生きて何かをするということがどういうことか分かるかもしれない作品
やり終わった後の感想は実に美しい物語だったというものだ。
前作サクラノ詩が学生時代の輝かしい瞬間と虚無、そして再生を描いたものだとすると今回のサクラの刻は題名にあるような刹那の刻に美しい花を咲かす桜の儚さと例え花弁が散り終わってもまた冬を越えた春に満開の花を咲かす桜の普遍的な循環。そういうものを感じさせる物語だった。
今作も大組で言えば草薙直哉という天才が周りの子たちが抱える問題を解決していき、終盤になると自身が周りの子たちによって芸術家として再び立ち上がるというものだ。
サクラノ詩、サクラノ刻をもってしてもいまだ主要キャラクターの語られるべき物語が全然あるというのが恐ろしい。
それでいて、物語自体は単体として見て素晴らしいというしかないのだからSCA自というクリエイター、そしてサクラノシリーズスタッフたちの底が計り知れない。
このゲームをプレイできて、本当に良かった。
エロゲ―をはじめてプレイした時のエロよりもその物語やCG演出、音楽の良さにガツンとやられたことを思い出す作品だった。
それではここから章ごとの感想を書こうと思う。
Ⅰ
静流に関して言えばここまで陶芸家としてすごい存在なのは驚いた。
また、学生時代は麗華に対して本物と認められていない凡才気味の人間だったというものも後の雪景鵲図花瓶の創作のエピソードと含めて考えるとどれだけの想いを持ってそれを成し遂げたのか……。(学生時代の静流がやっていたことが学生レベルではないことが後に語られるがそれでも家の力を使ってやっと『本物』のようになれる判定する麗華のハードルの高さよ。
麗華に対してずっと彼女は娘である本間心鈴と同じで確かに悪いとこもあるが、しかしいい所もあると彼女への変わらない評価を訴えてきた。面倒ごとを避ける彼女でも麗華の自分の美意識を貫く美しい在り方を無視することなどできなかったのだろう。とゆうか麗華のこと好きすぎない? あなた。後、藍とも繋がりがあるのはよかった。キマイラで3人で空気最悪の中酒でも飲んでるシーンが見たい。
麗華に関して言えば、ある意味本物というものが分かってしまうが故に悲しい結果を引き起こしてしまったのだろうなと。中村家という特別な家に生まれ、ずっと自分は他の者とは違う生き方をしてきた。家が転落してもなお本物が分かる彼女は自分の中の特別を変えれなかった。親友に言った「仲直りして欲しければ300万用意しろ」。これで彼女も自分から離れるだろう。所詮、彼女も本物ではないのだから。しかし、鳥谷静流は300万の代わりに本物の作品を持って来た。その時の中村麗華の気持ちはどうだったのだろうか。奇跡をみたような気持ちだったのだろうか。もしかして、贋作とは最初は分からなかったのかもしれない。静流からこれは贋作だから渡せないと言われても彼女はその言葉を拒絶した。なぜなら、彼女は美しいと思ったのだ。だからこそ、誰がなんと言おうとそれは本物なのだ。どうしようもない過酷な現実の中で静流の作品を自分の手でその価値を世に広める。彼女のそんな夢は没交渉。3章の真琴ルートでその顛末は語られる。
Ⅱ
2章の生徒組に対してはみんな直哉好きよねぇという感じ。もうちょい。桜子なり奈津子、ノノ未、ルリヲ、鈴菜とエピソード的なものがあるかなと思った。この子たちのルートも作ったらとんでもない分量になってしまうから流石にそれはやり過ぎだろうけど。ただ、校長との会話だったり美術部を再始動する感じだったりと日常的なワクワクさや生徒たちの仲の良さなどが感じれてとてもよかった。
Ⅲ
寧に関してはこういう風に育ったのかと。中村家絶対許さないウーマンだったり、恩田家に認められたいとある意味生徒側の人間で一番家というものに縛られてしまった存在になっていた。才能的なところでルリヲよりも上ぐらいかなと思っていたけど、本田心鈴という芸術家を前にして無残にもその圧倒的な実力差を見せつけられてしまった。
後から振り返るとこの勝負を受けるのか受けないのか、そして受けた上でどう行動するのかでルートが変わると思うと重要な場面だったのだなと。心鈴の弟子になって、心を開いたときの懐きようは兄に似て犬のようだった。
そして心鈴は本間麗華の娘とは思えないほどの天使っぷりで、もしかしてサクラノシリーズで一番可愛いのでは?と思うほど直哉とのイチャコラしてる時の様子のギャップは素晴らしかった。また、芸術家として、ほとんど完成されてるかのような精神性と技術。強キャラとしての役割も十二分に果たせるほんとパーフェクトなキャラだったと思う。意外と疑似ふたなりエッチシーンもよかったです。
