人の欲望(DESIRE)が渦巻く孤島で物語の謎を解き明かす、王道から外れたアドベンチャー
菅野作品の中でもDESIREは、YU-NOやEVEとは異なり、後世にも語り継ぎたい秀逸な作品というよりは、好きか嫌いかで語る作品ではないかと思った。
YU-NOも未完成であったという話があるが、DESIREはそれ以上に描かれるべき部分が描かれていない印象ではあった。
リメイクで追加された追加ムービーを含めて未完成と感じられる点が多い。
しかし、菅野ひろゆき氏の不意に心を掴まれるテキスト、本来のEDの切ない終わり方は好みであったため、好きな作品だった。
【シナリオ】
DESIREのタイトル通り、人の欲望が交錯する様を描いており、登場人物たちがそれぞれの意思を持って行動した結果、多くの命が失われる。
孤島という外部から遮断された環境の中で、アルバート視点では島の女性達と交流を深めながら、静かに事件が進行していく。マコト視点では裏で起こった島の切迫した状態が明らかになった。
カイルのNTR描写は、NTRをテーマにしたゲームでもなければ、今では許されないと思うが、個人的には不満はなかった。むしろ今の作品では見られない新鮮な展開で感心していた。
そもそも、アルバートが浮気性過ぎることがマコトの心に隙を作った原因でもある。自分はガンガン浮気をしておいて、相手はダメと言うのは都合が良すぎるので、マコトは責められないだろう。
カイルもやったことは褒められたものではないが、最終的にマコトからの気持ちも向いて、体を張るほど本気になったのであれば、プラマイ0……少しマイナスくらいの心証ではある。
本音を打ち明けたシーンでも裏切ると思っていたのは内緒。
マルチナの正体が成長したティーナであったトリックは、マコト編の途中くらいから薄々勘づいてはいたが、成長したティーナが喋っていることを考えるとそれぞれのシーンの意味が変わってくるのが印象的だった。
特に浜辺でマルチナがマコトと話すシーンは、普通に考えれば人生の先輩として恋愛に対するアドバイスをするシーンである。
しかし、これが成長したティーナであれば、「ティーナはアルが浮気性だろうと、そんなどうしようもない所も愛してるもん! おばさんは浮気したくらいで嫌いになるくらいなら、最初からアルのこと愛してないんでしょ!」と遠回しに言っているように見える。
ループして記憶を失いながらも悠久の時を生き続けて、それでもアルのことを愛し続けたティーナだからこそ言葉に重みがあると思った。
正体が分かると会話の意味が変わってくるところが面白かった。
【菅野ひろゆき氏の心を掴むテキスト】
浮気をして嫌いになるなら、それはその人の一部分しか愛していない証拠。優秀ゆえに本心では覚めていて恋愛をタスクとして処理してきた。
マルチナやカイルからマコトに投げかけられる言葉は、自分の過去にも刺さる部分があって、菅野ひろゆき氏の不意に心を掴まれるテキストはDESIREでも秀逸だったと思う。
娘のように接してきた女の子と現実とは隔離された異世界で長きにわたって一緒に暮らす。複数の主人公の視点から物語の謎を解き明かす。
YU-NO、EVEの原点とも呼べる内容であるため、DESIREのノウハウが後の作品に活かされたことは間違いないだろう。
【賛否の分かれる部分】
作品としての評価は未完成な部分が多く、そもそもループをしていたとして、なぜループが始まったのかが明らかにされていない。
ループの開始時点では、ティーナと成長したティーナが同じ場所に存在するはずがないからだ。
つまり、マルチナがいない状態でアルと出会ったティーナの世界線が存在すると考えられる。ループの始点がどのようなものであったのかは、少し気になるところではあった。
ムービーから考えられる分岐は、本編の島で出会った2人の助手と一緒になる√、マコトを寝取られない√、そして最後のティーナを見つけ出す√が存在すると考えられる。
ティーナが記憶を失ってしまうことを考えると何度繰り返しても同じ結果になってしまうと思われるが、YU-NOと世界観を共有しているなら、条件は同じでも異なる選択をした世界があり、その中にはティーナをループから解放できる世界線があるのかもしれない。
いずれにせよ、読者の想像に委ね過ぎているところがあるので、ティーナを救い出す結末を見せるなら√もしっかり描いて欲しいところだった。
内容は完結しているとは言えないものの、個人的には雰囲気もテキストも好きな作品であった。