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sweets443さんのいろとりどりのヒカリの長文感想

ユーザー
sweets443
ゲーム
いろとりどりのヒカリ
ブランド
FAVORITE
得点
90
参照数
79

一言コメント

優しさに包まれるという表現を言葉ではなく心で理解できた、いろセカから長い時間をかけてプレイして良かったと思えるほど好きな作品になった

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

【前作のいろセカで不満となっていた部分を解消していたストーリー】

いろセカシリーズは、ヒロインの真紅の魅力は1作目のいろとりどりのセカイだけをプレイしても十分に分かるが、内容としては不満もあり、名作といえるかどうかは疑問だった。

しかし、いろとりどりのヒカリで1作目で感じた不満の多くが解消されており、いろセカと比較すると読了感を含めて満足のいくものだった。

いろセカの賛否は主人公をどう見るかによって変わると思うが、ヒカリでは主人公に対する許しの物語となっている。

本物の悠馬は、読者が感じていたであろう主人公の罪を厳しく叩きつけ、これをきっかけに主人公は許しを得るための旅に出る。

ヒカリの澪√のメッセージにもなっているが、罪人が許されるにはどうすれば良いのかがテーマになっていると思う。

この主人公の許しを得るための旅がとにかく長く、その間にも真紅の時間が流れていく。真紅の身に降りかかる辛い出来事を見ていると、主人公を許せない気持ちでいたプレーヤーも過去の事情を踏まえて「もう許してやってくれ」と言いたくなるほどだった。

これだけやったのだから許されて良いという気持ちは罪人の傲慢ではあるのかもしれないが、客観的に見て十分に罪を自覚して向き合い、それぞれのセカイにおいてハッピーエンドに到達し、ケジメをつけたのであれば許されても納得はできる。

ただし、悠馬の過去が許されるための理由を作るためか、仕方がないと思わせる設定のオンパレードだったという穿った見方もできてしまうところはあったが・・・

しかし、一度悪いことをした人を許すというのはそれ相応に事情がないと難しい人は多いので、プレーヤーを含めて主人公の罪を許して真紅の元に帰る結末に納得するという意味では過剰なくらいが良いのかもしれない。

その上で、自分自身を許すことが最も重要であると結論付けたことで、主人公は罪悪感なく真紅の元に帰れることとなった。

ヒカリの物語は他人に許しを請い、ケジメをつけることもできるのであればするべきだが、それ以上に自分自身を許せるようになることが罪人が許されるための答えになっていた。

いろセカで抱いていた主人公に対する不満や、他のヒロイン達の√が踏み台にされるような展開にも納得のいく決着がついており、これだけでもヒカリをプレイして良いと思った。

【優しさに包まれるという表現が適切に思えるいろとりシリーズの雰囲気】

「やさしさに包まれたなら」は、魔女の宅急便の主題歌として知られ、松任谷由実氏が歌う、ご存知の国民的な曲。いろとりシリーズをプレイしていて感じる独特な雰囲気をあえて言葉にするなら、「優しさに包まれる」という言葉が適切だと思った。

一見して厳しい言葉を投げかける本物の悠馬が主人公であるレンの父親であることがわかると、これまでの主人公に対する厳しい言葉が父親の優しさであったと解釈できるのも美しいと思う。

最も悠馬であった時の自我が強いことから、あくまで藍のために動いていており、藍と自分を引き離したのがかつての息子であっても、藍を思うがゆえに多少の復讐心を持っているところは人間らしいところではあった。

この物語の登場人物は利己的な部分があったがゆえに人を傷つけてしまうことはあっても、純粋な悪人が舞台装置となるサブキャラ以外にはおらず、優しい世界が描かれていたと思う。

「綺麗ごとは綺麗なことだから良い」「さよならは悲しいけれど再び大切な人に会うためにある」それぞれのセカイで得たメッセージもこのシリーズらしいものだと思う。

そして何より真紅の悠馬の明日の幸せを祈る言葉が慈愛に満ち溢れている。真紅と日記を書くたびに聞いてきた明日の幸せを祈る言葉が長い長い物語の中で積み重なり、優しさに包まれるような感覚を生んでいたと考える。

主人公の許しの旅を納得のいく形で終え、積み重ねた真紅との時間があったからこそ、ヒカリの読了感は非常にすっきりとしていて満足のいくものであった。

以上のことから、優しさに包まれているような感覚が心地良く、いろセカから長い時間をかけてプレイして良かったと思えるほど好きな作品になった。

最後は、やはりこのシリーズを象徴する真紅の祈りをもって感想を終了としたい。

「お前の明日が、今日よりも、ずっとずっと、楽しいことに溢れてるようにって、祈ってるよ」