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siki10さんの創作彼女の恋愛公式の長文感想

ユーザー
siki10
ゲーム
創作彼女の恋愛公式
ブランド
Aino+Links
得点
75
参照数
227

一言コメント

絶望が薄味すぎて、イマイチ入りきれない

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

全体を通してレベルは高めに感じる作品ではあったが、突出したところがないためになんとも言えないところに落ち着いてしまった感じがある。
イラストは抜群だし、会話もつまらなくない、歌良し、BGM良しと悪くないのに、シナリオが簡素にまとまりすぎていて面白いと言い切れない気持ちになった。

先に良いところを一つ言っておくと、こういった「創作」を取り扱う作品にありがちな「なんかすごい作品を作ったらしいけど、どんな内容なんだかよくわからん」ということが無いところだと思う。
ASという作品がどんな作品なのか、わりかし細かく描写されたので、何を創ろうとしているのかがわかりやすくて良かった。
まあ、せっかくASのヒロインを創作彼女のヒロインたちと重ねていそうな雰囲気があったのだから、それを生かすようなシナリオ作りをもっとすればいいのではないかと思ったが、それはそれということで。

以下、もったいなく感じた点。

まず共通ルートは各々の掛け合い、そして主人公のスランプとの向き合いがメインとなるため、そこまで盛大な色を見せなくてもよかった。無難に面白く、可愛いイラストが楽しめるというだけでも十分だろうと思う。
だが、思ったよりも簡単にスランプが解決してしまったことと、そのあとに続く個別ルートが薄味すぎてあっけなく感じてしまった。

主人公の心情的には盛大な過程を経てのスランプ脱却だったのだとは思うが、演出として凄みを感じることが出来なかったのである。気持ちや感情をためにためて、爆発させるような脱却が見られると思っていたばかりに、拍子抜けしてしまった。
また、個別ルートで起こるそれぞれのヒロインの問題も似たようなことがある。

以下、マジのネタバレがあるのでもしまだ未プレイ勢が見てたら要注意。



一番わかりやすいのは桐葉の声が戻るシーンだと思う。
作中でも相当な大事件が起こり、解決策も見当たらない、そんな中での渾身の一手、それが「演じたくなるほどの凄いシナリオを読ませること」であったはずなのに、シナリオ(ゲームをプレイしている我々には伝わらない)を読んで、いきなり普通に声が出るようになってしまったので、スランプ脱却の時以上に拍子抜けしてしまった。
当人たちにはさぞすごいことなのだろうから、もっと演出としてそれを強めるとか、見てわかりやすいようにしてほしかった。
これはほかのヒロインたちの問題(エレナのスランプ、ゆめみのスランプ)にも同じことがいえると思っている。

そして何より、逢桜の個別が一番平坦だったように思える。
逢桜のテンションが一定なせいもあってか、病気に対する絶望などもあまり感じられない。
盛り上がるはずの病院脱走シーンや、桐葉等友人たちに病気のことを明かすシーンなどがあっさりと描写されてしまうせいで、本当にテキストを眺めているだけの気分になる。
もっと逢桜の「生きたい」「シナリオを描きたい」という欲求がぶつけられるような展開やシーンがあれば物語に入り込めたのになあ、と思わずにはいられなかった。

エンディング自体にはそんなに思うことはない。
bad end afterを読んだ限り、「奇跡なんかいらない」という逢桜の思う通り、駆け抜けるように生きたそのシナリオは悪くなかったんじゃないかと思う。
本筋でも生きてほしかった気持ちはあるが、まあここで奇跡を願うプレイヤーの気持ちまで含めての作品なのかな、と。

個人的にはそれ以上に気になったのが、ほかのルートに行った場合の逢桜のその後である。
病気はもともと発症していた以上、ほかのルートに入ったからと言ってどうにかなるものでもなく、逢桜ルートを考えるとどうあっても手術はしなかったのだろうから、きっとそのまま亡くなったのだろうと考えると、どうにも後味が悪い。
他のヒロインとの逢瀬を楽しんでいる間に、人知れず亡くなっていると考えると、やるせない気持ちになってしまうのが、今作で一番モヤっとしたポイントである。

まあ、私の気にしすぎかもしれませんけどもね。