keyでも一番好きな作品になった。しかしそれゆえに悔しさも残る。もう一度同じメンバーで作る物語を見てみたい。
本当に好きな作品になった。舞台設定、雰囲気、テーマ、キャラクター、どれをとっても好みで、よく統一されている。本当に、本当に、好きな作品。
ALKAルートまでは、これからずっと残る名作になると疑う余地が無かった。しかしPocketルートで作品がプレイヤーの感性とズレてしまったように思う。
プレイが終わったあと悔しくて悔しくてたまらなかった。好きな作品が無事に着地出来ないと、こんなに悔しい気持ちになることを初めて知った。
細かく感想を書きたいので、一つずつルートについて述べていく。
・個別ルート
個別ルートに関してはどれもよかった。どのルートでもキャラクターの個性や性格を活かした内容であったし、そのルート自体がトゥルールートへの鍵にもなっている。また何より、夏休みを主題に置いた今作の雰囲気を、しっかりと根付かせてくれるものになっていた点が評価できる。感想は攻略順に書く。
蒼のルートはkeyでよく扱われる双子を描いたもの。蒼の明るい性格が存分に出てきて、読みやすい良いバランスでまとまっていた話だった。
このルートの魅力は蒼可愛らしさに尽きると思う。買う前は少し気になった違う絵柄の立ち絵も、終わってみれば馴染み深いものになった。
島の伝承とも深く関わっているルートで、蒼は七影蝶について知っている数少ない人間。
紬ルートはこれまたkeyらしい不思議で少し浮世離れした女の子の話。「わたしはわたしとやりたいことを探している」というルートを通しての問いかけに予想外(自分にとっては)でありつつも、真っ直ぐ芯を捉えた答えが返ってきて、読み進めがいのある内容だった。途中紬の夏休みの消化を急ぎ足でまとめてしまい、少しリズムが崩れた場面もあったが、いつのまにかこのキャラクターと物語を気に入ってしまっていたのだろう。ラストにはしっかり涙がでてきてしまい、やられたなあ、といった感じ。 このルートでは島と関係のある常世とはズレた灯台で神隠しにあう場面がある。外に広がるのは満開の花畑と迷い橘、そこを穏やかに飛び交う七影蝶。蒼のルートとはまた違った形で島の伝承に触れられている。
鴎ルート、このルートは実に爽やかな内容だった。恋愛要素は他ルートよりも少ない分、少年少女の懐かしい夏休みらしさが色濃く描かれている。全体の構成力も個別ルートの中では高い。
島を巡っての鍵探し→ヒロインとの絆の深まり→達成した目的と明かされた真実→主人公の成長と行動。少年物語らしい要素がスムーズに入れ込んである。特に主人公の成長が他ルートよりもより自然に出ているあたり、完成度の高さが見受けられる。
このルートは島の伝承については本筋ではあまり触れないが、鴎の七影蝶の姿とエピローグでは7つの海というキーワードが出てくる。
しろはルート、このルート単体で感想を述べるというならシンプルなBoy Meets Girl物といったところだろうか(どの個別ルートもヒロインが出てくるが)。気難しい女の子のしろはが徐々に心を開いてく様子は見てて微笑ましい。他3つに比べて島の仲間たちが多く顔を出してくれるのでコミカルな内容も多く楽しめる。ストーリーそのものは他ルートと比べ、やや淡白に収まっている印象。しかし良一との掛け合いは良かった。羽衣里に影響され、島の人間もまた、自身の抱えた問題と向き合う様子は、夏休みが遊びだけではなく、成長出来るものだと教えてくれる。
そしてこのルートは今まで小出しにされてきた島の伝承にメスが入り、鳴瀬家が抱える問題と向き合うことになる。ゲームの本筋への序章となり、後のALKAルートへと続く。
・ALKAルート
このルートからは今までの明るい雰囲気から、家族愛を主軸におく引き締まったものに変わっていく。友達と過ごす夏休みから家族と過ごす夏休みへ。幾度と夏を繰り返すうみが逃げずに、父親の羽衣里と向き合うことでたどり着く。未来からうみの目的は出産と同時に死んでしまったおかーさんに会うため。その健気さと幸せを噛みしめる様子は心を大きく揺さぶる。そして夏の終わりに近づくにつれ忘れられてくうみと必死に思い出すしろは達、これが泣かずにいられるか……。このルートのエンディング「羽のゆりかご」の破壊力も加わり、終盤は号泣していた。
しかしこのルートはこれで完結したものではない。問題をpocketルートへと託して終わりを迎える。なので感動的ではあったもののこれだけでは評価出来ない。様々な期待を抱えてpocketルートへと向かったのだが……。
・pocketルート
最終ルート。うみが長い旅を越え、姿を変えてまでして、過去のしろはとの邂逅を果たすルート。終盤のしろはとうみの掛け合いには涙を流さずにはいられないが、それはpocketルートに感動したわけではなく、ALKAルートのエンディングから引きづられて涙してしまった部分が多い。
なぜこうなったかを自分なりに考えた。結論として出たのは作品のテーマのすり替わり、主人公の不在、登場人物たちの連帯感と成長だったのではなかったかと思う。
