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sweets443さんの鏖呪ノ嶼の長文感想

ユーザー
sweets443
ゲーム
鏖呪ノ嶼
ブランド
CLOCKUP
得点
90
参照数
1751

一言コメント

賛否の分かれる作品であることは間違いない。合わない人には致命的に合わない。しかし、私は高く評価する。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

CLOCK UPで昏式氏がメインで企画・脚本を務める「Maggot baits」「眠れぬ羊と孤独な狼」「DEAD DAYS」に次ぐ4作目となる「鏖呪ノ嶼」。

全作プレイして追いかけてきたが、今作はまさに集大成とも呼べるほど、これまでの作品の良い部分を踏襲し、一番まとまっていた作品であったように思える。

キャラクターの設定に関しても、主人公の吐月完はマゴベイの角鹿彰護を思い出させる設定となっており、ヒロインの偲も羊狼のあざみと同様に生まれ持った自分の性によって悪人のみを選んで殺すところが一致していた。

今回はDEAD DAYSと羊狼のように世界観に共通のつながりはないものの、これまでの作品の良いところを掛け合わせた、まさに昏式氏の集大成とも呼べる作品であったと思う。

その上で2人の主人公をメインに、それぞれの人物の視点で群像劇的に展開する新しい挑戦を行っているが、ここに関してもよくまとまっていたと考える。

文鳴と吐月、2人の主人公に関しては呪術師であることやどちらも40代以上の年齢設定で落ち着いた印象であることから、最初こそとっつきにくい印象を覚える。

しかし、過去編を通して青臭い少年・青年時代を描くことで、主人公達の印象が変化していく。文鳴はマザコンを拗らせたまま年を取り、本質的には母親を求める少年のような心を持っており、吐月は過去の無力な経験からすべてに対して諦観しているように見えるが、それでも自分がこれまで築いてきた善性を捨てきれない所がある。

昭和から令和まで続く2人の主人公と二ツ栗家の過去を地続きに描いており、2人の主人公、それぞれにエンドがあるが、どちらも納得のいく結末で満足度が高かった。

戦闘シーンは、一部呪術に頼らない肉弾戦が描かれているものの、文章を読むだけで勝敗に対して納得できる内容であることが特徴であった。

一部の例外的な作品を除いてエロゲでは紙芝居的な演出になりやすいことから、戦闘シーンの物足りなさを指摘する声も多いが、ビジュアルノベルという媒体で戦闘シーンを表現するならディベートのような論理のぶつけ合いのほうが納得しやすく、遥かに必要な演出も少なくなる。

呪術を題材にしたバトルは呪いと言う概念や意思をぶつける戦いであるため、剣や魔法で戦うような紙芝居以上の演出による説得力が欲しくなる場面が少ないことから、ビジュアルノベルにふさわしい題材であったと思う。

減点法で作品を振り返った時、個人的には特に問題となる点が見つけられなかった。これまでの昏式氏を含めたクロアプ作品であった無限に風呂敷を広げ続けて畳みきれず、不完全燃焼で終わってしまう問題もこの作品は解消されていた。

また、シーン数を確保するために、ストーリーとして違和感のある場面にHシーンが入ることも今作は少なく、自然に没入して読み進めることができた。

しかし、ヒロインはキービジュアルでは4人いたが実質的には珠世(正直、文鳴編の真のヒロインは槐だとは思う)、偲の2人である。カノはヒロインではなくキーキャラ、姫奈にいたってはただのかませ。男キャラとヒロインとの関係性の魅力を前面に描いていることから、ヒロインの魅力を理由に購入する作品ではない。

他のクロアプ作品の傾向からおかず目的にプレイするには、腕や足を引きちぎるリョナ、大便がなくなった代わりに小便垂らすシーンばかりが多く、特殊性癖でもなければおかずに使えるシーンは少ないと思う。これまでの作品とHシーンの傾向が異なるようには感じた。

他の昏式氏の作品をプレイしていない場合は、他のエロゲと比較しても読む文字数が多く、文庫本の文章を読みなれていない人に辛いなど、合う合わないは激しいと考えられミスマッチは起きやすく、プレイした人によっては70点くらいでも不思議ではない作品であると思っている。

私はエロゲでしかできない表現を使って、全年齢では読めない面白い作品をプレイしたいと思っているので、Hシーンを抜けば全年齢に移植できるような内容ではないクロアプの作品を高く評価している。

その上でこれまでの作品で感じてきた課題をしっかり解決したものとなっており、ボリュームの多さよりもシナリオが綺麗にまとまっていることを重視しているので、私は高く評価したい。