ErogameScape -エロゲー批評空間-

shun-shunさんのキラ☆キラの長文感想

ユーザー
shun-shun
ゲーム
キラ☆キラ
ブランド
OVERDRIVE
得点
90
参照数
311

一言コメント

世の中って、むつかしいね

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

全体構成
 共通
  バイト先の居酒屋に来たスタジェネからライブに誘われる
  →ライブ見る
  →第二文芸部でバンド始める
  →文化祭成功
  →全国ツアー
  →個別へ

 個別
  共通=青春とするのなら、個別=その後=青春から思い出への昇華。
  いつも言っているが、青春描写を見るエロゲプレイヤーは既に青春のその後の人生を歩んでいるので、思い出としての青春という視点があるだけで当事者意識をもって読むことができる。青春は記憶に閉ざされているべきだが、時間軸は閉ざされるべきではない。
  千絵姉
   第二文芸部の全国ツアーで学んだロックの精神を心の支えとし、千絵姉の家庭環境の問題に立ち向かう形が非常に良かった。千絵姉と主人公の中で、パンクロックが青春→思い出→生きる糧と昇華されているのが伝わってくる。
  紗理奈
   周囲から望まれない恋愛により結ばれた両親が病死・自殺をした経験から、愛してほしいと言えなくなった紗理奈の心の問題と、主人公との交際を認めない紗理奈の祖父との和解という2つの問題を乗り越えた。それを可能にしたのは、夏の全国ツアーで生まれた結びつきの強さなのだろうと思う。
  きらりノーマル
   いつも穢れのない笑顔をしたきらりが抱える貧困という問題に敗北する。
   きらりの直接的な死因は家族を救出した後にスタンドマイクを取りに戻ったことによる火傷だが、なぜ戻ったのだろうか。理由は2つあると思う。1つ目は貧乏だから、道具を大切にしすぎるから。2つ目は思い出のマイクだから。
   じゃあ、きらりは貧乏でなくても焼死していた可能性もあるか?と言えば、ないと思う。なぜなら、そもそも家事になったのは精神を病んだ父親が火を放ったから。貧困とは、人間一個人ではどうしようもない問題。どうにかなっているならそもそも貧困ではない。どうにもならないから貧困なんだ。だから貧困は悪だ。
   文章表現の技法として、きらりの死はたった一行で書かれているが、これにより強い儚さを感じる。
   きらりの死後、主人公はバンドを続けるが心ここにあらず。幻覚を見るまで心労になっていたわけだが、そこで会った幻覚のきらりに導かれ、過去から解放される。正確には、「瞬間をスパーク」するようになる。そう、村上の言うロックの精神だ。殿谷も「人はみな生まれながらにパンク」「パンクとは怒り」と言っていたが、この√の主人公は、きらりの死を乗り越えつつも、社会に対するどうしようもない怒りを今この瞬間にスパークさせているのだと思う。きらりの残した歌を歌いながら。ボロアパートでカップ麺ばかり食べながら。狭いライブハウスで。それがロック。

  きらりTRUE
   きらりが貧困に勝つ√。なぜ勝てたのか。それは主人公のバタフライ効果。こじつけると、0からバンドを始めて全国ツアーをやったり色々な人に認められた経験が、諦めない力を主人公に与えたと考えてもいい。無理やりだけど。ここはもう少しロックと絡めて主人公の意思決定プロセスを描いてほしかった。「パンクロックの精神がヒロインを救った」の方がメッセージとしては分かりやすいように思うので。
   父を見殺しにするか葛藤するシーンは瀬戸口節を強く感じた。SWAN SONGでもあったねこういう葛藤。僕なら見殺しにするかな。自分の最上命題は愛するきらりを幸せにすることだから。たとえ、きらりが家族を大切にしていても、その家族がきらりを不幸にするなら、殺す。
   主人公がきらりに父のことを告白するシーン。プロへの道へ進むことを躊躇していたきらりは、なぜプロとして歌う事にしたのか。「世の中ってむつかしいね」とあるように、世の中はどうしようもないのである。そういう、人間の努力じゃどうにもできない、希望なんかバキバキに打ち砕くほどの絶望感をきらりは遂に感じ取ったのだろう。そして、「怒り」を知ったのだろう。その「怒り」はパンクだろう。だから、きらりは歌うのだろう。人は生まれながらにパンクだから。ちょっと遅れたけど、きらりもやっと気がついたんだ。これが僕の結論。


細かいけど、村上の言っていた
「幸福になるための苦しみを放棄したら人間は豚だ」
というセリフが一番好きかもしれない。ここでの苦しみ=努力や挑戦かな。次の言葉にもつながる。

兵庫で会った伝説のロックンローラーのセリフ
「変化がなければ心が動かない。心が動かなきゃ面白くない。それが人生を楽しむってことなんだ」
村上の言う豚とは、つまり変化しない人間だ。僕は変化し続ける人間でありたい。