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soulfeeler316さんのキラ☆キラ カーテンコールの長文感想

ユーザー
soulfeeler316
ゲーム
キラ☆キラ カーテンコール
ブランド
OVERDRIVE
得点
70
参照数
295

一言コメント

世界がぜんたい幸福にならないうちは個人の幸福はあり得ない

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

※ 『キラ☆キラ』批評を読んでから、読む事を推奨します。


 思った事を、語っていこう。


①太陽に挑む者
 誉田宗太ってキャラクターはバカでアホなクソッタレダメ野郎と思っているし、ムカツク腹立つ調子乗んなカスって何度も感じたけど、僕は不思議と嫌いでない。大事なモノ以外は碌に考慮せず、一点突破で事を為す我の強さ。本当の意味で「馬鹿」を体現した彼は、ある意味最強の人種であり、現実だったら結成解散また結成を繰り返し、それもまたロックっぽいとか言って、その事自体肯定しちまうだろう。脅威(でも、バンド名勝手に決める暴挙だけはマジ止めた方が良い)
 カズの為に結衣を置いていくロック、SUPER ROCK'N'ROLLERS最終ライブの全容、二代目第二文芸部のステージなんてどうでも良いやとばかりに楽屋でメンバーと分かち合う場面、堪らなく良いんだよな。不器用だけど人間味があり、最終的には再度、ロックバンド『SUPER ROCK'N'ROLLERS』を成立、カズの為のロックに生きる事を貫き通す。普通なら、ただ腹立って終わるだけかもしれんけど、友情の為に生きる事を選んだ彼の行動、俺は正直嫌いじゃない。最終的には「ふっ、成長したじゃねえか馬鹿野郎……」って、どこぞの兄貴分みてえな気持ちで読んでた自分がいた。一体何様かって話である。
 最高に狂ったロックバカの再現は、宗太を見てムカついた人の発言で上々。彼の如き純粋馬鹿100%直情熱血野郎は、これまで瀬戸口某の書いた作品でもあまり見かけない。氏が書かなかったからこそ、生み出されたキャラクターだったかもしれないな。
 しかし、彼が原案である限り、コイツもまた、彼の要素を少しばかり受け継いでいる。その最たる例が、宗太の夢「太陽」だった。
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夏は暑くて暑くて大嫌いだけれど、夏の眩しく輝く太陽は好きだな。
手が届かない圧倒的な何かを感じる。

午後10:46 · 2019年8月19日
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 誉田宗太の「太陽になりたい」という将来は、原案ライターの想いが込められているように思う。この世で1番輝き、誰をも照らす存在になりたい主人公の夢。それは安易に叶えられるモノでなく、その手段として取り入れたのがバンドスタイル、ロックンロールである。
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いいか、カズ。
俺のことをずっと見ていろ。
たとえ歩けなくなったって、指先1本動かなくなったって、ずっと俺のことを見ていろよ。
俺はいつでもおまえのそばにいるからな。
どこにいたって、おまえのそばにいるから。
それを忘れるな。

『キラ☆キラ~カーテンコール~』Stage1 Track3 Chain Saw
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 彼はただ「太陽になりたい」って想いだけで突っ走ってきたけど、そうなってどうしたいのか? 明白にしてこなかった。いや、出来なかった。自分でも全く理解してなかったから。
 しかし、あの最終ライブで彼は自身の目標を明確にする。スターダムに駆け上がるなんて邪な想いでなく、時間が無いカズの意志もより多く、自らの意志として輝かせる為に、退学を決意した上で、ロックの世界へ足を踏み入れる。
 真っ暗で理不尽なこの世界で、ギラギラと輝いている太陽みたいな感じになりたい。そうすれば誰かを輝かせる事が出来るから。「今」はずっと輝き続けるから。カズをずっと、輝かせられるから。
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「このメンバーで、最高の『今』を、いっしょに過ごしたいんだよ」

『キラ☆キラ~カーテンコール~』Stage1 Track3 Chain Saw
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 才能なんて無いけれど、2本の腕しかないけれど、それでもカズという人間が生きている証を、ロックンロールに叩き込む。離れていても、自分が太陽となる事で、カズのそばにずっと居られる。カズの息衝いた意志は「瞬間」の間で続いていくだろう。だから、「手が届かない圧倒的な何か」でも、それでも彼は手を伸ばす。
 きらりルートをプレイしたなら分かる。ああ、やっぱ氏の考えたシナリオだなって。真の意味で「信頼」をきちんと描いている。理不尽な世界における人間の奮起を明確にしている。『キラ☆キラ』のFDとして、此処は素晴らしく良く出来ているなあ……と思えた次第。クリアして本作を思案した時、この部分の重要性を、僕は頻りに実感するのだった(『キラ☆キラ』のきらりルート2は、鹿之助こそ「信頼の」境地に至っているけど、きらりはそこまで至れていない。③も参照)
 FDの彼等が「信頼の境地」へ至れた事、純粋に嬉しく思えた物語だった。青春ってホント素晴らしいね!
 ただし、結衣と宗太の結末は曖昧だし、カズの作り上げた楽曲が登場しなかったのは減点だよ。ガッデム!!



