Keyは健在です。麻枝さん。
子供の頃、いつまでも続くと思った夏休みの照りつけるような眩しさ。
その眩しさを思い出させてくれるゲームだった。
個人的推奨攻略順
紬→鴎→蒼→しろは
個別ルート感想
・紬
これぞ、Keyの夏のゲームという感じの破壊力を持ったルートだった。
限りある時間の中で楽しいことを全力でやる姿が「あぁ、これが青春なんだ。夏休みなんだ」と心に響いた。
紬が泣き叫ぶ姿にAirの観鈴の姿がダブって見える。
また、ユーザーがこんな歌で感動するなんてと絶賛?したであろう『紬の夏休み』が実に素晴らしい。
あの曲を感動曲に仕立て上げる構成には頭が下がる。
Keyの作品では個性的な口癖の多いキャラがいるが、今回、紬の「むぎゅ」にやられたプレイヤーは多いだろう。
「一日一回むぎゅを聞かないと頭がおかしくなりそう」と作中のセリフであるが、紬ルートをやり終えるとあながち馬鹿にできないから恐ろしい。
個人的にこのライターさんが一番過去のKey作品に感じた懐かしい感動をくれたと思う。もし、次作以降も参加することがあれば、更に一歩進んだ過去に感じた感動では無いこの人らしい感動の物語を楽しみたいと思った。
・鴎
鴎の正体や物語の構成に実に騙された。
この物語も夏休みの冒険というコンセプトを実に上手く表現した物語だった。
個人的にはもうちょい、鴎との恋愛描写が欲しかった。しかし、鴎の想いを継いで、主人公がみんなの手を借りて鴎のやりたかったことを実現するところはテキストを読んでいて、熱い想いがこみ上げた。
後は終わりの鴎の死についてはやはり死んでいる必要はあったのだろうかという思いがある。
あの再会を描いた一枚CGの二人の幸せな笑顔がいわゆる幽霊(作中ではまた違う概念だが)との再会と考えるとユーザーとしては複雑ではある。
・蒼
サマポケにおいて、誰もがこの子だけはエロゲーのヒロインとして楽しみたかったであろうヒロイン。
あまりのチョロさにこちらも「あ、この娘はやれる」(だが、全年齢だ)と思ってしまう。そこがかわいい。
作中でのエッチなイベントのほとんどって言っていいくらいにこの娘に集中してて、いちいちそのリアクションがツボをついてくる。そこがかわいい。
話の核として、設定部分の大きな開示も蒼ルートで行われていて、そのシリアスと蒼とのイチャラブのギャップが実に美少女ゲームをやってるなという気持ちになった。お姉さんの藍のキャラもまた強烈でFDとかで本格的に出演してる姿を見せて欲しい。
それにしても、はじめてが青姦なのはやはり名前ネタなのかな?と思った。
・しろは
未来を予知する能力があって、自分に関わると不幸になるから周囲を遠ざける不憫なヒロイン。
この娘のシナリオでは起きる不幸に対して立ち向かう姿が実にかっこよかった。
悲しい未来が来ることがあっても、人はそれを乗り越えることが出来ることを教えてくれるそんな物語だった。
・ALKA
そりゃ、あるよね。うみルート。
今回、これが一番涙腺ダメージ強かった。
もうね、どんどん性格が幼くなっていくうみちゃんがほんと耐えれなくて。
それこそ、AirのAir編やってるかのようなどうしようもない無力さ。時間は過ぎていく中でせめてものことしか出来ない主人公たち。また、うみのこの島に来た理由の父親が語っていた「楽しい夏休みをしてみたかった」これこそ、Summer Pocketsのコンセプトというものをこの子がいうことでとてつもない重みとしてユーザーに伝えれる。
Summer Pocketsは今までのKey作品を感じさせるシチュエーションを入れてきているが、ここでCLANNADのターンだとばかりに家族の物語をぶつけてくるのが、ユーザーを泣かせにきているというか殺しにきているというか。
特になんてことない、うみとしろはが折り紙をしているシーンがほんとだったらこうして母娘仲良く折り紙とか折ったりして暮らしていたんだろうなと思うと涙腺がこみ上げてきてダメでしたね。
また、ここでチャーハンについて今までちょいちょいあったエピソードが実にボディーブローとして効いてくる。
うみが産まれた時にはしろははいなかったわけだから、うみは羽依里のチャーハンを食べて母親の味を覚えてきたわけですよね。写真も無ければ、母親の話も父親から満足に聞かされずに育ってきた彼女にとってチャーハンが親子三人の絆と考えると、彼女のチャーハンへの思い入れにも納得してしまう。作中の描写を見ると、料理の関してチャーハンだけは頑張って美味しくなるようにと努力したんでしょうね、うみちゃん…。
