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sweets443さんの絆きらめく恋いろはの長文感想

ユーザー
sweets443
ゲーム
絆きらめく恋いろは
ブランド
CRYSTALiA
得点
78
参照数
258

一言コメント

個別にみれば面白いが、全体としてはまとまりに欠ける

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

刃道と呼ばれる架空の競技を題材にした作品で、設定もよく練られている。競技者ならではの苦悩が描かれており、サブキャラにも感情移入できる場面があって良かった。まずは、各ルートの感想を載せておく

椿ルート

籠の中に囚われていた鳥が不死鳥になって羽ばたくお話。追われるものの緊張感と葛藤から、主人公やライバルとともに復活していく様子が描かれる。

どんなに苦しくても主人公の前では強い姉であろうとする椿が魅力的で、個人的には今作でも一番良いルートだと思った。ライバルとなる葵の気持ちもわかるものであり、2戦目の椿VS葵はベストバウトだったと思う。

しおんルート

引っ込み思案で臆病な後輩が剣士になるまでの成長を暖かく見守る物語。競技者としてしおんが成長することが本懐ではなく、トゥルーにあたる桜夜ルートのつなぐものであり、物語の方向性や展開が予想できるのもこのルートから。

フリージアルート

師匠と弟子の関係でもあり、ライバルでもあり、恋人でもある主人公とシアの関係の変化とシアのまっすぐな気持ちが伝わるお話。正直なところ、しおんルートの時点で本筋には関わるキャラではないことがわかっていたので、あまり期待はしていなかったが予想以上に良かった。

特に主人公とシアが互いに別のパートナーとともに戦う場面では、これまでギャグ要員だった萌生菜にも真剣に感情移入をしてしまうほどだった。シアルートのしおんVS萌生菜もこの作品のベストバウト。


桜夜ルート

親友同士だった2人が再びめぐり逢い、恋人になる物語。このルート以外だと桜夜の声色は、気さくな同性の友達のように聞こえるのに、男女として意識し始めてからは女性の声になるのが声優さんのすごいところだと思った。

シアルートでは主人公の恋愛を見守る立場だった都子さんが狂気的な目的をもってラスボスになるのは驚いた。伏線はあるからラスボスになること自体は納得だけれど。結果的には、主人公の選択によってラスボスになったわけだから、何もなければそのままでいられるのがね・・・

まとめ

全体を総括して考えると、刃道という競技から刀の本質である命のやり取りに進むのが物語の本懐であった。

スポーツの域を出て、命のやり取りをする覚悟を持つという方向性に行くのは悪くはない。しかし、最終的に刃道の鍛錬も殺し合いの経験もない主人公がチート能力で解決する展開は、ここまで積み重ねた競技者であるキャラクターの思いを白紙に戻すような展開だったように感じてしまった。

これまでスポ魂と青春を軸にした内容であったにもかかわらず、最終的にはそんなものはお遊び、命のやり取りが本懐という方向に進むのは理には適っていても、それぞれのルートを進めてきてキャラクターへの印象が詰みあがったエロゲやギャルゲでやると冷めてしまう。

長い時間をかけて、個々のルートをプレイしていった後の展開としては積上げたものを上手く活かせておらず、競技から命のやり取りへのテーマの移行に説得力を持たせられなかったように思える。個々に見れば良い内容でも全体を俯瞰して見たときに足りない部分があるため、最終的には佳作という印象になる。

物語の結末をやりたかったことと仮定すれば、競技の段階であっても命の危険がある緊張感のある展開を桜夜ルート以外でも入れたほうが良かったように思う。(防衛省の管轄でバリアジャケットの安全性が高いものでなければそもそも競技として成立しない世界観なので難しいか・・・)

個別にルートを考えたときの完成度は高く、椿ルートをはじめ個別にみれば良かったと思うので、桜夜ルートがトゥルーで全体の総括とすれば物足りなさを感じるところ以外は評価している。

私としては興味があると言うなら「良いと思うよ、やってみなよ」くらいの感覚で勧める作品だと思う。