②良い女選り取り見取り
 色々エロゲってヤツはプレイしてるつもりだけど、明確に実感したのは初めてかもしれない。ファンタジー色強め、現実世界へあまりに則さないヒロインの作品ばっかプレイしていたから、相対的に現実的な本作にそう感じたのかも。

 この作品、良い女が途轍もなく多い。

 いや、なんか改めて実感した節もあるんだけど、屋代の彼女、美佳さん。凄く良い女じゃありません? クラスメイト時代からずっと自分を支えてくれた女性。よくよく考えなくても素晴らしい女って実感して良い筈なのに。改めて深く心に沁みた。ヒロイン達の先輩として、ロックな彼氏の対応策伝授する箇所とか、最高に愛を感じたぜ、ファック。

 宗太が好き好き豪語してる結衣ちゃん。堪らなく良い女じゃありません? たとえ好きになった人でも、普通だったらブチ切れたり付いて行けなくなったりして、勝手に大学で彼氏作って、結婚式場ランデブーの幕開けですよ。100年の恋も冷めちまう。でも彼女は耐え忍ぶ。それは、ロックンロールの生き様ってヤツを分かっているからこその我慢。旧き良き日本の奥さんである。ここまできたら天使だろ。
 彼に対する「理解」が随所に感じられて、確かな「信頼」をそこに感じた。宗太の事がよく分からないって言ってたけど、普通の人より凄くよく分かっているよ君は。いつ好きになったの?って疑問は正直感じたけど、恐らくこれって知らない内に好きになってたパターンだよね。最初で最後のエロシーンなんか、その確たる例。自分でもよく分かってない内に身体で惹き止めようとする、凄くエロい次第。腐っても彼女もロックンローラー。最高の一言に尽きるでしょう。

 そして、そんな宗太大好き結衣ちゃんと並んで宗太さん大好き麻美ちゃん、非常に良い女じゃありません? 好きになった人の為、自身の想いをひた隠す。そして兄の為に行動する彼をずっと見てきて見守って、やっぱりこの人好きだと思う。またまた、旧き良き日本の奥さんである。羨ましいな宗太、やっぱクソッタレだコイツ。ファックオフ。

 そして、僕が最も強く推したい「良い女」
 眠り姫こと古川美瑠、HAPPY CYCLE MANIAのベーシスト、通称ミルちゃんでござい。
 ミルはね、なんかもう凄く良い。村上が苦しい時は彼女が傍にいたのを、とても救いに感じてしまう。振り返ってみると、彼女はずっと、本心から来る行動と言動で彼に接していた。自分の過去まで語った上で、かなり真剣に、音楽の楽しさってヤツをずっと訴えかけていた。振り返ると、覚えているんはそういう場面。今更ながら心に響く。
 しかも村上の事凄く好きなのに「俺はロックが恋人なんだあ!!」と嘆く彼の傍にずっといて、一緒に笑ってあげていた所、やられたねマジで。全ての怒りと悲しみを聞いた後「そっかあ……」と呟いた彼女の心境、如何な物か。その後「そういうのもいいよねっ! じゃあわたし応援するよ!」と豪語した彼女の優しさ、温かさ。僕の心へ突き刺さる。
 要所要所の行動も凄く可愛い。振り返り様の印象的笑顔。顔を赤くして「そういうムラさん好きだな!」発言。「はい、あーーん♪」「ムラさんに変なこと教えちゃダメだよ!」等と言った言葉の数々。村上は元々、きらりのような優しくて温かい女の子が好きだと『キラ☆キラ』で言われてた。2人は正直、お似合いだと思う。
 そして何より、彼と彼女の関係で素晴らしいと思ったのは「バンド内恋愛はバンド崩壊の原因」ってのを、徹底的に貫き通してた所。2人のエロシーンがないのは個人的に「よくやった!」と思う。ロックで生きる、バンドに生きる事を選んだ村上の意志を、ミルはきちんと尊重している。HAPPY CYCLE MANIAと言う居場所を崩壊させないまでの描写で留めて、彼にアプローチをかけている。そこに、バンドやロックなんて抽象的概念への愛を密かに感じた次第。これが瀬戸口氏原案だとしたら、実によく分かっているよな……最高!

