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sighさんのRe:LieF ~親愛なるあなたへ~の長文感想

ユーザー
sigh
ゲーム
Re:LieF ~親愛なるあなたへ~
ブランド
RASK
得点
78
参照数
1099

一言コメント

ナツユメナギサに見たあの夏に、背中を押されて歩いてきた私達がまた出会う世界は

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

「一歩、一歩と
自分の過去を引き継いで、数多の変化を受け入れて、ひとつひとつ慎重に、確かな”次”を紡ぎ出していく
ほら、であるのなら、作曲も、演奏も、人工知能の学習も、世界を歩いていくのとなんら、変わりなんてないでしょう?」


本作は演出力の作品。
正直シナリオはある程度インプットのある人間なら公式を見ただけで作品をプレイせずとも結末まで見えてしまうと思います。
ですが背景グラフィックや音楽など全てを使った演出力で魅せに来てくれました。エロゲだからこそ、集大成として一つの作品として素晴らしい出来。シナリオはパーツの一つです。
シナリオライターの腕が抜けて高いようには見えない中この水準の作品が出来上がってるので、ディレクションその他このメーカーのスタッフ全体の地力の高さが伺えるため次作以降も期待出来そうです。



歩き方が、足を踏み出す先が分からず失敗した彼、彼女らの物語。


箒木日向子
経験の何もかもが足りていなかった彼女。
躓いた現代の社会人の要素を抽出、拡張された彼女には共感を覚える方がたくさん居るでしょう。
失敗してもいいということ、人と関わること、彼女にとってのトライメント計画は世界を歩くために必要だった経験が出来る環境。
きっとここに私たちが歩いていくために必要なものがたくさん描かれている。

料理をしたりミリャの面倒を見たり可愛らしく恋したり、普通の女の子。かわいい。
正直スーツのビジュアル見たときから先生になると思ってました。


大舘 流花
変化を受け入れられなかった彼女。
彼女の直向さは美点であり欠点。そんな彼女にはおそらく一度の大きな失敗が必要だったのでしょう。
ですが現代の社会は一度レールを外れた人間に厳しい。だから彼女にとってのトライメント計画は、失敗したその後に、再起するための場所。

エンディング、結末自体は悪くないんだけど、厚みが足りない。過程が足りない。TRUE以外の他2人に比べてシナリオがかなりうーん。
彼女には大きく転んだ後、再び社会へ戻る入口が必要だったから参加し、周りを落ち着いて見渡すことが出来た時点で終わってるしルート要らなかったかも。
もものパートナーとしては最高です。姉とももと3人のCG良かった。


海蔵 もも
強い彼女に果たしてこの世界が必要だったのか。
前を向き歩いていく彼女にはきっとトライメント計画が無かったとしても、その背中を追ってくれる人間が、並び立つ人間がいつか現われていたと思います。
であれば彼女は挫折した彼彼女達に影響するため必要な人間だったのではないでしょうか。理人もおそらくそちら側。自分で折り合いをつけて進む事が出来る人間。

トトと2人ももを待つことになるラストはすごい好きですが、願わくば最後の最後、もものハローの一声を聞いて終わりたかった。


ユウ
感情を持った人工知能は当然トラウマも抱える。
司の事故によい外界を否定し、箱庭での停滞を望むユウ。世界を、トライメント計画を卒業していく人たちを見送ってゆく中で生まれたであろうユウの中の停滞を否定する部分がアイ。
アイと結ばれたのは決意の証かもしれないけど、幼い司に寄り添い歩き、世界を撃ち抜くための武器を共に構えたユウをなにより大切に思う方が自然じゃないだろうか。うーん…

3Pが正史!!!

一番幸せな結末で。

単純に楽しんだのは日向子視点の共通ルート、社会人の再起のお話。
TRUEでは過去のお話、ユウの想い、人工知能の奏でる旋律、それらが物語を追うことから感覚することに脳がスイッチしました。ユウという存在に想像の翼を広げていきましょう。想いを感覚しましょう。美しいグラフィックが、彼女のデイジー・デイジーがそれを助けてくれます。
人ではないけれど、人と対等な人工知能の想いに想いを馳せれば、きっとこの物語を美しく捉える事が出来るでしょう。

私は結局のところこの物語をSFとして、ピアノを奏でる人工知能を、人に寄り添う人工知能を、人を想うユウを心に刻み込んで終えることになりました。


明日を頑張るための背中を押してくれる物語はナツユメナギサが既に見せてくれた。あの夏は深く思い出に残っていて、
毎年暑くなる度bumpy-jumpy!のメロディと共に過ぎるあの感覚は、この作品にはないかもしれないけど、誰かが必要とする優しい世界を、Re:LieFという作品が持たせてくれた希望を、ユウと司が共に携えた世界と戦う旋律をきっとこれから様々な人口知能に出会う中に幻視するのでしょう。