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st.さんの私のリアルは充実しすぎているの長文感想

ユーザー
st.
ゲーム
私のリアルは充実しすぎている
ブランド
TetraScope
得点
90
参照数
494

一言コメント

魔法をかけて ねぇ 君のその一言で  少しずつ近づいてくの 君の理想の私に

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

「フリーの乙女ゲーにいいのが出た? どうせまた彼女と彼女となんちゃらみたいな絵がいいだけの◯◯ゲーだろ――って何これかわいすぎぶっひいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい(ゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロ!)」


すいません、乙女ゲーム舐めてました。なんすかこれめっちゃ面白いしめっちゃかわいいですやん……。
自分の萌えポイントって男性向けより女性向けの方がフィットするなぁというのを改めて思い知らされました。これははーとふる彼氏にも手を出さざるをえない。
てかこのシナリオとキャラ造形でなんでフリーなんですか。値段つけちゃいけないレベルのライターの商業ゲームが山ほどあるのに、これが値段をつけないのか……。

たぶん女性達がメインで作ったゲームだと思いますが、女性作品の良いところは出まくってるのに悪いところを全然感じませんでした。
女性作品って個人的なイメージとして「キャラの誰かが要らんことをして無駄にピンチを招く」とか「ラストがご都合主義の超展開で無理やりあっさり終わる」とかの傾向が強い気がするのですが、そういうのがありません。
逆に女性作品の強みが秀逸。セリフとは裏腹な気持ちや「……」の時の心の機微を表情で丁寧に描写していて、どのキャラもとにかくかわいくて仕方なく、思いきり感情移入して悶えまくりました。
立ち絵でも一枚絵でも、表情差分をものすごく細かく活用しているのが巧いです。キャラの感情の一つ一つを捉えることができて、すごく魅力的に思えてくる。
そんな訳で、乙女ゲーですが男でも大体楽しめると思います。少女漫画的な恋愛模様や凪のあすからあたりが好きならキュンキュンできるはず。



攻略対象の少年たちがかわいいのはもちろんのこと、やっぱり主人公もかわいいんですよ。主人公も顔アイコンで感情を丁寧に描写してあって、その百面相がホントかわいい。
素直になれない(けどプレイヤーにはモロバレな)攻略対象に萌えまくりつつ、オタク女子の主人公にも萌えまくり。
主人公にキュンキュンしてるイケメンにキュンキュンし、イケメンにキュンキュンしてる主人公にもキュンキュンする。キュンキュンワールド。3羽そろえばキュキュンがキュン。

女性向け作品の良いところは、攻略対象だけでなく主人公に魅力がある場合が多いことですね。
前にね、主人公に魅力の無いエロゲ作品に対して熱烈なファンの方が息巻いてたんですよ。
   「感情移入できないからカッコ悪い主人公を認めないなんて言うのはエロゲオタが惰弱だからだ!
    作者は敢えて主人公を魅力的にしなかったんだ!
    これは作者からの皮肉だ! 主人公はお前らが自己投影するためのオナペットじゃないって言ってるんだ!
    エロゲオタども、お前らの思い通りにならない『物語』を受け容れろ!」
これ見てさすがに『良い子の諸君!よく頭のおかしいライターやクリエイター気取りのバカが~』のAAを思い出しました。いや、間違いなくライターさん自身はそんなこと考えてないでしょうけど。
その作品のライターさんは、単に主人公作りに失敗しただけでしょう。あばたを作ってしまったのにファンに「これはえくぼだ! えくぼに見えないのはお前らが悪い!」って騒がれてもライターさんも困ると思います。
さておき、そもそも『物語』ってキャラ込みで良し悪しが決まるモンですやん。そのキャラの中でも主人公に魅力があるかどうかって最も重要ですやん。
だって主人公ってどの攻略対象よりもプレイヤーが密接に付き合わなきゃならん登場人物ですよ? 共通だろうが個別だろうが全てのルートはまず大前提として『主人公ルート』なんですよ。
そういう意味で、この作品はまず主人公が魅力的でかわいいのが良いところです。そんな主人公だからこそ、主人公と攻略対象の両方の恋物語を応援しながら堪能できました。
(ちなみに一般小説などのダメ主人公というのは『ダメキャラとしての魅力』があるのです。魅力が無いのとは別物です。『物語』にとって主人公の魅力は非常に重要です)

