
表向きはクールだという設定は、実のところまったく使われていないので、だったら設定しなくてもいいんじゃないかと思ってしまった。
「かつて憧れていた同門の魔法使いの少女」に対する、主人公の感情があまりに薄いため、そこも勿体ない。
強く思えば思うほど花恋との恋が盛り上がるし、本当の幼馴染である璃乃に対する無意識のアプローチにもなったはずなのに。
「まあ……会いたいかと言われれば、会いたいけど……今さらだしなあ」みたいなテンションでは読み手のほうが困る。なんなんだよこいつ。
表向きはクールだけど実は熱いんだろう? そういうキャラならいつかは再会したいと強く思うほうが自然だ。
弥篝先生に記憶を封じられているから仕方ないかとも思ったが、そのへんは指輪の力とか、式年祭の年になった影響で記憶のフタが外れたとか、いくらでも理由がつけられるはず。頻繁に夢を見るようになるだとか言っておけば、花恋と出会ったプロロ―グはもっと運命を感じたものになったのではないか?
プロローグはバレンタインの数日間で、チョコを貰うついでにヒロイン紹介ができてしまう実に自然なつくり。クラス委員長が自宅に届けに来たり、作っているはずなのに妹の一人は気恥ずかしさから渡してくれなかったり、年上の先輩からはからかいまじりに渡されたりと、チョコにまつわる行動でヒロインたちの性格が把握できてしまう。上手だな。まだ転校してきてもいない花恋からすらチョコを貰う主人公すげえ。
花恋の転校や花見、魔法学校の模擬試合など様々な日常を経たのち、前述した『呪い』に対抗しようとする弥篝先生と再会する。
以降、ルート分岐。
○花恋ルート
エロゲーの正統派美少女のようなキャラクター。
成績優秀でスタイル抜群、魔法の才能もある。
おしとやかな敬語キャラだけれど自分の意見を通す頑固さも持っている。
魔法使いの少ない地域で育ったため、人前で魔法を使うことに抵抗感がある(マジックワンドに喋らないように言い含める描写も多い)。
10年前の『呪い』の犠牲者になるはずだったが、主人公に命を救ってもらったことから好感度も最初からマックス状態。
これぞセンターヒロインと言った感じだが、裏を返せばアクがないとも言える。人によっては一番つまらないルートにもなり得るかもしれない。
なお一周目はこの子のルートに固定される。
キャラゲーでルートロックかぁと少し萎えたけれど、終わってみればそれも納得。
花恋ルートは、はぴねす2を楽しむために必要なチュートリアルとしての役目も兼ねているため、これはむしろ配慮だった。いきなり熾月や楓子のルートに進んでもわけがわからないこと必至なので、むしろロックしてくれていて助かったと思う。ちゃんと物語も楽しんでほしいという制作陣の気配りだと受け取った。
が、しかし、選択肢がないからこそ、この子のルートはもっと面白く書いてほしかった。
ストーリーにおける事件性のことを言っているのではなく、花恋という女の子の掘り下げがあまりに物足りない。
花恋を助けたのは主人公だったが、主人公の思い出の少女は花恋ではなかった。
二人を結び付けたキッカケが実はすれ違っていたということがわかるこのシーンは、とてもオイシイ状況のはず……なんだけど、日付けも跨がぬままにアッサリ解決してしまう。
しかもその解決法は、花恋のほうが決断をするという流れ。
もう少しシナリオの溜めとか、主人公の見せ場とか、ないもんかなぁ。
共同詠唱のことに絡めて進めればちゃんとした恋愛モノになったはずなんだけど。
付き合い始めても大したトラブルは起きないし、魔法の練習という名のお決まりなイチャコラが続くばかり。
付き合う前と後で、花恋に対する情報がちっとも増えない。共通ルート時の印象そのままにエンディングを迎えてしまう。
嫉妬深いとか、独占欲があるとか、ベタベタ甘えてくるとか……なんでもいいんだけれど、恋人関係になったからこそ手に入る花恋像がない。端的に言って退屈だった。
せっかくお節介で口達者なロッシュというマジックワンドがいるのにぜんぜん喋らないのも解せない。存在を忘れられているんじゃないかとすら思った。……ああ、あんまりですよ、花恋。
あと「ゆうくん」の設定はマジでいらないです。
主人公とすれ違っていたことが大事なのであって、思い出の男の子が主人公とイコールではないかもしれない、なんて葛藤はノイズでしかない。ミスリードにもなっていないし……。
○璃乃ルート
勝ち気なクラス委員長で、クラスBの魔法使いで、幼少の頃から主人公を一途に想っている健気さ(主人公は幼馴染だったことすら忘れているのに)があり、それなのに花恋ルートでは自分を省みず花恋の気持ちを応援する人の良さを見せつけ、勉強だけでなく料理だって出来る家庭的な一面を持ち、付き合う前はツンツンしてるくせに付き合い始めたらデレデレの甘々……いったい何役乗せてんだと言いたくなる一人跳満娘。
