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sweets443さんのサクラノ詩 -櫻の森の上を舞う-の長文感想

ユーザー
sweets443
ゲーム
サクラノ詩 -櫻の森の上を舞う-
ブランド
得点
87
参照数
187

一言コメント

物語の構成に矛盾はなく完成度の高い話ではあるが、読者から作品に歩み寄る姿勢を前提とするため、人に勧められてプレイするゲームではない

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

サクラノ詩について、芸術に対して深い理解があるわけでもなく、引用元の作品をすべて知っているほどの学がない人間の感想になる。あくまでノベルゲーとして考えた時の優れた点や欠点を話したい。

物語の構成など、違和感がある部分はあっても矛盾はなく、演出、音楽すべてにおいてレベルは最上級であり、作品としての完成度は高い。この時点で一定の評価ができる作品であると私は思う。

しかし、完成度の高さと楽しめる作品であるかは一致するものではない。現代の他の作品と比較すれば、このゲームは作品から読者に歩み寄るゲームではなく、読者から作品に歩み寄る姿勢がなければ本当の意味では楽しめない。

故に人に勧められてプレイするゲームではないと考えている。実際にこの作品を酷評する意見の多くは、そもそも制作者からすれば作品を評価する土台に自ら上がった上での意見とは思えないものが多かった。

もちろん、その姿勢を含めて低評価と言われればそれまでであるし、合わなかっただけのことであると私は考える。ミスマッチを防ぐために、他人に勧められたからプレイするのではなく、自分で興味を持ってこの作品に向き合って欲しいと願うばかりだ。

物語の本題は芸術がテーマであることから、キャラクターそれぞれが異なる美学を持っており、その美学を信じて行動した結果が物語の結末と言える。

美学を貫き通すことは時として何かを失う結果になることや、決して幸福とは言えない苦痛を伴うものであったとしても、主人公の直哉を中心に選択を全うする様を見届けることが物語の本懐であるように思う。他人にどう思われようとも誰かを救うために、作品を作る直哉は主人公として魅力的であった。

救ってもらった人からすれば全く弱みを見せないため、彼の弱い部分を知っていて支えられる藍がメインヒロインであることには完全に納得できた。

「美とは何か?」「幸福とは何か?」、哲学書を含めた大量の引用が入る中でも、テーマ自体は引用元を知らなくても理解できるものであり、知らなければそもそも作品を理解する土俵に立てないほど不親切な設計ではなかったと考える。

賛否が分かれる理由として、作品をどう捉えるかにもよると考えられる。満点に近い評価をくだしている人はこの作品を芸術作品として捉えている人が多いと思う。一方で、読み物として捉え、欠点を受け入れられない場合は低い評価をくだすかもしれない。

そもそもこの作品、芸術において言葉だけで表現する虚しさを説いている部分もあるため、読者の向き合い方も芸術作品として捉えるほうが正しいと考えている。

需要を考え、作品が読者に歩み寄る形で作られるゲームとは異なり、芸術とは読者から歩み寄る姿勢がなければ本当の意味で楽しむことはできないものだ。

個人的には唯一無二で良作であると思うが、欠点を無視して良いものではないと思っている。箇条書きで欠点を挙げていく。

・序盤の内容が非常に退屈なものであり、面白いと感じるまでが長い。

テーマ自体がわかりやすく、悪い意味で言えば凡庸であるため、退屈な部分を読み進めてまで得るものがあった作品であるかは人にもよる。

・とにかく引用が多過ぎる。

時に引用に対してたどり着く結論が、まわりくどく長く書いているが、結局のところ「後悔なく生きろ」の1文で終わるようなものもある。全部が全部くどく感じるわけではないが、流石にくどすぎると感じる部分があった。ライターのクセが強すぎる故で、これが好きか嫌いかで作品の評価が別れると考えている。

後は単純に特定のキャラだけではなく、登場人物のほとんどが繰り返し引用してくるため、違和感を覚えやすく物語の没入上の問題点になっていたが、ジョジョなどの有名な作品にもある作品の特色となる登場人物全体の個性的な言い回しとも捉えられるため、あくまで作品の個性として私は受け取った。

・続編を前提としているため未完成にも思える

サクラノ詩は続編を前提とした構成となっているので未完成であると考えられる。未完成の作品であるからこそ、この時点で評価をすることが難しい。

以上。個人的にはまだサクラノ詩ではまだ完全な評価はできない。サクラノ刻をプレイしてサクラノ詩の評価も最終決定したい。