うみちゃんのことをだんだん忘れる時が多くなる、羽依里としろは。こんなにも忘れたくないのに、それでも手からこぼれ落ちる夏の記憶。親子三人で撮った写真にうみちゃんが写ってないシーンとか軽くトラウマ。この写真がまたOPで使われているからタチが悪い。
両親との楽しい夏休みを過ごして、もう思いだけの存在になったうみちゃんが見る、その後の両親の未来がまた残酷なのが。何度も何度も、夏を繰り返す度に自分のことを思い出して自分を救うために無理をして死んでしまうしろはを見るうみ。輝くような夏休みを過ごしたのに世界は何も変わらず、無情な現実だけがある。
そして、それを変えるために蝶は羽ばたく。羽すらあるのかも分からず、自我もあるのかすら怪しい、それでも母親を救うために時を大きく超えて。
・Pockets
七海の設定がだいぶ意表をつかれた。
往人がカラスになるよりかはマシかもしれないけれど。
小さいしろはに対して、過去にとらわれることよりも未来を見てほしいと訴える七海が実に主人公していて良かった。
花澤香菜さんの少年よりの声が実にいい演技をしていた。
そして、クライマックスでしろはが未来の自分の記憶を取り戻して、うみに語りかけるところが本当に感動したとしか言えないくらい心にガツンと来るシーンだった。過去が大きく変わることによって、あの輝かしい夏休みは無くなってしまう。うみも産まれなくなってしまうかもしれない。それでも子は母親の幸せを願い、母は娘の愛に涙する。
時が進み、羽依里が島に来る。
今回は鏡子さんが積極的に羽依里に蔵の整理を頼んで、本編であったようなヒロインや仲間達との夏休みは起きない。けれど、みんなが楽しように島で暮らしている。しろはも食堂でチャーハンを出してくれたりと前向きに生きている様子。そんな中で羽依里充実した夏休みを過ごしたと帰りのフェリーに乗る。そして、港でフェリーを見ているしろはを見かけてからのうみとの刹那の会合。現実の羽依里はうみとのことも思い出していない、けどあの夏休みの眩しさだけは忘れていない。全てが消えたわけじゃない。そして、しろはのもとにフェリーから飛んで戻る。
そっからのアルカテイルが実にこのゲームを表現した歌詞で、感動の余韻に浸れる。
Pocketsでの鏡子さんが実にいい立ち回りをしていて、鏡子さんの話もいつか公開されたらいいなと思う。
・ミニゲーム
島モンが思いの外楽しめた。隠しボスのあの人が強すぎて、よく勝てたなと今でも思う。
また、地味にエンディングロールで使った島モンの戦績が出るところがいいアイディアだと思った。
卓球も奥義を習得したり、駄菓子屋の婆さんに呪いをかけてもらったらやりやすくなるといったギミックが面白かった。物語だけじゃなく、こういうやりこみのあるミニゲームがSummer Pockesの夏を盛り上げた。
・総括
Keyのシナリオとしては、やはり企画・シナリオ麻枝准という一種のブランドが強い影響力を持っていると思う。
しかし、今回は原案は確かに麻枝准だけど、実際に魁さん、ハサマさん、新島夕さんといった布陣で十分にKeyらしい物語を作ったのは称賛すべきことだと思う。しかし、新しいKeyという面はあまり感じれなかった。麻枝さんがインタビューで( http://gs.dengeki.com/news/89671/ )今回ハサマさんや新島夕さんが入ることによって、新しい側面が入ることを期待しているとおっしゃっていたが、二人とも上手くKey作品を作り過ぎて逆に焼き直しのようになってしまったのではと感じた。
後は今回、BGMや挿入歌に関してもちろん素晴らしい楽曲なのだがあえて、過去作と比較すると殺傷力が足りないと感じた。Airにおける青空やリトバスにおける遥か彼方のように曲で一気に感情を持っていかれる曲は今回あげるとすれば紬の夏休みぐらいで挿入歌関係で何曲かあるが後はいい曲だなというレベルだったかなと。
厳しいことを書いておいてなんだが、これでも僕は100点満点中98点をあげてもいいと感じたのがSummer Pocketsというゲームで、買う前の期待値を余裕で超える楽しくて泣けるゲームだった。
今回のスタッフは新しくKey作品に本格的に関わる人が多い中でこれだけの作品を作れたのはすごいと感じる。
そして、今回のスタッフがどれだけ次回作に関わるかは分からないがこのスタッフだったら100点満点を超えるような素晴らしいゲームを作れると感じた。だからこそ、些細な不満点も感想を書いておこうと思った。
楽しく、そして眩しい夏休みをありがとう。Key。