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swiftさんの約束の夏、まほろばの夢の長文感想

ユーザー
swift
ゲーム
約束の夏、まほろばの夢
ブランド
ういんどみる
得点
79
参照数
714

一言コメント

ノスタルジックな田舎町で、ファンタジーな能力を持った幼馴染たちと繰り広げるひと夏の物語。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

商業、フリーを問わず見飽きた設定ではあるけれど、丁寧な作りなので好感の持てる仕上がりになっている。

不思議な巫女の幻影、因習の残る田舎町など、設定だけを見ればいくらでもシリアスやファンタジックに振ることはできるのに、それがうるさく絡んでこないところも嬉しかった(だからこそりんかルートはあまり面白くない)。

全ヒロインが『幼馴染』かつ『能力持ち』という、根幹部分でのキャラかぶりをしているにも関わらず、ルートごとに書きわけが出来ている点は大いに評価したいところ。
生まれた頃からの友人であり、物語開始時点ですでに全員が一つ屋根の下で暮らしているという設定もあったせいで、共通ルートプレイ時は「これ、個別に入ったらどうやって惚れるまでを描くんだろう?」と首をひねっていた。

結論としては、全ヒロインがとても自然だった。プレイするたびに「なるほど、こう来るか」と感心していたように思う。個人的には陽鞠ルートの付き合い方が好みかな。

ただ上記のとおり、ファンタジー設定で横槍が入るりんかルート、またシナリオ進行がうまくいっていないように感じた星里奈ルートなど、キャラゲーとして見ると足を引っ張っている部分があるのも事実。


●共通ルート
田舎町の描写、主人公を含む幼馴染メンツと学校仲間たちを交えた日常が描かれる。
とにかく立ち絵がよく動く。漫符表現に効果音も賑やかで、キャラクターたちの奇人っぷりもいいマッチング。
個人的に効果音は非常にやかましく感じたけれど、そのあたりはコンフィグ弄ればすぐに快適になった。

ただし、冗長の傾向もあり。
神社で踊るなんていう奇抜な登場をしたりんかとの仲はなかなか進展しないし、幼馴染たちが出揃うのも遅いし……配役が揃うまで長すぎてダレる。

ルート終盤、りんかが『にっきけしごむ』という能力を持っていることが明かされ、実は彼女は幼馴染メンツの一人だった、ということを全員が思い出すことで共通部分は終了する。


以下、攻略順に短く感想。


●渚沙
典型的ツンデレ……のように見せかけて、実は臆病なオタク。アホキャラに擬態している陽鞠と違い、彼女は根っこからのアホ。
能力は「ひみつでんわ」。テレパシー能力は彼女の性格に非常にマッチしている。

四人の中で、渚沙ルートが一番面白かった。
主人公に対して積極的なアプローチをかけてくれる可愛さ、素直さ。
「こころえのぐ」を自ら望んでかけてもらう依存性を見せるのも渚沙だけ。
臆病さゆえのいじらしさが堪能できるし、チーズケーキのアプローチや河原で水着デートなど、固有のデートイベントがきちんとあるのも嬉しい。

「こころえのぐ」への依存がそのままルート終盤での見せ場を盛り上げるようにもなっているのもイイ。
七夕の過去をキャラ切り替えして連続して思い出すのはいいアイデアだと思う。織姫と彦星って表現は上手かった。



●星里奈
精神修行を疎かにした剣道少女。鍛え抜いたフィジカルで、脆いメンタルを覆い隠す乙女。
能力は「あしたよほう」。ランダム発生する未来予知。
元からの星里奈の性格があしたよほうを引き寄せたのか、あしたよほうの影響で弱メンタルになったのか。個人的には後者だと予測。

端的に言うと、満足とは程遠いルート。
あらゆるところにポテンシャルが潜んでるように思えるせいか、個人的な心象はりんかルートよりも悪い。


プレイヤーとしてはまず「星里奈というキャラとの交流がしたい」のに、ストーリーの都合が優先されてしまったせいでチグハグになっているように思えた。


星里奈の行動に逐一、納得ができない。
直前にやった渚沙ルートの影響もあったかもしれない。渚沙には「ヒロイン視点での語り」があったことに比べて、星里奈ルートでは彼女がどんな未来を観ているのか、それをプレイヤーは一切知ることができない。もちろん見せればスッキリするというものではないと思うけれど、ならば演出の仕方はもう少し工夫してほしかった。


「なにかあったのか?」
「いや、なんでもない」

「あしたよほうで、何か見たのか?」
「いいや。なんでもないんだ」


この繰り返しの多さが本当にダルい。これを延々見せられる立場にもなってほしい。
プレイヤーから見れば「あしたよほう」関係の悩みであることは丸分かりで、踏まなくてもいい二の足をずっと踏んでいるような気分でもやもやする。

星里奈が倒れた時だって「俺がなにもしなかったから……」って主人公は落ち込むけど、いやちゃんと心配してただろ、相談に乗るってアプローチしてただろう? まだ何もコトが起きていないのに、心配して尋ねる以上の何ができるというのか? 普段の鈍感さから一転して唐突な卑下が炸裂して「ちょっと酔ってねえかコイツ」レベルまでネガが引き上がる。このシーンは嫌いだなあ、本当に。

