ErogameScape -エロゲー批評空間-

sweets443さんのクロガネ回姫譚 -絢爛華麗-の長文感想

ユーザー
sweets443
ゲーム
クロガネ回姫譚 -絢爛華麗-
ブランド
みなとカーニバル
得点
82
参照数
428

一言コメント

主人公が魅力的なバトルADV、あと一歩名作に及ばない佳作

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

PSVitaの発売当時から存在は知っており、大まかな評判は聞いていた。しかし、Vitaで遊ぶことも少なくなっていたので結局やらなかったが、PC版が発売したことを知り購入した。
最初はLive2dのせいで酔いそうになり拒否反応を起こした。信じられないかもしれないが、やっていればある程度は慣れてくる。(許容できない場面もあるし、Live2dにする意味を感じられなかったが)

第一印象は最悪な印象からの滑り出しだったにも関わらず、サブキャラクターも含めて声優も豪華で、特に主人公が魅力的で物語に引き込まれていった。
個別ルートは天国ルートが一番良かった。伏姫とPC版で追加された祢々先生ルートも面白く、全体通して安定して面白かったと思う。

問題なのはトゥルーエンドにあたる回姫譚ルートであり、こちらに関しては否定的な意見が多いようだ。歴史を修正し、ちゃぶ台を返すことで終わらせるという発想自体に賛否が伴うのは仕方ないとして、そこに説得力を持たせる描写が不足しているといえるからだろう。

本編では孫六の行動を否定した理由について敗北を認めて正しい歴史に修正するという動機しか描写されていない。しかし、あの平和な世界を真に望んでいたのは誰だろうか。
それは、冒頭で死んでしまった摩耶である。彼女は冒頭でテロのない平和な世界を望む発言をしており、主人公と国綱の運命は摩耶の死をきっかけに動き始める。

回姫譚ルートのヒロインは間違いなく摩耶である。つまり、歴史を修正する行為は摩耶の望んだ世界を作ることなのだ。歴史の修正はぶつかり合っていた主人公と国綱の2人の幼馴染が手を取り合ってヒロインが最期に望んだことをかなえるシーンである。

歴史を修正したことで結果的に登場人物たちが望む世界になったという終わり方よりも、修正したことで訪れる世界がどうなるのかを知った上で選択するほうが説得力が増すのではないかと思った。
敗戦をなかったことにしたツケを払った主人公たちが仲間のために歴史を修正する展開自体は自然ではある。

回姫(回帰)というタイトルを回収しているのは分かるが、だからこそ主人公達の心情や摩耶のことも深く描写して選択に説得力を持たせることは必要だったといえるだろう。
考察すればあの結末は一番綺麗な終わり方といえるのだが、どうもその辺りの描写不足から名作に及ばない佳作の域にとどまってしまっている。

回姫譚ルートの描写不足など粗が目立つ点も多いが、引き込まれて時間を忘れるくらいには楽しめた。名作には及ばない佳作という評価が妥当だろう。
名作を探しているならおすすめできないが、バトル系のADVエロゲが好きでLive2dにさえ慣れれば楽しめるはずだ。