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stochaさんのこの大空に、翼をひろげての長文感想

ユーザー
stocha
ゲーム
この大空に、翼をひろげて
ブランド
PULLTOP
得点
81
参照数
882

一言コメント

明るく爽やかな一大青春物語……に見えて、その中身は「小鳥かわいい」だけで全てが語れそうなほどにキャラゲー。その意味で良作には違いない、けれど。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

(レビュー&長文感想は個人ブログにて)

作中にも度々出てくる青春という言葉。「どうだ俺達の青春は?」と言わんばかりのストーリーであったが、
どうもそこに引っ掛かりを覚えた。

青春。
サミエル・ウルマンを持ち出すまでもなく、誰もがその意味を大まかには理解している。青く、眩しい日々。
仲間達とグライダー製作やフライトに情熱を費やし、そして夢を達成する本作は、確かに青春ストーリーといえるの
かもしれない。中高と男子校であった筆者はつい壁殴り代行業者に連絡を入れたくなるが、別に男一人で周りは女子
ばかりの青春だってアリだろう。きっと。

実際、小鳥やあげは、双子や天音先輩にとってのソアリング部の活動は、紛う事無き青春に思える。仲間と出会い、
一つの目的に向かって共に打ち込み、オフの時にワイワイ喋ったり遊んだり。それは輝かしく、彼女たちには
かけがえのない唯一の時間。
しかし碧くんにとってはどうか。彼の青春はソアリング部にあったのか。
否とは言えないかもしれない。だが、自分の印象は少し違う。彼の青春は自転車だったのではないか。
自転車に情熱を費やし、失い、後に過去を振り返る様は、青春時代を懐かしむオッサンを髣髴とさせる。
私には、物語冒頭で既に碧くんは青春を失ってしまっているように見える。

失意の中で出会ったグライダーは、再び人生を歩み出す切欠となった。言うなれば、彼にとってのソアリング部
は第二の青春である。がしかし、それまでの経緯と、グライダーという学生らしくない高度に専門的な活動、
仲間の男女比率、達観した性格などが合わさり、どうも「青春」を感じにくい。
彼の印象はどちらかというと、既に青春時代を経て成長した青年である。
グライダーで空を飛ぶという事に固執する様は確かに若者らしい無意味なこだわりだが、それは小鳥の夢であり、
碧くんはやや客観視しているところもあって、どうもピンとこなかった。

小鳥が主人公の物語なら、疑いなく青春ものだろう。
個人的には、このお話は女主人公で一本道ゲーでも十分いける、というかむしろお話的にはそっちの方が
面白いんじゃね的な気もする。売り上げやユーザー受けを考えると、今の形式の方が正解であろうけれど。

なにも特別なことをしなくてもいい。気の合う友達とダベったり、バカな思いつきに夢中になったり、恋愛に
一喜一憂してみたり。それだけで十分青春はできる。
最近ペルソナ4(P4G)をプレイしたが、あのベタベタな高校生活の方がよほど青春らしく感じたし、エロゲなら
つよきす3学期のスバルと一緒に部屋でグラビアを眺めるだけのシーンなどは実に青春である。
「ころげて」はそんな何気ない日常の描写が薄かった。そのせいでキレイすぎる作り物っぽさが強く感じられ、
青春?と首をかしげてしまう結果となってしまった。同性のマー坊が思いのほか遠い存在だったのも痛い。また、
あんちゃんの方が気が合うように見える碧くんは、やはり尻の青い若者から一歩踏み出してしまっている。
決して男子校出身者の僻みではありません。ほんとだよ。

さて、壁を殴るお仕事はそこまでにするとして、内容を見てみると。
本作はとてもエロゲらしいエロゲだったと思う。
ストーリー自体は悪くなく、青春ものっぽい雰囲気を楽しめるレベルではあったが、前述の部分など、結構薄い。
それよりも、ヒロインのかわいさエロさの方が目立つし出来が良かった。そこが大変エロゲらしい。

つまり小鳥が超かわいいってことです。小鳥ちゃんびゅーちー。
儚げな車椅子の美少女……ではなく、調子に乗りやすく熱い車椅子の美少女。なかなか新鮮だし、とっても
魅力的だった。最後にクララよろしく立ち上がってしまうのは、死んでなきゃおキヌちゃんじゃない的なアレ
を感じてちょっぴり残念だけれど、いい話に水を差すのは野暮というもの。
CVの星咲イリアさんもまた大変ハマり役で。これからは「小鳥の声の人」で通じる素晴らしいお声だったと思う。
そんなワケで、本作は完全に小鳥ゲー。青春が云々なんて小鳥のかわいさに比べたら些細な問題ですよ!

天音先輩もエロかわいい。年上の純真なかわいいお姉さん。
ライターさんの好みがよくわかりますね。ええ、私も大好きです。

双子は3Pが良かった。ナイスヒップ!

そしてあげは。あげはもまたナイスヒップでエロくて良いと思うのだけれど、あげはの個別ルートについては
作中でかなり異彩を放っていたのが印象的。
どうも評判がよろしくないあげはルート、個人的にはとても実力のあるライターさんだと感じた。
エロ小説畑の人なのだろか。Hシーンが一人だけズバ抜けてエロかった、というかノリノリで、特に初Hは
実に情緒溢れるHテキストだったと思う。
しかし日常シーンはテンション高いわりにスベり気味だし、ストーリー自体もあまりパっとしない。上手いのに
面白くないという悲劇。しかも他と比べて浮いてしまっている。どうしてこうなった。
あげは担当のライターさんの次回作に期待したいところ。主人公の感慨がひしひし伝わるテキストは凄く良かった。

音楽は品質は良いもののどこかズレていた印象。そんな気がする、という程度だけれど。
背景絵は素晴らしかった。必要以上に爽やかな雰囲気を作り出している見事な出来栄えです。


名作っぽいわりにそうでもなく、しかし良質なキャラ萌えゲー
――という印象。ボリュームもあり、ライトで安心して楽しめる良作だったと思う。
結局「小鳥がかわいい」という点に尽きるのが若干残念ではあるけれど。かわいいんだから仕方ないよね!
細かいことは気にせず、頭空っぽにして小鳥に萌えていればいいじゃない。だってエロゲだもの。