絵は秀逸ってほどのものではないはずなのですが、何やら妙にかわいく思いました。SDは文句なくかわいいです。公式サイトでちょこちょこ歩くミニキャラ主人公めっちゃかわいい。
それとOPがすごく良かったです。もちろん商業作品みたいにお金がかかっていそうな感じではありませんが、
音楽のリズムに合わせてキャラを小刻みに動かしたりぬるぬる動かしたり、演出がすごく良くてかわいかったです。スケールは違いますが、みなみけ一期や夏恋ハイプレッシャーのOPみたいなかわいさでした。
歌そのものもかわいいです。『プリンセスマジックナイト』というタイトルで、おもにシンデレラ色の強い歌です。レコーディングの環境が悪かったのか歌声が小さいですが、「Extra」の「音楽」で歌詞が見れます。
希美が義弟の隼に向けてこれを歌っていると考えるとなおのことかわいく思えてきます。シンデレラが希美で、魔法使い兼王子様が隼。最高です。
一言感想に書いたのがサビの一部なんですが、隼ルートを攻略すると「魔法」とか「君のその一言」の具体的な内容が分かってなおのことかわいいです。
他にも「買い替えた靴」と「ガラスの靴」が出てくるのですが、前者は自分の意思による変身で、後者は「君」が与えてくれた最初の変身といったところでしょうか。作中での二人の想いを象徴しているようでかわいいです。
なんかかわいいかわいい言いまくってるけど、とにかくホントかわいい作品なんですよこれ。



また、この作品が漂わせてる『姉萌え』が自分にめちゃくちゃストライクでした。
だってエロゲの姉って大体こんなのですやん。

・やたらとベタベタ密着してくる
・やたらと好き好きアピールくる
・異性として好きなことを声高に叫んでくる
・家では露骨にエロい格好してたり下着姿だったり裸だったりする
・全部すっとばして思いっきり発情してる
   ⇒ そんな自分の異常な性癖を隠そうともしない

節子、それ姉やない!ただの痴女や!

それに引き換えこの主人公の希美はよく分かってます。
キャミソールにホットパンツという姿で私室に二人きり。肉体的な接触は髪のセットや怪我の手当てなどの事務的な理由のみ。とはいえ理由があればもちろん触るくらいOK。
これですよ……っ、これぞ姉萌えですよ……っ!(握りこぶし)
さすがに下着なんて見せません。その程度には異性であることを意識しています。しかし相手が弟なので、薄着で平然と白い肩とか鎖骨とか細っこい腕や足を無防備に曝しちゃってるんです。
このへんの絶妙な距離感が生み出すエロスを作者さんが狙って生み出しているのがいいですね。その証拠に、こういう場面で一枚絵が使われています。
乙女ゲーにもかかわらず、弟萌え以上に姉萌えを堪能させてもらいました。





てなところでルートの感想へ。
共通ルートではそこまで動きはありません。
優等生を演じてるなんちゃってリア充な主人公ですが、実は高校デビューに成功した隠れオタで、家では乙女ゲー三昧です――という導入。
攻略対象は三人。主人公がオタなことを知ってて協力してくれる義理の弟、隼。かつてオタ友達だった転校生、歩。憧れの先輩の不出来な弟、穂積。

攻略順は適当に、歩⇒隼⇒穂積にしました。
ルートの好みとしては 隼>>穂積>>>>>>>>歩 でした。ちなみに番外編は歩ルートが一番好きです。親友ちゃんがかわいいし、何よりめっちゃいい子。
公式では隼を最後に攻略することを推奨していました。このルートが一番濃いですからね。
でもなにげに自分の順序が一番楽しめるような気もしました。攻略順に、根暗な自分と向き合う話、根暗な自分を乗り越えてきた話、根暗な自分を乗り越えた後の話、という感じなので。

以下、ネタバレありの個別の感想。



・歩ルート

オタばれしそうでスクールカーストがやばい、でもホントは歩とオタトークしたい……という物語。ノーマルエンド⇒ハッピーエンドの順でクリア。
ストーリーは面白かったのですが、ぶっちゃけ攻略対象の歩に魅力を感じませんでした。
だって顔がイケてる以外に王子様要素が無いし……。むしろダサいし……。
趣味うんぬんは関係なく、やっぱりクラスメートにナメられてすごすご引き下がる男子ってカッコ悪いです。
むしろリア充義弟の隼に「頼りになってカッコいいなー。歩のことも全然見下さないし、むしろ番外編で一緒に遊んでるし」と軽くキュンキュンしました。
ラストで告白したことは男らしいですけどね。
でも「オタクだろうが希美ちゃんは希美ちゃんだ!」とか言われても、「言ってることは正しくても同じオタのお前が言ったら説得力無くなるだろ……」という感じでした。
とりあえず歩くんはまず同じクラスの中に男友達を作ってください。カースト最下層にいるのはオタじゃないんですよ。ぼっちの奴なんですよ。

本編よりも親友の未歩ちゃんメインの番外編の方が面白かったです。本編でも頼りになるいい子ですが、番外編で更に際立っています。
てか攻略対象が「歩」で親友が「未歩」ですか。キャラ名はなるべくかぶらせない方がいいんだけどなあと今更ながら気づきました。文字媒体なので読みより字面の方が重要です。


・隼ルート

このゲームのメインルート。「あれれー弟の男友達と仲良くしてたら弟が不機嫌だよー? 変な弟だなぁー」というところからスタート。
そして中学時代の回想が始まり、険悪だった弟と新しい関係を築いていって、そして今――という物語。
たまたま隼ノーマルエンド⇒ハッピーエンド⇒有ノーマルエンドの順でクリアしたのですが、そのおかげで有ノーマルエンドを面白く読むことができました。

