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sweets443さんの妹と彼女 それぞれの選択の長文感想

ユーザー
sweets443
ゲーム
妹と彼女 それぞれの選択
ブランド
Waffle
得点
91
参照数
690

一言コメント

近親愛と三角関係。厳しい現実に向き合い、妹と彼女のそれぞれの選択における結末を描ききった傑作。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

「兄妹は結婚できない」時代が異なれば許されたはずの愛を、今の時代の常識は禁忌としている。主人公の慧は妹の陽香と祝福されて結ばれるための答えを探し続けていた。しかし、どれだけ探しても答えのない問題であることは明らかであった。

そこに、通常ならあり得ないが、万が一にもその存在があり得た時、新しい答えが生まれる可能性がある妹と瓜二つの女性である満月と出会う。答えのない問題に頭を悩ませ続け、すでに壊れていた慧は満月に救われ、この時から満月は慧を救うために自分を犠牲にした選択をして行動するようになる。

立ち絵やボイスだけでなく、天気や時間、窓を開けない部屋の空気などの細かな描写から登場人物達の心が澱んでいく様子が事細かに表現されていた。ビジュアルノベルで使える表現をすべて使って近親愛と三角関係の末路を描き切っていたと思う。

慧の主観で物語の全体像を読み解き、陽香の主観と、実質的なルート分岐である3人の同棲生活において妹と彼女、それぞれの選択を見せつけられる。

陽香の選択は、満月との入れ替わりで紆余曲折はあったものの、妹を捨てずに最期には心中することになったとしても兄妹のまま結ばれること。

慧も満月もこの結末を避けるために動いてきたのでバッドエンドと考えられるが、理想の幸せでなかったとしても、最期まで妹のまま兄と結ばれた陽香が全く報われなかったとは思えない。祝福されて結ばれる答えを出せなかったことを慧は後悔していたが、陽香の幸せだったという言葉は完全に嘘というわけでないのだろう。

3人の同棲生活は、本当にこのまま上手くいくのか不安に思いながらも、あまりにも幸せに時が経っていくのを見て、幸せが目の前にあるのに幸せを受け入れられない人の気持ちがわかった気がした。直前の陽香の選択をプレーヤーは見せつけられているので、幸せを信じられないからだ。

しかし、そんな中でも幸せを信じて良いのではないかとプレーヤーがほんの少しでも思った瞬間に、3人の同棲生活は満月の変化により、致命的に瓦解してしまう。

瓦解した後の満月の選択は、自分の恋心を自覚した以上、傍に居続けることはできない。しかし、自分がいなくなれば陽香は同じ選択をしてしまうことがわかっていたので、2人には生き続けてもらうように自分の存在を賭して生きるための呪いをかける。兄妹で結ばれることを願った二人の結末としてはバッドエンドのようなものだが、好きな人達に生きてもらいたいと思う愛に溢れた選択だった。

冷や水をかけられるような結末であり叩かれても仕方ない展開に思えるが、ここまでで近親愛、三角関係の行き着く末路に対する考察は十分に描かれており、その中で陽香は大好きな兄と結ばれること、満月は大好きな人達が生き続けられることを望んだのだから、個人的には完全に腑に落ちて納得してしまった。

そのため、直前まで物語に酔っていたのにもかかわらず、すっきりとした読了感で物語を終えられた。慧、満月、陽香、この3人で考えに考えぬいて、皆が幸せになれる結末がないのであれば、そんな答えはないのだと納得せざるを得ない。もし、結末に対してやるせなさを感じるのなら、それは現実が思うようにいかないのと同じである。

完成度は高いが、二次創作の余地がほとんどないため、これ以上話を広げることができない点は現代のコンテンツにおいては致命的なのかもしれない。ある意味、未完成の作品のほうが二次創作や続編の余地が出るため、長く作品を愛してもらえる理由になることを実感した。

また、完全に私怨ではあるが、この作品をプレイしたことで私は結ばれることに重点を置いた近親愛の物語の評価を見直さなければならないほど、近親愛に対する見方が変えられてしまった。

そこに重点を置いていない妹・姉物のキャラゲーは問題ないが、下手にシリアスに重きを置いている作品は評価を見直したいほど、近親愛の苦しみ、兄妹で愛し合うことに対するリアルが描かれていた作品だった。これを超える近親愛の作品には出会えないと思うほどである。