演劇がテーマなのでオート再生すると面白いかもです。天使ちゃん好き。
先に前置きしておくと、個人的にこの一作は魂の一作であると言える。
また当感想の筆者はウグイスカグラというブランド、ルクルというライターに対する一種の妄信的なファンのため、どうしても"客観的にふるまおうと努力したが、実態は主観的評価の強く見苦しい感想"になってしまうことを留意していただければ幸いである。
さて、ウグイスカグラの遺作(私は認めないからな)となる通算4番目のナンバリングである本作、冥契のルペルカリアは、言うなれば嘘くささでどうしようもない現実を映し出す”鏡”のような作品である、と言える。
まず前提として、ウグイスカグラというブランド、しいてはライターであるルクル氏が織りなす歴代の物語の特徴は”群像劇"と”悲劇"……二つの劇であると言える(ただし空に刻んだパラレログラムは、作品テーマ、テイストの明確な違いから"悲劇"には当てはまらない)
"群像劇"……キャラクターの視点が頻回に入れ替わるスタイルで物語が進行していく。このため心情描写や回想シーンが非常に潤沢で、キャラの感情の動きがダイレクトにつかみやすい。
"悲劇"……ここで言う悲劇はほぼすべてが"連鎖的”なものである。水面に落ちた水滴が波紋を作るように、一つの不幸が芋づる式に広がっていく。
ウグイスカグラの歴代ナンバリングである、紙の上の魔法使い(以下かみまほ)、水葬銀貨のイストリア(以下イストリア)はこの二つの劇をベースに作られ、それをもとに陰鬱である種衝撃的な物語が展開されていく。
群像劇スタイルは全作共通。
都合上詳しい言及は避けるが、かみまほにある悲劇は「台無しにする悲劇」イストリアにある悲劇は「選ばされる悲劇」、このルペルカリアにある悲劇とは一体何か。
そう「向き合う悲劇」である。
ルペルカリアという作品は、"演劇"というテーマが作品に設定されている。
このようにして第三の劇がエッセンスとして追加されることによって、前提で述べたベースとなる二つの劇を演劇的な嘘くささで覆ってしまうのである。
(ここでいう嘘くささというのは、作中描写、声優の演技方針、キャラクターの心情や境遇……などから読み取れる"演じているを演じている"状態を指す。例……赤い部屋等の各種演劇シーン及びそれに伴う声優の演じ方、天使奈々菜と母親にまつわる関係性、琥珀や朧が与えられた役割、そもそもの虚構世界という設定等)
この嘘くささを通して、キャラクターたちが置かれている悲劇的な現実を対比で浮き彫りにし、鏡の前に立ち自己と向き合うような構図を作りだしている。
それがこの作品の肝であり、筆者が最高に好きな部分である。
長々気持ちを語ってしまったが、以下具体的に好きな部分など。
・日常描写
分量自体は少ないながらも粒ぞろい。(一応)主人公の環と双葉の悪友的やりとり、理世の整理整頓が苦手というさびれたOLのような(?)キャラ付け、座長代理(来々)の可愛らしい口の悪さなど、大変に魅力的。
個人的には天使ちゃんのまえでたじたじな双葉ちゃんが大好き。逆にこっちが限界オタク。
・環と未来のたどった運命
実妹に過酷な試練を与えるルクル先生の手腕はここでも健在。環という(割とどうしようもない)兄を愛してしまった妹は、未来を求めることを放棄したのだ。
ラスト手前のシーンは必見。ウグイスカグラ作品特有の打開キャラである双葉や朧の助力を得て、二人が"兄妹"として言葉を交わしあうシーンは胸をえぐり取られる破壊力。俺はまだ生きているぞおおおおおおッ
・めぐりにまつわるもう一つの悲劇
環と未来の悲劇の対になって進んでいく、もう一つの本筋的悲劇がめぐりにまつわる悲劇。見方によっては一番救いようがないので、これまた心臓がえぐられるような気分になります。
めぐりという少女は本当にみんなから愛されているのですが、彼女が本当の意味でこの愛に気が付いた時には、嗚呼。悲しいかな。愛をくれたみんなは、炎の中。
・理世は選択肢が存在しない
とても好きなポイントです。彼女は唯一存命メインヒロインズの中で環及び未来との事前接点が強いキャラクターであり、そういった事情も見るに、最も虚構が剥がれたらつらいであろう彼女に一回全て魅せるというのはあまりにも惨く、だからこそあまりにも良いです。
・天使奈々菜という少女
ある種身勝手な都合付けをされた空っぽの偶像、天使奈々菜が現実でたどった道、偽なる妹という逃げ場所、不在証明。
シナリオの進行に応じて、彼女は虚構を通し自己と向き合い、"まだ幸せになっていない"という気持ちを自覚し、"幸せをつかみ取る"ための第一歩を踏み出すのだ。
燃え盛るスルト座の劇場で、彼女は心のありかを叫ぶ。生きたいと願う。
筆者はその姿に、その言に、その魂に……あまりにも心を打たれた(具体的に言うと初見プレイ時、瞬間的に不整脈のようになった。あと手先の振戦もあった。やばい)
・演劇というテーマ
単純に声優さんの怪演が見られる面白い作品でもあります。オート再生するのが板です。
小波すずや奏雨さんの狂気が手軽に見れます。最高。
・音楽演出
かみまほの頃からそうなのだが、めと氏の音楽が作風と強くかみ合っており、結果的に強い相乗効果を生み出し、シナリオや世界観を1ランク上に引き上げている。
個人的おすすめは”月が欲しかった”、”memories"など.。
・インターフェース
歴代ウグイスカグラ作品で最も誤字が少なくインターフェースが優れた作品である。正直とても遊びやすいため助かる。
ただし同時代の他社ゲーと比較すると、まだ弱いインターフェースであるのだが……。
長々語りましたが、本当に記憶にも心にも残るルペルカリア、やりましょう。
とにかくルクル先生はまたシナリオゲー作ってください。本当に。頼む。めちゃ買うので。生きがいなので。またみるまで死ねないから。