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sunatokageさんのISLANDの長文感想

ユーザー
sunatokage
ゲーム
ISLAND
ブランド
FrontWing
得点
86
参照数
760

一言コメント

物語の全容をプレイヤーの想像に「任せすぎる」SFミステリーを名作と呼んでいいのかは難しいところ。 しかしEver17のように5年10年と語られ続ける作品なのは間違いない。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

シナリオ

夏蓮、紗羅ルート A+

本作の良さは設定や仕掛けもさることながら基礎となる各シーンの情報密度にあると思う。
後にも先にも繋がらないような雑談やアリバイ作りのテンプレイベントはごく僅か。
序盤から主題となる時間跳躍や村の伝承といった
「プレイヤーの知りたい情報」中心に話が進むのでテンポが良く夢中でプレイしてしまう。
このゲームのボリュームはさほど大きくなく自分の場合オールクリアまで10時間前後だったが
一般的な作品の何倍も濃いので短すぎると感じることはなかった。
特にこの夏蓮、紗羅ルートは両方合わせて4時間足らずの中に
ここまでドラマと知的興奮を詰め込めるのかとライターの力量に感動させられた。
そんな曲芸を実現できるのも短文でもしっかりとキャラの魅力を表現できる文章力があればこそだろう。
サブヒロインのルートでも存在感を発揮するメインヒロイン。
話の中心に絡んでこないルートでも脇役に回り物語を支える登場人物。素晴らしかったです。


凛音ルート B+

声優込みで当たり揃いのヒロイン陣の中にあって
リンネ(あえて漢字にはしない)が最高に魅力的なキャラクターであることは間違いない。
しかしSFミステリーで一番盛り上がる「事件の真相」の解説、考察が
「面白くない複雑さ」で語られてしまったことが凛音ルートの評価を今一つなものにしていた。
面白くない複雑さとは何か。それはトラベルミステリーにおける時刻表トリックのようなもの。
表を書いて、並べて、組み合わせれば確かに辻褄は合うのかもしれないけれど
それが「これが事件の裏で起きていたことだったのか!!」という納得と驚きに繋がらない。
また通常のタイムトラベル作品では過去改変を決意させた事件のギミックは
真ルートで「それをどう解決するか」という部分も含めて重要な要素ですが
本作で明らかになる「世界の真実」の前では過去の切那と凛音の辿った運命は
本作の真ルートである真夏編において重要な意味を持ちません。
切那に救える凛音がいるとしたらそれは「その切那の前にいる凛音」だけだから。

厳密にはおそらく切那は過去の凛音を最終的に救います。


>やるべき事をやり終えたら
>――過去の凛音(リンネ)を救い終えたら、
>必ず会いに行くから。

と真夏編のモノローグで語っているしね。
しかし本作で実際に描写されたイベントに限っていえば
切那が救いうる存在は真夏編の世界にいる一人の凛音とリンネだけ。
そう、本作で救われたのは真夏の凛音だけであり夏の凛音は救われていないのです。
これに気が付いてしまうとやはり凛音ルートにいい点数はつけたくないですね。



冬編 A

冷凍睡眠装置に乗り込み全く違う世界へ向かう導入部に関してはSに値する最高の展開でした。
ただ全体として見ると冬編はプレイヤー側にも
「あぁなるほどこういうオチにしたいのか」というのが見え始め
ストーリーもおおむね予想通りに進んでいくので驚きに乏しく前半と比較すると少し物足りなく感じました。
もっともこの「未来編」にしてもライターの力量と声優陣の熱演は素晴らしく退屈することはありません。
ランランララーンアイランジャー♪


真夏編 S

凛音とリンネ、二人のヒロインのルート。
物語を締めくくる真ルートとして見ると色々と瑕疵も不足もある真夏編ですが
(特に主人公の既に経験済みだから何でも解決できるぜチート無双の描写は色々と全てを台無しにするレベルで酷い)
タイムマシンを用いたループ構造だと見せかけておいてからのどんでん返し。
これを見せられては最大級の称賛を与えるしかありません。
複雑怪奇なチャート表を作成しなければ言ってる意味も分からないようなトリックではなく
「○○は××だった」と言葉にするだけで驚きと納得が発生する理想的な「騙し」だったと思います。



キャラクター A-

ヒロイン、脇役ともに大変魅力的でした。
ネガティブな意見の多い主人公も自分はある程度評価しています。
言動の軽さは物語序盤のテンポを加速させるのとヒロインの魅力を引き出すのに役立っていました。
ただ親しい人も含めて多くの犠牲者が出る冬編でも夏編での体験を通した成長が見られないのは残念な部分ですね。
雨蘭の診察イベントで一応、整合性は取っているみたいですがプレイヤー視点での説得力には欠けます。
どんだけ都合が良くて悪いバランスの記憶喪失なんだと。



総評 B+++

本作単体でも「遊ぶ価値のある作品」にはなっていますが
やはり多くの謎を解決しないまま物語が終わっているので最終的な評価は完結編に持ち越しですね。

最低でも

・主人公の刹那はいつ始まったのか存在なのか(1999年以降の人間な気がする)
・冷凍催眠装置はいつ誰が作ったものなのか
・なぜ世界(運命)は刹那と凛音の物語を維持しようとするのか
・オーパーツが絡んでるとはいえ辺境の島のちっぽけな悲恋話が2万年後の世界で聖典となっている理由


あたりはちゃんとした説明が欲しい。