自分に良質な刺激を与えてくれた作品、これほど読んでいる最中にクリックする手を止めて考えた作品は無いかもしれない。 先が気になるというよりもじっくり向き合いたいと思わせる魅力があります。
ジャンルは内省型のヴィジュアルノベル、イベントをどんどん展開させて盛り上げていくエンタメ要素の強いものでは無く、キャラクターのやり取りを通じて読者に感じたり考えさせたりする要素が強いものです。
このキャラクターのやり取りが非常に丁寧に作られており、ケース毎(全4ケース)に展開されるテーマ自体は一般性の高いものなので個人的には万人にお勧めしたいと感じます。
勿論万人が共感できるってことでは無いですよ。
感覚的には取り敢えず手元に置いておきたい本に巡り会えたという感じ。
傑作だとか名作だとかというのでは無く、また読みたくなりそうって。
そういう意味では時期を選ぶ物語といえるかもしれない、読み手の心理状況やそれまでの経験で共感度は大きく変わりそうな気がします。
でも決して説教臭くは無いですよ、まあ逆です、ただ理論的なのが少し苦手と感じる方はいるかもしれません。
作品の完成度としては手放しでは褒められないと感じますが、作者さん(ほぼ1人?)の強いこだわりは伝わってきます。
興味を持つ人が増えてくれると自分も少し嬉しいかもと思ったのはこの作品の持つ力なんでしょう。
ただ個人的にはちょっとこの展開はどうなのかなと思うところもあったり、作品の質的な問題も感じるのでその辺りを少し書いておきます。
勿論完全ネタバレなので少し空けます、この作品を最後まで読んだ人向け、いいですか大事なことなのでもう一度言いますね。
以下は「最後まで」読んだ人向けです。
まこちゃんやっぱり
まあケース4です、ケース3までの伏線の張り方(近未来、意識操作、会えないまこちゃんetc)を考えるとこうなるかというのはなんとなくたどり着きますよね、
ケース4でのまこちゃんの経験は物凄く丁寧に作られている(演出含めて)ので読者の感情をガンガン揺さぶってくる。
特にイジメに至るまでの過程がここまで丁寧に描かれているものは初めてみました、
イジメそのもののエグさは結構見慣れてると思うんです、でも大抵気づいた時はもう遅いんですよ、
イジメている方にも虐められている方にも関われない、もうとっくに理由なき行動ですからね。
まこちゃんが自滅ループに入っていく様はお兄ちゃんとのやり取り含めて本当に丁寧に描かれてる。
どんどんまこちゃんの未来が黒くなっていく感じがいたたまれない。
自殺に至る過程って実際のところわからない、でもまこちゃんの追い込まれ方は「無理なく」理解できる。
読み手としては辛いけど、ここを丁寧に描かないと伝わらないという作者さんの想いがあったのではないかなあ。
ついでに伊藤ですけど、伊藤みたいな子は結構いるんじゃないかなと思ってます。
そして伊藤は自分が虐められていると感じてるかもしれない、みんなから無視されてると。
(普通にイジメしてた子達はもう腐るほど居ますよね、もしかしたら私も加担してたかもって)
もちろん虐められてるまこちゃんがそんなこと考えることはありえない。
まあ伊藤の場合は横に男がいたからね、まこちゃんに比べたら全然楽なはずですけど。
個人的には「おい教師少しは気づけよって」感じでしょうか。
話の展開に違和感を感じたのは、まこちゃんが自殺した後です。
ここまで作者さんは、共感できるかどうかは読み手次第、だけどきちんと理解してもらおうとしてると感じてました。
でもこの後の展開は、言葉を思いつかないのですが、ファンタジーだと。
もちろんこの作者さんはきっちり伏線を張ってますから物語的には「ああそうなるよなあ」という理解はできます。
ただ、ここまでのリアリティの高さと比較するとどうなんだろうこの展開はって違和感があるんです。
お兄ちゃんが持ってきた「意識操作を可能にする箱」がなあ、結構唐突に出てきましたよね。
まこちゃんが「自殺するほんの少し前に」、お兄ちゃんが最後に見たまこちゃんの笑顔とともに。
(勿論作者さんはここにもきちんと伏線張ってますけどね)
私はこの後ファンタジーとしてみてたので、バスに乗れたり乗れなかったりとか、触れる所と触れないところとかなんかもういろいろファンタジーだよなってフィルターがかかってました。
でも面白かったですね、伏線が回収されていく様は上手い。
そしてホールのドアを開けたときですね、「うわっ」て声出しましたよ、その後涙腺崩壊。 やられました。
まあその後に「普通に良い曲」を持ってきましたね、一気にテンション上げに来ました。
あれこの歌っているキャラって? ああケース1の彼女か、でもなんで? あああれが伏線か。 上手い。
(えっバンド、わずか1日たらずでこの演奏と曲かよ、ファンタジーだなあとも思いましたけどね(苦笑))
きちんとエンタメとしての締めも上手い。
ただね一言感想に書いた「読んでいる最中にクリックする手を止めて考えた」はほぼ無くなりました。
(ホールに入る前のまこちゃんと市郷さんの会話くらいかな)
少し皮肉っぽくなってしまいましたが(苦笑)、1つの作品としてみた時の構成に違和感があるのは伝わりますかね。
エロスケの批評で時々見るのは「楽しんだ者勝ち細かいところは気にするな」みたいなの、
エンタメ作品ならそれでいいと思います、だから終わりよければ全て良しみたいな所ありますよね。
この作品ってどうなんでしょうね。(それでもケース2のエンタメ要素とかは好きですけど)
なんとなく、作者さんは力入りすぎてしまったんじゃないかな、最後はハッピーエンドにしなきゃいけない、大団円に持っていこう、気持ちよく終わってもらおうって感じでね。
もの凄い力作なのになんかこう、変な観念に縛られてたかもって。
きっかけ、切っ掛け、切欠
ヴィジュアルノベルとしての出来に関しては「最後まで」読んだ人向けとして書いてるので
細かいことをいうのはやめましょう、テキストの間の取り方とか表情差分への気の使い方とか上手い点は多いしね。
ただ「物事のきっかけ」のきっかけをこの作者さんは最後まで「切欠」で統一してましたよね。
私が校正係なら「おかしいよね」って言いますけど、もしかして結構認知されてる?
文部省調査で「切欠」と書く人は30%ですとかになったりしてるのかな、ネットでは数年前からたまに見たことあったけど、
この単語は頻出してたので結構気になったのでした。
最後にこの作品を読む切っ掛けになったレビューを投稿してくれた「エスト」さんに感謝します。
勿論作者の「ものらす」氏と「まこちゃん」に最大級の感謝を。