ミステリーゲームではあるものの謎解きのやりがいや難しさを求めてプレイするものではない。シナリオが非常によくまとまっており、最後まで飽きさせない内容。
推理パートは主人公の心の逡巡を追体験できるようなものだったと思う。序盤に関しては間違うことのペナルティもないので。各章の感想をまとめていく。
1章
他人の心の声を受信できる能力を持つ主人公が、受信した今にも自殺しそうな女子高生の心象に惹かれる。その能力ゆえに彼女は自殺したのではなく殺されたと確信して謎を解明する物語。1章の導入は最高に心惹かれるものだった。
2章
洋館と相続を巡る一族というミステリーのテンプレートとなる舞台装置の中で、キャラクターの印象を積み上げていく、普通のエロゲの共通ルートのような感じがした。
3章
雪本さくらと瓜二つの人間、清川ひかりから発せられる信じがたい心の声と真実に主人公の心は折れかける。真実から逃げて夏希と付き合うのはある意味彼にとっては幸せなのかもしれない。
そもそも、初恋の女性とは言え主人公が謎を解き明かす責任がある立場でもないので、そこから逃げることは誰も責められない。疎ましく思っていた能力も無くなり、優しい彼女に支えられながら生きていけることだろう。
夏希は主人公の視点だと最初の印象は最悪に近いけれど、この章で最初の夏希の態度は納得いくし、直情的な性格だけれど、それを内面で反省しているところがあるので、内面は繊細で良い子だと思った。
3章時点の感想はこんな感じだったがすべてを知るとここまで残酷な結末はない。
4章
3章の暗い雰囲気とはがらりと変わって、ワクワクする展開だった。ノックスの十戒の探偵は超自然能力を用いてはいけないを、もう破ってるんだからがんがん破っていくスタイルが良い。
受信能力以外にも超能力を持った探偵が集まり、事件が起こる話。犯人含めて特に変化球はなしで、王道的だったと思う。というか国分さん助かるのが意外過ぎた。
今回の主人公の選択は、萌花が犯人から受けた心の傷を一緒に背負いながら真実を追い続けるのか、萌花の意思を無視し心の傷を消して、真実を追うのを諦めるかの2択。
沙彩を選んだ主人公は、一見真実を諦めて幸せになったように見える。しかし、どこか萌花に後ろ暗い思いを抱えながら、深層心理では沙彩が犯人である可能性を消せないまま過ごしている。
真実を追い求めることもつらいけれど、真実から逃げることもつらいことを痛感する話だったと思う。
5章
演劇とミステリーという金田一から受け継がれる鉄板ネタ。やはり物語も後半ということもあり、色々な意味で変化球だったなという印象。
ここまでで唯一、謎解きで指摘する段階になるまで犯人がわからなかった。もちろん、名刺とか後から考えればわかるが、ほとんど寝たきりで危篤の状態に見えたからおばあちゃんは疑えなかった。
物語の後半になるほど人死にが出ないってミステリーゲームとしては珍しい気がする。照明が落ちた理由が謎のままだが、3人目の実行犯がいて主人公やモモを狙っていたと思っていたが、真犯人の能力がサイコキネシスとわかり察した。
この章のヒロインの大鳥百合子の正体とさくらの真意を理解してしまうと、主人公が彼女と付き合うことだけはさくらからしても複雑だろうなとは思った。
ここまでのヒロインよりも乗り越えるべき壁も多いし、結ばれるのは茨の道。しかし、真実から逃げるのではなく、真実よりも大事なものを見つけたエンドであるため、他のルートとは異なり逃避ではない点は真実から逃げたという罪悪感を感じないため良かったのかもしれない。
この結末の裏でも真犯人は自殺を選んでいるのかもしれないが・・・。
6章
ミステリーにおいてヒロイン兼助手の立場のキャラクターに何も起こらないわけがないよねってことで、彼女を救うために奔走するお話。主人公にも同情の余地はあるが、慕ってくれるトラウマを抱えている女の子に対してあの仕打ちはないかな・・・。萌香が本当に健気で良い子過ぎる。
この章で急にミステリーゲームの謎解きの難易度が上がった。選択式じゃなくて文字打ち込むのに変わったせいで、攻略サイト見ないと解けない人もいるだろうなってレベルに変わったと思う。あみだくじは画面上で線が引けるようにして欲しかった。
最終章前の謎解きは1ミスでアウトだったので、ミスしたところで萌香エンドに突入した。犯人自体はすでにさくらの真意や使われた能力がサイコキネシスで位置関係を見れば、この人しか犯人いないとわかるから、誰が死ぬのかわかってるゆえに幸せなエンドに見えて最悪なエンドだった。なんなら真実から主人公が逃げたエンドですべてその結末を辿ってると思うと悲しくなる。
最終章
最終章の前半で解くべき謎がなくなるので、後は物語に決着をつけるシナリオだった。八雲千草はさくらと百合子が血のつながりのある双子であるのと対比となる、主人公と精神的な双子とも呼べる存在だったと思う。
恐らく橘が八雲の立場だったら、同じような拗らせ方をするのは目に見えている。モモを傷つけた橘にキレる八雲は読者の心証を代弁しているようで、見破られたらキレてモモを傷つけることを選ぶあたり、本当に同じ精神性を持っているのだと思った。
夏希の扱いは、丸く収まって良かった。3班は本当に良いメンバーしかいないし、むしろ6章の途中まで北上を疑っててすまんって気持ちになった。メタ的にも目立つ回がなくて犯人っぽいし、明らかにミスリード誘うキャラだとは思ったけれど。
最後のエンドは2種類あるが、どちらがTRUEになるかは解釈が分かれるところだと思う。答えはないと思うので、物語を通してモモを好きになれたか、さくらに惹かれたのかで解釈は変わりそう。
正しい答えはないとして個人的な感想としては、モモも含めて3班のメンバーの置いていかれる人たちの気持ちを考えると、モモを選ぶほうがTRUEだとは思う。仮にそれでもさくらを思い、生きることが選べるのなら天寿を全うしたうえで水底に迎えにいってほしい。
まとめ
最後まで飽きさせないために、色々なことに積極的に挑戦したゲームだった。それゆえに、人によってはNGとなりやすい要素も多かったため、プレーヤー側に受け入れる度量が多少は必要になるとは思う。
誰かわからない心の声を受信できる設定はミステリーの設定において秀逸であり、このゲームをやった後に他のゲームで心の声が聞こえないことが当たり前のはずなのに少し寂しさを感じてしまうくらいだった。
ミステリー系のエロゲでシナリオが良いゲームをもっとやってみたい気持ちになるが、そこまで多くはないんだよな・・・。