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sweets443さんの旭光のマリアージュの長文感想

ユーザー
sweets443
ゲーム
旭光のマリアージュ
ブランド
ensemble
得点
86
参照数
680

一言コメント

シナリオの構成要素に一切の無駄がない上質なエンターテイメント、プレイすれば多くの人にとって今年発売したエロゲのトップ3に入るであろうこと間違いなし

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

ensembleの作品は1作品しかプレイしたことがなく、方向性としてはシナリオよりもキャラクターとの掛け合いを重視した作品を出している印象が強かったため、旭光のマリアージュの評判を聞いていてもシナリオが良いという評判を心から信じきれてはいなかった。

しかし、最初の個別ルートであるリア√をプレイしただけでその認識は覆された。キャラクター同士の掛け合いは最低限でありながら、すべてに意味のある伏線を張っており、何気ないやり取りから回収されている。

エロゲにおいて共通や個別ルートの序盤にある冗長なやり取りはなく、シナリオの構成要素において無駄のあるやり取りを省いており、必要な要素のみを残している。その上で、王道的な展開が多く、感情的に楽しみやすいことからエンターテイメントとして非常に上質であった。

具体的な内容に触れると、リア√をあれだけ綺麗に終わらせた上で、ハードルを上げたクロエ√に関しては上げたハードルを超えてきたことに驚かされた。設定的にも正妻として強すぎるリアに対して、クロエの境遇を考えるなら彼女が報われることに疑問はない。

フィーネ√に関しても実質的なグランドエンドになるわけだが、読んでいて納得のいく内容と結末であったと思う。

ヒロインだけでなくサブキャラクターにもそれぞれ見せ場があり、特にアンリエッタは√によって役割が大きく変わるキャラとなっているが、それぞれの√で死んだとしても重要な役割を果たしており、ヒロインと同格になるほど魅力的に描かれている。(これはこれでHシーンがないことに不満は出そうではあるが・・・)

中でもギャップがあったのはオンベルトで、当初は復讐対象の中で何の罪悪感も抱けない狂人枠にしか見えず、クロエ√のラスボスになることは予想できていた。しかし、主人公達と対峙する理由が後悔と善性に溢れたものであったことや、フィーネ√でも最期に主人公を助けるシーンがあり、プレイ前とプレイ後でイメージが大きく変わった。

個人的にクロエ√の評価が高いのも、他の√は悪役の魅力よりも絶望感のある強敵を演出していたのに対して、オンベルトが良いキャラをしていたのも大きいと思う。

全ての個別ルートの完成度が高く、減点となる要素もほとんどなく、最初から最後まで不満なく楽しめた作品であった。ルートを読む順序を固定化したことも功を奏したと思う。

総評

この作品でしか味わえないようなオリジナリティのあるシナリオ、強いメッセージ性があるわけではないため、期待する方向性によっては刺さらない可能性もあり、何年経ってもプレイされるような名作にはなり得ないかもしれない。

しかし、プレイすれば2024年発売のエロゲの中でも多くの人がトップ3に挙げると考えられるほど楽しめる作品であると思う。特にensembleの作品を1作でもプレイしていれば期待値を上回りやすく、復讐物のダークファンタジーが好きなら楽しみやすい。

復讐物のエロゲで近しい評価の作品を挙げるとハローレディ!が思い浮かび、個人的にこの作品は令和のハローレディ!だと思っている。

エロゲなどのノベルゲーに対してエンタメ性の高いシナリオが望まれている現在において、プレイヤーの要望に寄り添った上質な作品であったといえるだろう。これまで築いてきたブランドのイメージがある中で、思い切った方針転換を行い、ここまでの作品に仕上げたことを賞賛したい。