体の繋がりと心の繋がりをテーマに本質的な繋がりを求めて生きることの虚しさを乗り越え、現実的な落としどころを見つける物語
主人公を含めて登場人物の全員が人との繋がりを求めながらも様々な理由から上手くいかない状態から始まり、学園とアルバイト先であるケーキ屋を舞台に無駄な描写を省き、淡々と進行していく。
一般的な美少女ゲームとは異なり、攻略ヒロインと結ばれてから幸せになるシーンが存在せず、終わり方も様々な解釈ができるものとなっている。
また、このゲームは複数の個別ルートがあるが基本的なコンセプトは一貫しており、すべての内容で体の繋がりと心の繋がりのあり方について描いている共通点がある。
私の攻略順は、真帆→しのぶ→明日菜→透子→雪緒だったので、攻略順の通りに思ったことをまとめていこうと思う。
【真帆】
主人公の親友ポジションである功と後輩の真帆の体の繋がりを起点としたすれ違いから心の繋がりまで失ってしまう話だったと思う。
序盤の功の口ぶりを見ると真帆に対して体目当てと思われても仕方がない発言をしている。あくまで男同士の話だからこその建前と気恥ずかしさで、功は真帆のことを本気で思っており、思っているからこそ体の繋がりを求めたかったと考える。
真帆も功のことを思っており、二人は好き合っているのは間違いなかったが、体を求められることに戸惑いを感じていた。通っていると信じている心が体で繋がることで嘘になるのではないかと不安に思っていた。
この作品の問題は心の持ちようによって発生しているものであるが、結果的には功がクリスマスを機会にセックスをするという目標が真帆を追い詰めていたように思う。2人のペースで自然な雰囲気でお互いが体の繋がりを求めるようになるのが一番だったのかもしれない。
真帆の感覚が現実の女性の多くが抱えていても不思議ではない感情であるため、非常に現実的な設定であると思う。
真帆は逃避先に主人公を選ぶが、主人公が本質的に体だけの繋がりを忌避していることを理解しているからこそ逃避先に選んだのだと思う。作中で本当の兄妹のようだと言っていたが、そう思えるのであれば2人は似た者同士なのだろう。
一般的な男性と一般的な女性がたった一つのボタンの掛け違いで、好き合いながらも心の繋がりを絶たなければならなくった話であったと思う。残された主人公と真帆はお互いに二番目であり、そこには2人が忌避した体の繋がりしか存在しない。
個人的には将来的にも2人が一緒にいるとは思えない終わり方だったので、恋愛的には一番のビターエンドだと感じた。
【しのぶ】
始まりに対して「ん? なんだこれ?」終わり方に対して「書きたいテーマはわかるが、ん?なんだこれ?」となる電波要素が一番強いルート。
後述する透子√を含めて考えるなら、透子としのぶの関係はしのぶが透子を一方的に守っていて依存している関係であるため、透子に対して負い目を感じたことであのような狂い方をしたという解釈になるのだろう。
しのぶは真面目で正義感が強いことから、主人公が実は悪い人間ではないことを理解していきながらも自分を罰し続けることを望むようになる。当然ながら主人公にとっても望む関係ではなく、罰するためのセックスは許されるが、少しでも温かな関係を求めるなら拒絶されることになる。
透子への贖罪から罰を求め続けるしのぶと、ただ人との繋がりが欲しかった主人公、セックスで繋がりながらもその思いは平行線、どちらかが歩み寄らなければ絶対に交わることはない。
最終的に主人公はその役割を受け入れ、しのぶも主人公に対して行為中に好きであると告げて、お互いの思いを満たした。
人と人との繋がりは本質的には平行線で交わることはないが、それでも確かに傍にいることに繋がりを感じるエンドだったと思う。
とはいえ、狂うまでのきっかけと狂い方にツッコミどころが多過ぎて消化が難しい。
【明日菜】
家庭の事情から愛されたいという願いを持ち、不特定多数の異性と体の関係で心をつなぎとめようとしたが失敗し、虚しさを感じるなかでバイト先に入ってきた主人公に明日菜は過去の自分を見る。
明日菜が主人公に対して向ける愛は自己愛であり、かつての自分に似た男の子を愛し、幸せにすることができれば重ねて見ている自分を救えるのだと信じているように思えた。
繋がりを求めている主人公にとっても無償で愛をくれる明日菜は魅力的であり、違和感はあっても何も考えずに妄信してしまえば何の憂いもなく幸せになれるのだろう。
TRUE ENDは、結局の所はお互いの気持ちには自己愛が根底にあることから愛し合う関係にはなれないということを理解しつつも一緒になることを選ぶ。