 お金より、見た目より、車より、心意気なんて歌詞もあるけれど、それを信じて突き進むロックンローラーに付いてくれる女は中々現れない。八木原が前作で言ってたよね。人気次第で移り変わるのが人間、そこに確かな愛なんて無い。
 でもだからこそ、こういう良い女は手放しちゃいけねえ。最近偏に思うんだ。エロゲで何言ってんだって話だけど、こうして支えてくれる糟糠の妻こそ、男心に染み渡る。この後彼等がどうなるかは分からないけど、特に村上と宗太はマジでどうなるかわからないけど、どうかこんな良い女の涙は流さないで欲しいね。でも、ロックンロールは女を泣かすものだからな。世の中って、むつかしいね。



③きらりルート2補完考察
 さて、茶番はここまで、本題に入ろう。
 瀬戸口氏の原案を別ライターが書いて形にしたのが本作『キラ☆キラ~カーテンコール~』だ。きらりルート2の後日談としてこれの立ち位置はある訳で、そこに齟齬があってはファンも全員興醒めと言うもの。しかし、本作はその点において抜かりはない。そこらへんの伝達はきちんとしてたんだと、僕は妙に感心してしまった。主に取り上げるんは、鹿之助ときらりの現状である。
 鹿之助はきらりルート2のラストで、樫原ルートの紗理奈と同じ心境に至った事を『キラ☆キラ』の批評で語った。「適切な感情」に拠る「世間体」に支配された発言でない、真に自分の力で生きられる喜び、誰かの為に生きられる喜びを鹿之助は謳う。だからこそ、村上との飲みで仕事の話をする際、彼は「希望」に満ちた言葉を放つ事が出来る。
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「まだまだしなくちゃいけないことばっかりだ。でも、今までの人生だって、いつでもそうだったような気がするよ」
「まあ、俺はどうやっても俺なんだってことなんだろうなあ」

『キラ☆キラ~カーテンコール~』Stage2 Track1 ZIG ZAG Rockn'Roll Train
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 いつでもそうだったような気がするよ。沈ませていた自らの「本音」を浮上させた事で、もう1度、新たな人間として生まれ変わった鹿之助の言葉。ただ押し隠していただけで「本音」の本質は変わっていなかった。そう認められている彼の現状が、僕には堪らなく眩しく映える。
 そして、そんな今の鹿之助だからこそ、真にきらりを信じる事が出来ている。
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「お前、椎野と離れてて心配じゃないのか?」
少しからかってやろうと思い、村上はわざと心配をあおるように言った。
自分はまだ恋人の一人もいないので、ちょっと悔しい。
だが、鹿之助は焦るでもなく、ぼんやりうなずいている。
「そうだなあ、あいつは無鉄砲だからな。変なことに巻きこまれやしないかと、いつもドキドキしてるよ」

「いや、そういう意味じゃなくてだな。なんかこう、あるだろう……男女の」
遠まわしに諭すと、鹿之助もやっとその質問の意図するところがわかったようだ。
「それはないな」

「知ってるだろう? 俺とあいつはいろいろあって、それだけに強い信頼の絆で結ばれてるんだ」
「俺もあいつを信じているし、あいつだってきっと、俺のことを信じてくれてるはずだ。だから、ちょっと離れてるぐらいなんでもないんだ」


『キラ☆キラ~カーテンコール~』Stage2 Track1 ZIG ZAG Rockn'Roll Train
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 鹿之助はきらりルートで「信仰」を得ている。「超越者」であるきらりと出会い、「信じる」の欠けていた自分が、やっと信じる事の出来る対象を見つけられた。「光」を手に入れた。
 だからこそ、彼は彼女が歌い続ける限り、彼女を心の奥底で信じ抜ける。意志を面に出し、自身を前向きに受け止め、未来へと歩める。自分にとっての信じられる「光」が、傍にある限り、永遠に。
 

 しかし、彼女はどうか。彼女は、彼を信じられているだろうか。すぐに答えは見つかった。
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『鹿クン! 元気元気? 浮気してない? 浮気したらいやだよ! すごい心配で、毎日うまく眠れないっ!!!』
『あとで絶対電話してね! 早く日本に帰って会いたいよー! ……』

さらにメールは続く。
この前、鹿之助の態度がちょっと変だったから浮気してるんじゃないかとか、こないだ旅行に行ったと言ってたけど女の子とでしょとか……
やたらと長いメールは、そんなことばかりが書いてある。