真琴に関してはなんだろうか。直哉に対するアプローチが露骨に捨て鉢な感じで、そういう風な感じでいくのかとある意味意外に感じた。どちらかというと物語として、静流と麗華を仲直りさせる所のシチュエーションが好きだった。鳥谷校長もう肝臓や胃が強いとかそんなレベル通り越して人外じゃん。どこの世界にスピリタス一気勝負してなお余裕を崩さない人類がいるんだよ。後はやはり、麗華が静流に対して思う感情と静流が麗華に対して思う感情が本当に尊かった。この二人ほんと好き。
Ⅳ
圭のエピソード。
彼がどのようにして、ヒマワリの芸術家になったのか。
圭に関しては色々と語られていない部分があったけど、こういう人生を歩んでいたんだな。鳥谷校長も悲しかっただろうに。草薙直哉と歩むためにすべてを捨てると決めた少年の痛ましくも敬服せずにはいられない姿がそこにあった。とゆうか夏目家に入ったエピソードってそういう感じだったのね。後、幼い時の本田心鈴を弟子にするエピソードもじつに上手い作りで幼い圭や心鈴をそれぞれバイクに載せてる構図と心鈴ルートで成長した心鈴を直哉がバイクに載せてる構図の対比で感動する。
夏目圭という一途な芸術家を存分に感じれた。後、ここでも麗華さんはほんといいキャラしてた。中村麗華ほんと好き。
V
ここから草薙直哉無双。真のサクラノ詩からの続き。
4章がまさかの中村章一が拳銃を持って藍を縛り上げたところで終わってからの草薙直哉を芸術家として再び表舞台に立たすため色んな人間が画策した計画が動き出す。ここで一気に前作のキャラクターが出て、それぞれ直哉を復活させるため長年活動していたことが分かる。特に胸を打ったのはやはり長山香奈だろう。前作からある意味凡人代表みたいな感じで使われていたが、まさか『櫻達の足跡』を改変したことですら、草薙直哉は芸術家として終わっていないことを証明するためだったとは。そして、凡人として、見事に天才と言われるアリア=氷川里奈をドローイング対決で倒す。このシチュエーションに熱くならないエロゲーマはいないだろう。また、実際に直哉と勝負する所も千年桜ブーストはあれど、草薙直哉に全力を出さして、自身の身体の限界を超えて絵を描く姿も実に素晴らしかった。この姿には思わず、草薙直哉も惚れてしまいそうになるとコメント。小さい頃、自分の絵を悪くないと言われた。天才である少年に自分の美を認められた少女は例え才能は無くとも芸術家として生きようと決めた。自分には届かない天上の星と分かっていても諦めることが出来なかった彼女の想い。憧れの彼のためにかわいくなろうと努力もして、絵も描き続け、邪道と言われようともあらゆることをした。そんなヒロインになれなかったヒロインの姿がそこはあった。
長山ルートに関しては欲しいようなでも、そこを用意してしまったらなんか違うよねという複雑なオタク心が発揮される。それぐらい魅力的なキャラクターだった。
藍に関していえば、前作の最後とそこまで印象変わることなく、彼女だけが芸術家でもない草薙直哉を肯定して、どう生きようとも彼のそばで彼の幸せを願った女性だったなと。
また最後に凜との対決で描かれた向日葵と桜の絵の演出とギミックもクライマックスにふさわしいクオリティで画面から溢れるような色彩豊かな変化を存分に楽しませてもらった。
Ⅵ
エピローグ
なんか知らんけど弓張学園が芸術方面ででっかくなって、世界の坂本さんが教職やってて、凜が学部長として在籍している。坂本さんをおちょくる直哉と藍の娘の依瑠のやり取りが実に好きだった。また期間工をしていた直哉の友人が実は優秀な研究者で自身の特許を活かすために期間工として工場に出入りして、下の人間から地道に自分のやりたいことをするための下地作りをしているというエピソードも実にこの作品における人と人との繋がりを象徴するようなものでよかった。しかし、草薙直哉、結局凛に負けて、借金を帳消しに出来ずに終わるという。しかも、横たわる櫻と連動して直哉が製作した櫻七相図の価格も上がるからイタチごっこのように借金も増えたりするという。
満開の桜の下を親子三人で歩く姿に美しい物語の終わりにふさわしい満足感を得た。
本当に素晴らしいゲームだった。次作で今回あまり出番のなかったメンバーの話も観れるを楽しみにまた完成を待とうと思う。