テーマのすり替わりについては、先にこのサイトに批評を投稿した方が、とても的を得た考察を書いていたので割愛する。自分もほとんど同じの感想を持った。
主人公の不在について
pocketルートでは新キャラクターの七海(うみと様々な記憶を持った七影蝶の集合体)が主人公になるのだが、正直あまりいいキャラとは思えなかった。作中の合間合間に独白が出ていた人物で、ALKAルートの最後でも存在が仄めかされるのだが、どうしても唐突な印象を受ける。考察の余地を残したともとれるが、彼(彼女?)が記憶を思い出そうとする流れが、ALKAルートをプレイした人たちにとって必要であったとは思えない。クライマックス直前に差し掛かった身としては、新キャラクターを根付かせるよりは慣れ親しんだキャラクター達をみたかった。今までのキャラ達と馴染みの深いものであったならまた全然かわってくるのだが。
さらに主人公について踏み込んで話すと、この作品の主人公は羽衣里だった。ADVゲームでは主人公とプレイヤーの距離感は他の媒体の作品よりも近しいものになると考える。一人称の作品ではなおさら。さらに羽衣里はうみとしろはとは家族であり、なおかつ夏休みを通じて島の伝承とも関わってきた人物。その羽衣里がシナリオに置いて行かれてしまったのも大きな要因だったのではないだろうか。主人公を置いてけぼりにしてまで描きたいものが、pocketルートにあったのかと思うと少し疑問が残る。母娘の愛については素晴らしく描けていたと思うが、それだけに集中するあまり、話を狭めてしまったのではないか。しろはとうみを大切に思う気持ちが羽衣里(プレイヤー)にもあるのだから2人だけにして欲しくはなかった。
これは先程あげた、登場人物の連帯感、にもつながってくる。繰り返す夏休みで丁寧に描いてきた登場人物たちを、触れずにおいておくのは、宝の持ち腐れだったように感じる。特に個別ルートのヒロイン達については強く思う。蒼は七影蝶を導く役目をもった家系、紬は最後にツムギのいる常世ではない迷い橘にたどり着き、鴎にいたってはうみと同じ7つの海を渡って、とエピローグの手紙に書いてあったにも関わらず、触れることもないまま終わってしまった。
うみがしろはに渡した夏休みの記憶には、プレイヤーが経験してきた夏休みには羽衣里達が頑張った足跡がたくさん残ってる。こんなに散りばめた繋がりがあったのに、あのシナリオにだけまとめるのはもったいなかったのではないだろうか。こういった作品全体で培った絆が最終ルートには欠けてしまっていた。
悲しい結末を嘆くだけでもなく、彼ら家族が共に成長して、それを受け入れ分かち合う、そんなエンディングがみたかったのだ。
そう、一番足らないと感じたのは成長だった。このルートはうみが犠牲になることでしろはの死を回避するのだが、しろはは取り返しのつかない時点になって、周りの人物はそれに気づけないままエンディングを迎えてしまう。しろはは最終的に受け入れるしかなく、本人が乗り越えたわけではない。繰り返した夏休みでは羽衣里達は成長を遂げた。羽衣里が行動し、周りの人間が支え、支えられた人間は前を向き成長し、その影響を受けてまた周りが成長する。そうやって夏休みを乗り切る様がpocketルートには必要だったと思う。
本音を言ってしまえば、うみ一人に背負わせてしまったような結末を否定したい、という願望が強くある。自身を削ぎ落としながらも、歩き続けた健気な彼女を誰かが支えてあげて欲しかった(瞳は側で寄り添っていた様だが、馴染み深いキャラクターたちが)。そういう意味ではうみにも羽衣里と同じように、夏休みで島の住人達との触れ合うシーンがあれば展開も変わったかもしれない。これも個人的な願望になってしまうが。
グランドフィナーレは「ポケットをふくらませて」。素晴らしい曲だったが、うみが消えてしまって、悲しみを噛みしめているしろはのシーンの後に流れるのは少し違う気がした。この曲はsummerpocketsの主題である夏休みを包括して歌っている曲だから。
話が変わるが、pocketのエピローグに関しては素晴らしくまとまっていたと思う。今まで過ごした島をプレイヤーが振り返りながら最後にタイトルに還る、この構造は舌を巻く。
細かな気になった点について
作中で明言しない出来事が少し多かった気がする。時の編み人の存在、うみへ書いた絵本の結末、7つの海の7の意味、しろはの母親である瞳の描写など、主に島の伝承関連について。考察するのは嫌いではないが、今回のぼかしについては少しやりすぎだったのではないだろうか。trueルートに入る際、それがモヤになってしまってしまっては逆効果になるのでは……。
ALKAの意味はまだわからない、どういう意味なんだろう。
作品の締めくくりの部分に納得がいかず、言いたいことを書き連ねてしまったが、総評としては自分が待ち望んだkey作品であったことは間違いない。ずっと待ち続けただけの価値はあった。制作メンバーも今までとは変わってきているが、そんな不安を吹き飛ばすだけの魅力がこの作品には詰まっていた。今後もkeyのファンの一人として、作品をプレイ出来ることを願う。