星里奈に何が見えているのかも分からず、どこへ向かおうとしているのかもフワフワとした実感しかなく、しかもこのやりとりのせいで星里奈とのイチャラブも発生しないという悪循環……。

渚沙ルートにあったヒロインからのアプローチがない。アプローチでなくとも、可愛らしい新たな一面を見られるといった『二人だけの固有のイベント』に乏しいところが何より悲しい。キャラゲーでしょこれ? ルートを終えても今いち星里奈というキャラクターに対する理解や愛情が育っていないことがすべてを物語ってる。


涼太と付き合うまでは、普通に幸せな未来を観るとかじゃダメだったのかな。放課後に告白されるのを予知してしまって、恥ずかしいから逃げ回るみたいなシーンとか見てみたかった。予知能力を「あまり良くないもの」と決めつけてお話を作っている節があり、そこが窮屈さに繋がっていたんじゃなかろうか。

あしたよほうのおかげで付き合い始めて、あしたよほうのせいで別れたいと言い出したほうがよっぽど星里奈のキャラに合っていると思う。「お前、ちゃんと目の前を見ろよ」という説得だってもっと迫力が増すと思うし。

エロシーンも前後のシナリオの流れを分断する形が多くて、おまけに分量があるからあんまりいい印象がない。
星里奈ルートって、全体を俯瞰してみると糸の弛んでる部分がないから、エロにのめりこめないのも大きいと思う。シーン3なんてちょっと強引すぎるし。アフターストーリーはネジが良い感じに外れてて面白かったですが。



●陽鞠
天然でマイペースな妹系キャラ。ガチのアウトドア系でしょっちゅう山に消える。
能力は「うそおおかみ」。嘘を見抜く力だが、実は相手の思考そのものを一方的に聞き取ることができる。

この子に関しては、あんまり文句はない。
付き合うまでの過程とか、能力のことを明かすシーンとか、最後の締め方もうまく回っているように感じた。

ただ欲を言えば、陽鞠というキャラクターに対する掘り下げは甘かったように思う。
星里奈はイベントそのものが抑えられてた感じだったけれど、陽鞠のお話は、同じようなトーンのイベントばっかり続くから面白くなかった。共通の延長っぽいというか。特別感がないというか。

「勉強がつらい」「山が呼んでます~」しか記憶にないんだ……もう少しキャラとしての幅が欲しい……。


あと、能力のヒミツが明るみになった時に、それ以前を思い返すとけっこうわからないところが散見されるのも気になる。

例えば、涼太との交際を公表するシーン。

僕の考える陽鞠像では、付き合ってることは秘密にすると思う。心を読める設定があるのに、居間で全ヒロインを前に宣言する理由が全然わらかない。
お兄さんと付き合いました! って聞かされた直後に、りんか・渚沙・星里奈が胸中で何を考えるかなんて……知りたくないでしょ、絶対に。
見たくない感情を見てしまうのが辛いと涙ながらに訴える陽鞠のシーンはなんだったのか。
この時の陽鞠が何を考えていたのか、割とマジで不明。煮詰め方が甘いと思う。


ただ、付き合い始めるキッカケとか、もう少し山に行く時間を減らしてみんなと過ごせば良かったですとか、うそおおかみの真相が判明してから思い返すと、随所随所でグッとくるセリフがあったのも事実。よく書けているからこそ、意地悪になっているのも間違いない。



●りんか
全ヒロインを通して一番ファンタジックなまとまり方をするルート。
能力に関するネタばらしもあるため、攻略順番は最後に回すのがベター。

けれど真相がわかったところでスッキリすることもなく……というか盛大にもにょる。

結局、りんかに憑りついていたあの巫女さんは、他ルートではどうなっていたんだろう? というところがすごく気になる。


渚沙ルートでも能力は消えてたけれど……あれって、どうやって消えたんだろう? 五つの魂が自然に戻るわけがないし(戻るんだったらりんかが帰って来なくていいはず)……なんだろう、寿命でも来たのか? もしそうだったら悲しい。

好意的に解釈すれば、五分の魂の内、二つだけでも恋によって孤独を忘れられたから、満足して消えていった……と思えなくもないけれど。
でもそれだと、やっぱり残りの三つは孤独のまま死んでいるし……。

りんかと見た目がそっくりですもんね、あの巫女さん。もう少し設定を煮詰めて、スッキリする終わりにしてほしかった。ちょっと設定がフワフワしすぎてて、雰囲気でゴリ押ししている感じが否めない。



●総評
もっとこうしてほしかったという欲をたくさん感じたゲームだった。
もっと恋愛模様を書けたはずだし、もっとヒロインとの交流を楽しみたかった。
具体的に言うと、エロシーンを一つぐらい削ってもいいから、そのぶんをデートイベントとかに使ってほしかったくらい。

エロシーン自体は描写量もあって読み応えはある。かなり力を入れているんだと思えた。ただ星里奈のように、話の腰を折るようなテンポの悪さも感じたので、そのあたりを次回作に生かしてくれたら嬉しいなと思う。