正直ビックリさせられたルートです。このルートをやって「あなたのレベルならちゃんとお金をもらいなさいよ」と思わされました。
物語というのは、キャラがそのキャラの持つ人格に従った言動をとるということを最優先にしたうえで、ライターの思う方向にストーリーを転がさなければならないものです。
これは物語を成立させるうえで大前提となる条件であり、これができていない作品はお金を受け取ってはならないのです。
だというのに、そんな当たり前のことすらできないライターが山ほどいます。
キャラの骨子など特に無く、ただその場その場でテキトーな言動させるだけ。思う方向にストーリーを動かせなくなったら、キャラ崩壊させておかしな言動をさせることで無理やり進行する。
そんな作品があふれかえっている中、この物語はお金を受け取るのにふさわしい力を備えていました。

このルートでは隼の友達の有が当て馬的に登場するんですが、主人公のことを好きっぽいくせに何かがおかしくて、「まさか実はホモなのか?」と疑っていました。
ですが中盤になって有の秘密が明かされて、ようやく合点がいきました。このキャラはプレイヤーの知らない悩みを抱えていたがために、一貫して何やらひっかかる反応を見せていたのです。
このように、ストーリーの変遷と平行して各キャラクターの変遷がそれぞれ存在し、その全てに対してライターが捻じ曲げることなく丁寧に描き続けているからこそ、
この作品はシンプルでありながら途轍もなく面白いのです。

そんな丁寧な物語なので、直後のイベントで爆発する隼の苛立ちにも思いきり感情移入してしまうんですよ。
なんで姉貴は姉貴を狙っている男と二人きりで会うんだ? なんで姉貴は俺を男として見ていないんだ?
なんで抑えなければならない? 俺だって男なのに。弟である前に男なのに。俺だって姉貴のことが好きで好きでたまらないのに――!

   ぶっひいいいいいいいいいいいいいいい! 隼かわええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!

いやあもうこのルートはホントに怒涛の姉萌え弟萌えですわ。
そんでもってぐしょぐしょに濡れたりベッドに入ったりしてるうちに過去回想へ突入ですわ。
この回想が最高に面白かったです。かつては拒み合っていた義理の姉弟がどうして歩み寄ったのか。どうやって希美はリア充としての力を獲得していったのか。
その過程での二人の感情の描写がまた丁寧。隼が希美の現状に対してやりきれなく思う場面とか、自分にもできることを見つけた場面とか。
そうした過去を経て現在がある。家族愛から始まった感情はやがて恋へと生まれ変わり、そしてOPの歌詞へとつながっていく訳です。

 魔法をかけて ねぇ 君のその一言で 少しずつ近づいてくの 君の理想の私に

毎朝隼に魔法をかけてもらうという同じことのループを繰り返した果てに、二人は恋人として踊り続けていく。
シンデレラに幸せをもたらした魔法使いは、やがて美しいシンデレラと結ばれる。
本当に素晴らしい恋物語でした。



・穂積ルート

似たようなコンプレックスを抱える二人が、そのコンプレックスごと好きだと言ってくれたお互いに恋をする物語。
ノーマルエンドはなく、ハッピーエンド一本道です。
序盤で希美が萌えるギャップと悪いギャップについて力説していましたが、その萌える方のギャップを穂積が見事にやってくれました。

お互いが恋に落ちたふとした瞬間を一番色濃く見せてくれたルートです。
それぞれが抱えてるコンプレックスについて、会話の中で相手が何気なく「あなたのそういうところ、好きだよ」と言います。
言った方は重大な発言だと全然気づいていないのですが、言われた方はその瞬間に恋してしまっていて、その対比がさりげなくかつ分かりやすく描写されていました。
もう最高ですよホント。このルートもキュンキュンしっぱなしでした。こういう描写が丁寧なエロゲがもっともっと出てほしいなあ。
そういえばNavelやぱれっとはこのあたりが丁寧です。セリフをしゃべっていないキャラクターも表情を小刻みに変えていて、うまく感情を表現しています。
反面、クロシェットは差分の数の割に使い方がイマイチな印象。表現の世界は奥深いなあ。

ちなみに、このルートで先輩の幼馴染ちゃんが登場した時は「腹黒か? 昔のTBSドラマに出てくるライバルのような腹黒女か?」とそわそわしました。
実際は従来の洗剤よりも真っ白な子でした。ああいう安っぽいキャラを出さないあたり、この作品はつくづく女性作品にありがちなダメなところが無いですね。
そんな訳で、このルートも終始楽しく床をゴロゴロ転がりまくりました。



以上で全ルートクリア。全クリ後に解放される反省会も面白かったです。
とにかくかわいくてかわいくて仕方ない作品でした。
シンプルですが非常に丁寧です。恋愛ものが好きなら男でもキュンキュンしまくれます。

何もかもが素晴らしい珠玉の逸品です。
クリア後には是非OPを歌詞カード付きで観賞してください。