災いや呪いのことは完全に廃して、璃乃との恋愛関係、魔法試合への挑戦のみに絞った思い切ったルート設計となっている。
根幹にまつわる話を一切捨てているにも関わらず、クオリティは全ヒロイン中最高の出来栄え。プレイ中に何回ニヤニヤしたか覚えていないほど。
会話がとにかく楽しくて、パブリックとプライベートで主人公の呼び方が変わるなど細かいところでの描写が生きていて、本当にキャラがイキイキとしていた。
璃乃の性格や生い立ちを、ライターさんがしっかり考えてくれたのがよくわかる。蛇口の表現はかなりイイ。バカップルならこーいうおかしな表現、マジで使ってそうだ。キュッキュッ。
主人公の思い出の少女が自分であったことを告げ、気恥ずかしさから「今は何とも思っていないけどね!」なんて言っちゃって、それを真に受けた主人公が、「でも俺は好きなんだ」と告白しに戻っていくシーンがすごく印象に残ってる。やったぜ……ツンデレの意地っ張りが……報われた……。
マジックワンド・アンペアにまつわる秘密は璃乃の弱さにほかならず、幼少期の約束と絡めてそれを解決する流れもすごく自然だった。腹話術ネタでイジったら面白いかなあとも思うけれど、トラウマをつつく悪趣味ネタにもなっちゃうからやっぱりナシか。
ともかく大好きです、このルート。
○熾月ルート
二年ぶりに再会した双子の妹の片割れ。
不器用な恥ずかしがり屋……なのだと思う。熾月のルートはお話を追うことに夢中になりすぎていて、熾月のパーソナルなところの掘り下げが少ないため、実は性格を掴みきれていない。かぼちゃと兄さんが大好きなことは確実なんだけどな。
コミュニケーション力に乏しく、自分の力でなんでも解決しようとしてしまうのが玉にきず。
優秀なのは間違いないが天才ではないというのがポイントで、熾月にできないことは結構多い。そこをフォローしていくのがこのルートの核となる。
璃乃とは違って『呪い』のことを中心にストーリーが進んでいく。母親が死んだ原因となった計画の情報などが開示されるため、グランドルートの予習といった面も併せ持つ。誰もが思いつく安易な解決法があり、それを実行してしまうのがこのルート。読み進めることで、グランドルートで超えるべきハードルが高くなっていく構図は良かった。
しかしキャラクターとしてはもう一歩、踏み込みが欲しかった。
熾月はクールぶっているけれど兄が大好きなことは共通ルートの時からわかりきっているので、もっとちゃんと色々なアプローチをしてほしかったように思う。
マジックワンドが傘なんだから、雨のなか相合傘とかしてほしかった。スコットランドは雨が多いから、一人きりで傘を差して帰ったこと、絶対に何度もあったはず。二年間、どういう気持ちで離れていたとか、熾月の口から聞きたかった。近親セックスすることだけが付き合うってわけじゃないでしょ?
共通ルートでなにかモノを買ってあげようとしても遠慮してしまう前フリがあったのだから、個別ルートのデートでは何かプレゼントを買ってあげてほしかった。そうすれば終盤、使鬼守の力で記憶を失ったときに「これを覚えていないのか」って言えるし。
他にも花恋や楓子ではあったラインのトーク画面も、熾月は使ってなかったか。なんとなくだけどこの子、チャットとかだとめっちゃ饒舌な気がする。スタンプ使いまくるとか。ないかな?
両親が死んでしまった空白を、使命というもので埋めて息苦しい生き方をすることを選んでしまった妹に、別の道を提示すること自体は自然だと思う。
けれど主人公の取った行動は兄妹で付き合うという、軽い覚悟ではできない行動なのは間違いないわけで……熾月のオナニー見てからあっという間に交際まで発展してしまうのはどうにも勇み足な気がする。実妹との性交はモラルが、なんて無粋なことを言いたいわけじゃなくて、もうちょっとちゃんと恋愛してくんねーかなぁという不満があるとだけ。
オナニー見て、妹に『女』を意識して、そのまま付き合ってセックス……書き手としては楽そうだけど、熾月とのコミュニケーションを期待していたプレイヤーとしては残念な流れだった。
ただエロシーンに関しては、どのシーンもなかなか良かったと思う。
特にアフターの、無理してS役を演じるところなんて最高だった。主人公が興奮しているエロシーンは当たり前だけれど、ヒロインのほうが興奮しているエロシーンは貴重なので。
あとスタッフロールを見て知ったけれど、アルバの声優って六介だったんすね。
熾月と付き合い始めてから「じゃあ俺は瑞月ちゃんと!」なんて言ってたシーンが印象的だったんでね。アルバから「兄君」って呼ばれるたびに噴きだしそうになる責任は取っていただきたい。
○楓子ルート
占い研究会の先輩。
黒髪ロングの大和撫子だが、主人公をからかうことが大好きなかなりお茶目な性格。エロさを出さないからかい娘は好印象。