『キラ☆キラ~カーテンコール~』Stage2 Track1 ZIG ZAG Rockn'Roll Train
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 椎野きらりは、前島鹿之助を信頼出来ていない。彼の存在、過去から成り立った人間関係に対して依存している。
 前作の批評で僕は1つの結論を述べた。「過去の記憶」と「人間関係」に囚われていたら「本当に欲しいモノ」は掴めない。
 普通でいられず、鹿クンと一緒にいられない、本当に欲しいモノが掴めない未来を、見事彼女は歩んでいた。正直、分かっていた事ではあるけど、やっぱり少し切ないね。
 そんなきらりが村上とした会話は、実に切実なもので満ちている。
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「いやしかし、椎野はすごいな。向かうところ敵なし、大活躍じゃないか」
脂汗を拭って、村上は無理矢理話題を変える。
「すごいってなにが?」
「海外でも大評判だったんだろう? 俺たちの中じゃ、一番の出世頭じゃないか」
村上は本気で最大の賛辞を送ったのだが、きらりはしきりに首を傾げている。
「そうかなあっ? 全然そんなことないと思うよっ!」

『キラ☆キラ~カーテンコール~』Stage2 Track4 We Are Always RockCrazy
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 きらりにとって、海外で活躍している現状ってのは、全然全くこれっぽっちも「凄い事」ではない。鹿クンを救う為この道を選んだギフテッドの少女にとって、歌っている現状はただ「義務」を遂行しているだけ。そこに、彼女の思う「本当に欲しいモノ」はない。
 では、きらりの本当に欲しいモノは? 彼女の夢は? 一体何か?
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「あのねー、わたしの夢はね!」
「鹿クンのお嫁さんになって、エプロンして、ゴハンを作って、鹿クンがお仕事から帰ってくるのを待ってね、帰ってきたらゴハンですか、お風呂ですかって聞くの!」

「椎野の夢っていうのは、それなのか?」
「うんっ! 子供の時から、ずっとそういうのが夢だったんだよ!」

「あたしたちはね、何があっても絶対幸せになってやるんだからっ!」
「どんな敵でもコンビプレーで絶対倒ーっす!」


『キラ☆キラ~カーテンコール~』Stage2 Track4 We Are Always RockCrazy
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 彼女はまだ諦めていない。「普通になる事」「鹿クンと共に普通でいられる事」を。
 大好きな鹿クンも被害に遭った「不条理」のシステムと戦う為、椎野きらりと言う少女は歌う道を選んだ。悲しくて寂しいことがいっぱいある世の中、彼をも導く「光」となる為、彼女は只々歌い続ける。只管歌い続けて「不条理」のシステムが瓦解したその時こそ、きらりの戦いは終わるだろう。
 しかし皮肉だ。彼女は「あたしたち」「コンビプレー」なんて吐いているけど、鹿之助と同じ土台には立ててない。だって鹿クンは「本当に欲しいモノ」を手に入れる事の出来る未来を歩めているから。きらりとは別の道に入っているから。彼と彼女の「世界」は、断絶しているから。
 鹿之助は「過去の記憶」「人間関係」に囚われない自分だけの未来を歩んでいる。しかしきらりは上記を見る限り、「過去の記憶」「人間関係」に囚われたまま、今を歩んでいる。
 要するに、2人で戦っていると思っているのはきらりだけ。孤独な戦いを強いられた彼女に、果たして普通の暮らしは待っているだろうか。
 滅亡するその日まで、きらりはずっと戦い続ける。せめて、平和な世界になりますように。
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「みんなが毎日、こんなに平和で楽しかったら、ロックなんか世の中に必要ないんだろうね。世界中のロックンローラーは、みんなの明るい笑い声と共に滅亡するんだ」

『キラ☆キラ』Chapter1 ANARCHY IN THE SCHOOL
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 ここまで書いてわかった気がする。瀬戸口廉也と言う人が、この後日談を書かなかった理由。杜撰な描写でしか描けない「しあわせ」があるからだ。緻密に書かない事でのみ紡がれる「幸福」があるからだ。
 鹿之助は生まれ変わり、きらりは未だ変われていない。そこを追及しないでハッピーエンドで留める。それは、彼以外にしか書けないし、宗太と村上なんて馬鹿を主人公に据えないと書けない。
 だから、僕にとって『キラ☆キラ~カーテンコール~』は仮初の幸福を描いた話。馬鹿とロックンロールと普通人の幸せで塗り固めた、細部は決して描かれない「しあわせ」の話だ。