「大人になれない僕らの 強がりをひとつ聞いてくれ」
まずは感想から。端的に言って最高にツボにハマったと言うしかない。
「考察ゲー」と言うより、個人的には「解釈ゲー」と言うのがしっくりくるように感じた。
『モラトリアム』と『仲間』、そして『悪』の物語。
『悪』とは「人がそうしたいと思うのとは違うやり方で、人がそうなりたいと思うことを実現すること」
それはつまり、普通じゃないということ。多数決の正義には囚われないということ。
そして、心の中のガラクタを捨てないということ。
ピーターパン・シンドロームという言葉がある。大人の年齢になってもいつまでも子供の精神状態でいる人間を指す用語だ。
主人公の叶はこのピーターパン・シンドロームと言ってもいいだろう。
だけど叶は馬鹿じゃない。きっと現実は知っていた。いつまでも小学生じゃいられないことを。
それでも、「いられるさ」と言うことができるのは彼の強さだろう。
誰に何を言われても、心の中のガラクタを捨てないと決意しているということなのだから。
このゲームのもう一つのテーマとして『仲間』というものがあるが、面白いのはこの仲間が対立するということだ。
心の中のガラクタを通じて巡り合った仲間同士が、そのガラクタをぶつけ合う形で対立する。
しかしそれはおかしな事じゃない。
もし普通の人ばかりを集めた普通の部活なら、こんな対立は起きなかったかもしれない。
だけどギャング部は違う。そもそもみんなが捨てていったガラクタが捨てられないから集まったのだ。
人と違うから、普通じゃないから対立する。
それは必要なことだ。
本音を全て殺して、うわべだけ仲良くするのなんて全然邪悪じゃない。
ぶつけ合って納得し合って、あるいは納得できなくって、その先に『仲間』はある。
それが「コミュニティ追求型ADV」なのだ。
ここで少しだけ叶のループ能力について考察を。
このゲームにはこおりと禊の2つのアフターがあるが、叶のループ能力が片方ではなく、片方ではあると矛盾している。
結論から言うと私は「並行世界」で解釈している。
と言うのもこのゲームでは、ある意味ADVゲーム全体へのアンチテーゼのような手法だが、
一周目のみ「屋上で禊とキスをする」イベントが発生し、二週目以降では「屋上でこおりとキスをする」イベントが毎回発生する。
つまり、一周目の禊とキスをした叶はループできない叶であり、それ以降のこおりとキスをした叶はループできる叶であると考えられる。
これをアフターに繋げて考えると「禊とキスをした一周目の叶=こおりアフターのループできない叶」、
「二週目以降のこおりとキスをした叶=禊アフターのループできる叶」であると推測できる。
ループできる叶とループできない叶が並行世界に存在するということである。
キスとアフターの相手が逆なので少しややこしいが、二部の解放条件が「こおりとキスをして禊ENDを見る」なので辻褄は合っているかと。
モラトリアムというのは停滞期間ではなく、成長する期間だ。
だからこおりアフターで語っていた「誰も溺れない」モラトリアムは決して無駄じゃない。
禊アフターで繰り返していた高校生活は逃げじゃない。
その証拠に叶はどちらのアフターでも、ガラクタを捨てないまま成長することができた。
特に禊との間には子供が出来て親になっていたのが印象的だ。
自分の想いを誰かが受け継いでくれるなら、それは永遠なのだから。
『悪』『救世主』…そんなガラクタも捨てないで、自分の後も誰かが持って生きてくれるなら。
「大人になれない僕らの 強がりをひとつ聞いてくれ」
世代が合う人は分かると思うが、これは金色のガッシュというアニメのOPである「カサブタ」の歌詞だ。
「逃げも隠れもしないから 笑いたい奴だけ笑え」と続く。
ずっと子供のままでいられるネバーランドなんてこの世にはない。
ガラクタを抱えて生きるのは簡単じゃない。
人と違う道を行くのは孤独なことだから。
だけど仲間に巡り合えたから、不可能ではなくなった。
目指すのは「誰も溺れないように」、そんな悪党どもの共和国(ギャングスタ・リパブリカ)。
ここから少しだけ考察を
・キーホルダーの象徴するもの
※作中で明言されてるもの以外は予想です
時森叶
リードシクティス・プロブレマティカス:『問題』
凛堂禊
ライオン:『権威』『支配者』『王』
水柿こおり
オオカミ:『仲間想い』『連帯』
時守希
イルカ:『家族』『無邪気』
古雅ゆとり
ウサギ:『軽はずみ』『出会い』
シャールカ・グロスマノヴァ
猫:『気まぐれ』『怠惰』
稚咲春日
ヒツジ:『純粋』『従順』
・心の中のガラクタ
※キーホルダーの象徴と全く同じではなさそうなので
時森叶:『悪』『モラトリアム』
凛堂禊:『救世主』
水柿こおり:『しがらみ』『叶』
時守希:『公平さ』『子供らしさ』
古雅ゆとり
ウサギ:『無垢の王者』『無知』
シャールカ・グロスマノヴァ:『反権威』
稚咲春日:『非日常への憧れ』
やはりこのゲームは一周じゃ物足りない。
そうだ、もう一周ループしよう。
人がそうしたいと思うのとは違うやり方でもいい、自分なりの答えが見つかるまで。