原作あってこその続編ではあるが、原作を超えていると感じられる部分もある、真摯なリスペクトと丁寧な物語の構築によって生み出された傑作
EVE rebirth terrorに引き続き、さかき傘氏が描くEVEシリーズの続編。
小次郎編では何時もの地元の街ではなく、地元の有力者の影響が強い典型的な田舎の村である沢城堂村を舞台としている。
小次郎編とまりな編で物理的に距離が大きく離れていることも初めてであったので、どこで二人が交錯するのかも含めて気になるところであった。
原作を忠実に再現した前作とは異なり、新しい試みに挑戦していると感じられた。
ミステリー系のアドベンチャーにおいて人が死亡した場合に、殺人以外の原因が濃厚であっても結局の所は必ず殺人と断定するため、最初の死亡原因の特定に関する捜査は茶番になる。
もちろん、殺人と断定しなければ捜査する理由がないため、ストーリーが進まないからだ。読者もそれを理解しているためお約束のようなものだ。
しかし、今作ではプレーヤーは不審死に対して殺人であるのか、自然死であるのか、自然死であったとして生前に何があったのかを一から考えて捜査が進んでいくのは新鮮であった。
今作は疑心暗鬼をテーマにしており、不審な部分が次々に出てくることから、プレーヤーもまた様々な事を疑いながら話を読み進めていくことになる。
後から考えればどれだけヒントが与えられていたのか分からないくらい伏線はしっかり貼られているのにも関わらず、不審な点が多過ぎることから真実に辿り着けない鮮やかなトリックは見事と言わざるを得ない。
私も小次郎とまりなの視点が交錯したタイミングで、それぞれの状況に明らかに食い違いがある所でようやく気づけた。
時間のトリックは伏線も多いことから、もっと前に気づけても良いはずなのに、EVEシリーズでは主人公達が同じ時間軸で行動していることが前提と思い込んでいることから完全に騙されてしまった。
新しい試みをしながらもEVEシリーズや菅野ひろゆき氏へのリスペクトは本作も健在だ。前作では拾われなかったネタや設定が、本筋から小ネタまでこれでもかと言うほど拾われていた。
そして、菅野氏の作品ではあるがEVEシリーズとは設定を共有していなかったと思われるDESIREの設定を拾っていく所も菅野氏へのリスペクトの強さを感じさせる。
DESIREはいずれプレイしたいと思っていた中で、設定を拾ったことからゴーストエネミーズにリマスター版が付属している親切設計であった。
様々な形で現れる親子の形、誰もが大切な絆を守るために行動した結果、それぞれが疑心暗鬼(ゴーストエネミーズ)に陥る。
EVEの時代である1990年代を飛び越えた、現代の2020年代。果たして今の時代はゴーストエネミーズに溢れたものであるか、メッセージ性の強いテーマとエピローグであったことも印象的だった。
EVEシリーズの続編としての完成度は引き続いて高く、その上でADVゲームとしてもより洗練された良作であったと思う。
余談
ブレインのパスワードは最初は分からないようになっているが、2周目の最初の時点で答えを打ち込もうとすると、イレイスからメタ的なメッセージが出てきたりする。(そして、まりなの壁紙が貰える)
リーサの正体は作中では明言されていないが、E計画に参加した山笠がイヴァンカの堕胎した子どもの父親であったこと、子どもにはテレサ(アウラ、レイス同様に頭を取るとリーサ)と名付けようとしていた。
最後にイヴァンカとリーサが顔を合わせたシーンでの匂わせもあり、イヴァンカの堕胎した子どもの遺伝子情報を持ったクローンで確定なのだが……この作品の検索をみるとリーサ 正体の検索数が多いらしい。
この作品は一回で理解して読むには複雑な内容であることから、難しい人もいるのかもしれない。あえて作中で答えを明言しない粋な演出も理解されないこともあるのかと少し驚かされた。