主人公とは親同士が(冗談で決めたっぽい?)許嫁関係。そのため頻繁にそのネタでいじってくる。けれど他ヒロインと付き合い始めたらそのいじりは一切なりを潜めるので、実は意外と空気を読める人だったりする。
作った料理がすべて唐揚げになるという謎の料理オンチを披露してプレイヤーを恐怖に陥れる。フィクションラインは高めだけど嫌いじゃないよ、このシーン。「あ、普通の唐揚げだ」ってセリフで笑わせられるとは思わなかった。
『呪い』にまつわるお話としては、一番良い解決法を提示してくれるルート。プチグランドルート、と言い換えてもいい。個人的には最後に攻略することを推奨。力技でなく、主人公との交際を経て視野の広がった楓子さんでなければできない解決法が打ち出されるため、読後の満足感も非常に高い。ただテーマに真摯に取り組んだ結果、若干の勿体ない部分もできてしまっている。
たとえば一子さん。
楓子さんに、魔法使いとそうでない人の違いなどない、という考えを根付かせる重要キャラなのだけれど、立ち絵が存在しない。必要になって急に作ったキャラ、という気がする。
この役目は共通以降、空気になってしまう菜生にさせることがベストであるのは間違いないなくて、じゃあなぜできなかったのかというと「学園の生徒はみんな魔法使い」という無駄設定があるからだと思う。
調べてみたらはぴねす1は、魔法使いでない生徒もいるらしい。なぜそうしなかったんだ? そもそも学園全員が魔法使いって絶対に無理があると思う。日本全国で魔法使いは3000人しかいないのに、主人公たちの学校、予科を除いて、一クラス40人で一学年がA・B・Cの三組だとしても全体で360人。十分の一以上の魔法使いがたった一つの学校に集まっているって……それもう存在してないのと同義では? そもそも3000人って、日本の総人口の0.0024%なんですが。レアすぎませんか、魔法使い。
楓子さんは実は魔法使いではない。そんな危うい立場の彼女だからこそたどり着けたルートであったことは間違いないのに、設定が足を引っ張っている。背景設定はしっかり煮詰めておいた方が、キャラクターを描写するのも楽になると思うんですけれど。
ストーリーはかなり練りこんでいて、では恋愛方面はどうかと言うと、彼女のルートはなかなかよく出来ている。
無理に用事を作って主人公との時間を増やしたり、ちょっと離れただけなのに寂しくなってラインを送って来たり……これがあの、バレンタインの時にキスと見せかけてチョコを食わせてきた女なのかと思うくらいの変貌を遂げる。全ヒロインを通して屈指の初心さを誇っている一個上の先輩……こういうのを求めてたんですよ。
1.5倍速でちょこちょこ動くシーンめちゃ可愛なんで必見。こういうエロゲーでないと出来ない表現は大好きです。
余談だけど、このルートではちゃんと菜生や六介にも出番があります。特に六介は他ルートではウザいばかりだったので、こーいうシーンがあってくれて嬉しい。ただアホなことを言うだけの悪友なんて悲しいもんな。
○グランドルート(瑞月、真白ルート)
今までの総まとめを行うお話。
主人公のマジックワンドの秘密が明かされて、個別ルートで得た情報すべてを「並行世界から持ってくる」という力技で結集させ『呪い』のシステム関連へ最終決戦を挑む。
魔法使いは数多ある可能性から一つを選ぶ、より幸せな未来を目指して手を伸ばす存在であると色々なルートで示されていたとおり、とても前向きで救いのあるエンディングへと落ちつけてくれた。
この世には残酷な現実がある。それを解決できるのは、一人の天才魔法使いでもなければ、優秀な魔法使いたちの集団でもない。
みんなの力が必要なのだ。
小さな不幸があるからこそ、人は幸せになろうと思える。
『過い』を受け入れてこその『はぴねす』。このあたりは素直に上手いと思った。パワースポット壊せばいいじゃん、魔法使いの数なんて少ないんだからその力を手放してしまえば? なんて思っていた自分が恥ずかしい。作品テーマをきっちり回収しきって、しかもハーレムエンディング。拍手です。
ただ、ラストの真白は……なぜ戻ってきたのか。
いや戻ってくるなとは言わない。けれどせめて、母親としての人格は消えていてほしかった。死んだ主人公の父親が浮かばれないし。
そもそも、そこで消えなかったら何のための『過い』なのかわからない。母を失った悲しみがあるからこそ、主人公たちは幸せを掴むために未来へ向かって行動するのではないの?
感動した直後にいきなりハシゴを外された気分で……まあ……みんな幸せそうだけどさ……いいのか、それで……?
総評としては、
・キャラゲーとしては優劣のあるルートがある。
・シナリオゲーとしては意外と作りこまれているが、設定の瑕疵が目立つ部分もある。
といった感じ。
最初にも書いた通り、体験版をやって不満がなければ、最後まで気分よくプレイできる仕上がりなのは間違いない。
幸せが最近足りていないな、と思う人にお薦めします。