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sunatokageさんのうみねこのなく頃に散 Episode8 Twilight of the golden witchの長文感想

ユーザー
sunatokage
ゲーム
うみねこのなく頃に散 Episode8 Twilight of the golden witch
ブランド
07th Expansion
得点
90
参照数
4124

一言コメント

最後は決めてくれました。推理と幻想の華麗なる終演。人間と魔女の物語、堂々の完結。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

エピソード単独の評価はかなり高め。
恒例の退屈パートが皆無。最初から最後まで楽しませてくれた。ブラボー。
システム面では何といっても推理ゲームでしょう。
「ト書きは真実」「紫の発言」といった
うみねこらしいのルールを利用した論理パズルで犯人を突き止める知的快感。
ミステリーを期待するプレイヤーが望んでいたものが最後の最後で来ましたね。
また最後の物語らしくニンゲン、幻想を問わず各人に見せ場が与えられています。
お約束をきっちり抑えてくれてとても嬉しい。これだからクライマックスはたまらない。

このように「1つのお話」としてはベタ褒め出来る内容ですが
今作をもって完結した「うみねこのなく頃に」全体を見た場合、不満の残る終わり方。
前述の推理ゲームにしても他の事件に対する誤魔化しとしての正当派というか
胡散臭い箱の山を出された上で箱の中の一つだけ中身が真っ当なことを確認させられて
「ほらインチキじゃないでしょう」と言われてる気分。
鍵となった「一なる真の物語」は最後まで語られることなく終わったことは
「真実が何かなんて重要じゃない」と諭され
バラ撒かれた推理をきちんと回収しなかったのは
「ヒントは十分出した。それを推理し楽しむのがうみねこというゲーム」と煙に巻かれ
広げた風呂敷を綺麗にまとめるのを期待していたら
風呂敷が綺麗にまとまったように見せかける技を見せられたという感じ。

なぜ「うみねこのなく頃に」は歪んでしまったのか。
結局それは「ひぐらしがなく頃に」を竜騎士が作ってしまったからなんでしょう。
本人は否定するかもしれませんがひぐらしもうみねこも根底に流れるテーマと着地点は同じでした。
しかし彼は間違いなくこの二作品を違うものとして作っていたはず。
何故なら多くのプレイヤーに嘲りをこめて「どうせまたひぐらしと同じ超展開だろ」と煽られていたから。
彼は頑張りました。連載形式である強みを生かしてプレイヤーの反応をフィードバックし
魔女達に嘲笑させることで「ひぐらしとは違うよ。アンフェアではないよ」と訴えます。
しかし「ミステリーか否か」を問う作品で作者が盤面の外から
「自分はフェアなクリエイターでこの作品はフェアなゲームです」と主張するのが果たして正しかったのか。
もしも竜騎士が「ひぐらし」という作品を作っていなければ
彼はそっと沈黙の立場を選び、自身より作品のクオリティーを優先することが出来たと思うのです。
だが現実には彼はひぐらしを作り、多くの栄光を手にし「反則シナリオライター」の汚名を背負いました。
だからこそ彼は「うみねこのなく頃に」で抗い続けた。
そして皮肉な事にそのせいで作品全体のクオリティーを落としてしまった。そう思います。

先ほどひぐらしもうみねこも着地点は同じと書きましたが
着地点へと向かうための踏切のタイミングは全く違います。
ひぐらしは解明編となるEP5から真っ直ぐそこに向かい
うみねこは最後まで飛ぶタイミングを遅らせ続けました。
作者が最善だと考える道を突き進んだ作品と
また反則か、前作と同じオチかと馬鹿にされないようにしようと作られた作品。
その差が前作より遙かに開発体制が強化され多くの経験値を得た後の続編であるにも関わらず
うみねこのなく頃にがひぐらしのなく頃にを越える事が出来なかった原因だと思います。

とはいえ間違いなくうみねこシリーズは偉大な作品です。
半年という短期間にリリースされプレイヤーが多くの謎と問題を共有し議論と推理をする
「ゲームの新しい遊び方」を定着させた功績はいくら賞賛しても足りないでしょう。
だからどうか、新シリーズではひぐらしの重荷もうみねこの重荷も背負わずに
極上の作品をプレイヤーに届けて欲しいと切に願います。それだけが私の望みです。