大人になって現実的な落としどころを見つけるという意味では、どこかに虚しさは残るのかもしれないが、将来的にも一緒にいるビジョンが見えるエンドだったと思う。
【透子】
このゲームのメインヒロイン、引っ込み思案で常にしのぶに世話を焼かれて育ってきたことから、自立することも難しく、何のとりえもないことから自分に自信が持てない。
しのぶに対してコンプレックスを持ち、居場所がないと感じていた透子が主人公と屋上で出会うことで、体だけの関係が始まる。
共通ルートは透子との体の繋がりに対して主人公が何を思ったかで分岐することから、すべての個別ルートにおいて透子との関係が起点となっている。
透子は体だけであっても求められたこと、自己肯定感の低さから自分でも誰かの役に立てることが嬉しかったことから、主人公との体の繋がりにのめり込んでいく。
実は発言とは裏腹に、体の繋がりに違和感を覚えて心の繋がりを最初に求めたのは主人公であり、好意はあっても報われないと諦めているので、透子のほうが体だけでも良いと最初は考えていたように思う。
しかし、主人公が体の繋がりだけでなく、心の繋がりを求めていたことを理解すると話が変わってくるため、主人公を通して自分の本当の気持ちに気づいて体だけでは嫌だと考えるようになった。
透子が主人公を拒絶するシーンは、主人公は透子を慰めるための言葉を探し思っているにもかかわらず、体の繋がりだけを求める演技をしたことを本質的に理解したからだろう。
最初に体だけで繋がったからこそ、どうすれば良いのかわからない状態になってしまったが、体で繋がらなければ今の関係はない。
最後はこれまでの関係を抜きにして、ただ今ここにある心情でお互いに向き合った、今までの関係の終わりと新しい関係の始まりを描いたエンドだったと思う。
【雪緒】
色々な人から最後に回したほうが良いといわれたので、その通りにしたが、天使のいない12月のテーマを象徴する内容のルートだったと思う。
人と人との繋がりを考える上で避けられない、終わりとなる死に向き合う内容であり、死の前では心の繋がりも虚しく、雪緒は心がなければ苦しむことはないと考えるようになる。
心がなければ虚しさを感じることはない、人と必要以上に繋がらなければ心をかき乱されることもない、しかし、その考え方が主人公を含めて緩やかに死へと導かれていく。
正直、妹は完全な癒し要員だと思っていたので、このルートでここまでの曇らせがあるとは思っていなかった。
体だけで繋がることに何の抵抗感も感じていなかった雪緒が純粋な好意に触れることで、心の繋がりに対して恐怖を感じていることがわかり、それに対して共感できるところがあった主人公は雪緒とともに死ぬことを選ぶ。
雪緒が最後になぜ踏みとどまろうとしたのか、彼女は死ぬことよりも自分の考え方に本気で共感を示してくれて、その思いを共有できたことに満足していたのだと思う。
そして、最後に死とは正反対の位置にある生殖行為を思い残すことがないようにと理由をつけながらも雪緒から誘ったことからも演出されている。騎乗位という女性の意思で跨る体位を最後のプレイに選んだことからも間違いないと思う。
生き残った2人は子どもでいることをやめて、生きることへの虚しさに折り合いをつけ、現実的な落としどころを見つけていくのだと思わせてくれるエンドだった。
【全体的な批評】
シナリオは短いながらも必要な描写が描かれている一方で、体の繋がりをテーマにしているのにも関わらず、一回一回のHシーンのボリュームがあまりにも少ないように感じた。もう少しシーンによっては丁寧に描いていた方が説得力がより増すところも多かったと思う。
内容に不満はほとんどないが、やはり何度考えてもしのぶ√の導入には疑問を覚える。結末ありきでそこに至るまでの起承転結の起が少し苦しいのではと思った。
まとめ
ここまで個別ルートの感想を書いてきたが、天いなは様々な心の繋がりと体の繋がりのあり方を描いており、最終的には誰かとの本質的な繋がりを求めて生きる事への虚しさを乗り越えて、現実的な落としどころを見つける物語であったと思う。
どれだけ長い時間を共に過ごしても相手の心を完全に理解することはできない以上、人間は本質的には一人であるが、心のある人間はそれでも誰かと一体化するような本質的なつながりを求めてしまう。
体だけの関係を求めても虚しく、本質的な心のつながりを求めれば求めるほど、理想とは程遠いことに失望する。
しかし、それを理解した上で相手を思い、その後に相手とどういう関係を築いていくのかを考えていくことが始まりであるため、天いなのエンドは終わりでもあって始まりでもあると思えた。