純愛ではなく孤独の埋め合い
………と私は感じましたが、
純愛とは何かと問われても答えは出ませんし、
例え何百人何千人と集まって話し合っても正しい答えなんて出ないでしょう。
十人十色。
感情も思考も人それぞれであり、正しいも間違いも無いのです。
だからこそ、私はこの自分の感じ方を正しいとは毛頭も思いません。
しかし、『純愛』と言われると首を捻ってしまうのもまた然り。
最終的に二人の間にはまさしく愛の感情が芽生えていたのかもしれません。
しかし、きっかけ・過程を見つめてみると二人は利害関係で結ばれていたように思ってしまうのです。
顕著だったのは、
沙耶と主人公がお互いを『一人ぼっち』と称すシーンです。
実際、主人公は平凡ではあるものの、育ちも良く友人にも囲まれ不満も無いなかなか楽しい生活を送っていたのでしょう。
しかし、突然の事故から一変して彼は醜く汚らしい孤独な世界へと投げ込まれてしまいました。
両親は死、親しかった友人は化け物へと変り果て、広がる世界は汚臭と肉塊に塗れている。
作中の彼の絶望と嘆きは到底計り知れないものです。
私が彼の立場だったら勿論発狂していたでしょうね。
その点、彼は一時は咽び泣いていたものの仕方が無いと妥協している分強者かもしれません。
もしくは屈服した弱者かもしれません。
それでも、彼がこの醜い世界から逃げ出さなかったのは沙耶と言う自分と同じ存在のヒトが居たからなんでしょうね。
そして、沙耶もまた自分の存在を認めてくれるヒトが欲しかった。
だから、怯えられても恐れられても真夜中の病院を徘徊し続けたのでしょう。
自分を見つめてくれる存在が居ると信じて。
そして、出会った二人は当然の如く惹かれあいます。
お互いの孤独を埋め合うために………
…と長々とらしくもない事を書きましたが、結論を言えば、
『誰でも良かった』
と言う考えが二人にはあったんじゃないかなぁ…と。
本ルートの時でさえ、
友人の女の子がヒトの形として出て来た時は浮気心がチラホラと見え隠れしてましたし、
沙耶に「ペットとして可愛がりましょうね」と言われたら言われたで
「うん、そうだね。こいつはペットだから、沙耶と違って愛す訳じゃないんだよね。
遠慮しなくても良いんだよ…ね?ね?」
的な事を言ってた時は『こいつ自己正当化してやがるぜぇー(゚ロ゚;)』と思ったのも事実。
沙耶も沙耶で主人公と同じ立場に立つヒトなら主人公と同じように自分を愛してくれると思って隣人のおっさんの頭を弄ったしなぁ………。
どうにも一途と言うには若干軸がぶれてる気がしてならないのです………
『泣かぬなら 殺してしまえ ほととぎす』
もとい―――
『壊れてるなら さらに壊してしまえ』的な真ENDも「うーん…」って感じです。
どうにも二人の自己満臭が半端無くて素直に「素晴らしい純愛だ!」と手放しで言えなかった………こう思ってしまった自分は負けかもしれない。
でも、『恋は盲目』を素で行ってたかもしれません…ね?
さて、ごたごたと御託を並べるのはここまでにして総括します。
テキストについては非常に読みやすく、スラスラと読み進められたのが大変良かったです。
この文章力が短いと感じる要因に一役買ってると思います、もちろん良い意味で。
シナリオ構成については、綺麗に纏まっておりミドルプライス作品としてはかなり上出来。
物足りないと感じる方も居るかもしれませんが、
変に冗長に長引かせても魅力が半減してしまうと思うので、これぐらいが丁度良いかと。
あと、グロ要素については別段そこまでグロくはないかと思いますが………
『ジョ○ズ』とか『ジュ○シックパ○ク』の序盤で「もうダメッ! 勘弁!!」って方は腹に力を込めた方が良いかもしれませんね。
出落ちグロですし………
そして、この作品は余韻がとても心地いいです。
物語が終わったらそれまで…ではなく、色々と考えさせてくれる余地がある分『一粒で二度美味しい』もしくは非常に味のいいスルメ作品です。
システムは………ぶっちゃけ手抜きじゃね?ってレベルかなぁ………。
ちなみに『沙耶の唄』は私の初エロゲ(フリゲーは除いて)なんで、
初見プレイは特に不満は無かったのですが、今やってみると「何コレ、使いづらい」と感じました。
ある意味初心者向け…かも。
絵についてはニトロプラス特有のエロゲらしくない絵。
しかし、作品の雰囲気にはかなりマッチしてるのでナイス人選。
音楽も主張し過ぎずかつ存在感もあって良い。
何を言ってるかわからないかもしれないけどそんな感じ。
ED曲もいとうかなこさんの歌唱力も相まって胸を打ちます。
結論を言えば、初心者向けじゃなくても初心者にやって欲しい作品。
思い切って初エロゲーはちょっと趣向が変わったものをやってみると、エロゲライフがより広がりより楽しめると思うので。
偏見はあって捨てるもの。
食わず嫌い、えり好みはかなりの損です。
是非この作品をやって見聞を広げてください。
そんな私は雑食ユーザーなんで些か説得力は欠けるかもしれませんが………