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slav23さんの翠の海 -midori no umi-の長文感想

ユーザー
slav23
ゲーム
翠の海 -midori no umi-
ブランド
Cabbit
得点
80
参照数
518

一言コメント

新進ブランドによる一時の楽園、あるいは美しい牢獄からの脱出劇

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

後に購入することになる姉妹ブランドSkyFishの作品、
『九十九の奏』と同様、さえき先生の原画と設定に
惹かれて発売日当日に購入。SkyFishの前身、FC3時代
の『Natural Another One 2nd』の再来も期待して
いました。ではまずストーリーの序盤の流れを。


翠の海=深い森に囲まれた湖近くで倒れていたところ
湖畔の館に暮らすみちるという名の少女により助けられた
主人公、記憶を失っていた彼は同じようにこの地を訪れる
前の記録を失っていた少年少女たちと共同生活を始める。
しかし、みちるの言う「楽園」での生活はふとした拍子に
崩れ始める。脱出不可能なはずの森の外から供給されている
はずの食料物資、記憶を取り戻しかけた直後に何者か殺害され
た上、存在自体を「いなかった」ことにされた少年...
主人公は同居する少女たちとの交流の中で「楽園」の謎と
脱出の方法を模索するのであった。

シナリオに関しては率直に緊張感をもって楽しめました。
SkyFishブランドの中では読ませる作品です。また、
作品の構成とシステムが非常にマッチしておりました。

エロゲ作品のシナリオ展開は大きく4種類あります。

①個別エンドタイプ
このタイプはヒロイン全員が登場する共通ルートの後で
ある時点までの選択肢や分岐点での選択により個別ルートに向かうタイプです。
各個別ルートのシナリオはほぼ同等の長さを持ち、攻略ヒロインと関連サブキャラ
を中心に話が進みます。イメージとしては、ほうきの柄からはけ先に向かう
ようなものですね。

②グランドエンドタイプ
これは、①の変種とも言えます。個別エンド全て、あるいは主要ヒロイン
をクリアすることで全ての謎が解けたり大円団に向かうルートが開かれます。
真ルートあるいはTrue End があるゲームによく仕込まれます。終わり方と
しては真ヒロインと結ばれたり、ハーレムであったりするパターンが多いと
思われます。

③ループタイプ
物語の一部か全体を周回していくことで新たなルートや展開を発見していく
タイプ。設定としてはループという現象の前提としてタイムスリップや世界の
再構成などのメタ次元での大掛かりなギミックが必要となるため、伝奇やSF
といったシナリオと親和性が高いです。大掛かりな設定を納得させ、かつ
周回を飽きさせないというハイレベルなストーリー展開が要求される代わりに
はまった時に高い評価を得ることができます。

④一本道タイプ
フルプライスの作品ではほとんど見かけないタイプです。シナリオは
1つの(ハッピー)エンドに向けて展開し、途中の選択肢から分岐する
ルートはほぼ分岐直後のバッドエンドへの道、といった形になります。

⑤枝分かれタイプ
共通ルートの最後ではなく、途中で個々のヒロインのルートへの分岐
が始まるタイプです。個別ルートの長さが同じだとしても、早めに
分岐して個別に入るヒロインほど過ごす時間が短くなるため印象に
残らなくなります。逆に、分岐を回避し続けて最後に残るヒロインに
真ヒロインの役が配置されていることが多いです。このタイプには
2つのパターンがあります。途中で分かれる枝(ルート)が瑣末か、
重要かが分かれ目です。前者の場合、途中で分岐する枝は伏線など
の役割を本体(共通ルート)の展開にまかせてシナリオが軽くなり
ます。後者ならば、キャラの魅力以外にこの枝(シナリオ)での
内容が他の枝か本体のその後にとって必要であるように細工する
必要があります。

前置きが長くなりましたが、『翠の海』は⑤の後者に近いシナリオ
展開を見せます。すなわち、謎が深まるヒロインのルート2つをクリア
しないと枝本体を辿れず、数章の枠内でENDを迎えるようになっています。
また、最後にたどり着く枝は大きく2つに分かれています。それらが
2人のヒロインそれぞれのTrue ENDとなります。物語が佳境に進むに
つれて主人公が記憶を取り戻してたくましくなっていく姿は見もの
でした。

最初のうちは複雑に感じるかもしれませんが、タロットカードによる
ヒント機能が用意されているので、これを活用すると便利です。

シナリオも緊張感がありますが、物語のヒロインたちも驚くような2面性
を秘めており魅力的です。みちるなどのさえき先生の凛々しいヒロインは
もちろん、ゆき恵先生のヒロインたちも愛らしいと感じさせてくれます。

それらを支える塗りや音楽、グラフィックもSkyFishゆずりでバッチリです。

シナリオ館物としては話が短いため、謎解きに多くを避けられなかった点と枝分かれ
のためヒロイン個々の掘り下げが弱くなった点などで-20点。

お気に入りヒロインには知紗を。お母さんな昼の顔と妖艶な女の夜の顔が
魅力的なお姉さんです。メーカーホームページでオリジナルストーリー
も公開されていますよ。

今年12月に発売予定の『キミに贈るソラの花』の購入を迷っている方は
本作でCabbitの作風に触れてみることをお勧めします。私個人は②の形式
による重厚な感動ストーリーを期待しています。