全ては最終章のための布石であり、だからこそG線上のアリアを奏でるハルが見たかったのだ・・・
十年ぶりの再会――
いま、命をかけた純愛ドラマの幕が上がる――
上記のキャッチコピーに違わぬ物語だった。
【全体感】
序盤は決して面白いとは言えないが、ミステリーモノ特有の少し厨二っぽい謎解きやキャラどうしの掛け合いに慣れている(=そういうものだと受け入れて俯瞰して見れる)のであれば楽しめよう。
加えて、本作では細かい点を意図的に無視して読み進めることも必要である。
最後まで読了した時点で生じる矛盾点を参考までに数点挙げる。
・ハル√以外では魔王が計画を実行していないが、その理由がない
・幼少期のハルが母を失ったテロの現場で魔王(明らかに年上)を見ているにも関わらず、なぜ同年代の京介を魔王と疑うのか
とはいえ、本作に対する私の解釈としては、「全ては最終章(特にClose Your Eyesが流れるあのシーン)までの布石であり、その過程で生じた矛盾点は最終章が華となるためには仕方がない」という感じである。
こうした解釈から、私はるーすぼーいは極めて劇作家のきらいがあると踏んでいる。
【各論】
タイトルの意味も含め、魔王に対するトラウマと復讐の念から解放されたハルが京介の前でG線上のアリアを奏でるシーンがあれば批評空間で95点はつけていたであろう。
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分かってはいたが、最後のシーンでハルが子どもを連れてきた時は、もし岩井の子どもだったらどうしようと、わが身に宿るNTRの鼓動を感じてしまった。
もちろんそんなことはなく、本作のキャッチコピー通り、最後の最後まで純愛の姿勢を貫いていただき感謝。
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個人的にハルがかなり性癖に刺さるキャラで、頭がよく、黒髪ロングで、ちょっと変わっていて、それでいて一途でいて、、、、好きな要素しかない!
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椿姫√では、他人を疑う事を知らない椿姫が人の悪意に触れ、変わっていく姿が悲しくもあり人間らしかった
花音√では、表面化しづらいタイプの毒親の描写が妙にリアルであり、真に迫るものがあった
水羽√では、ユキに相談しながら主人公と距離を縮めようとする姿が萌えた。また、彼女の話し方や立ち振る舞いが時を経て変化していることが過去との対比で分かりやすく描写されるような時系列になっているのも面白かった。一方で、彼女の生立ちを考えると、本作の本筋とも言えるハル√で彼女は幸せになれたのだろうか・・・
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上記の個別√は、Close Your Eyesが流れるあの場面で、「主人公が全てを捨て、全てを敵に回しても愛するハルを守りぬく」と演出するための布石であると解釈している。
最大瞬間風速なら過去プレイした中でも指10本に入るかもしれない。
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叙述トリックはシンプルかつ大胆でよかった。二重人格そのものがミスリードだったとかね。
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作中で好きな台詞は、「悪への信仰だけが、唯一人を救う場合もあるのではないか」というテキスト。
人間は誰かのせいにしないで生きていられるほど、そんなに強くないということ。
絶対の悪として復讐に人生を捧げた兄、魔王を殺さんとするハル、ハルを恨まんとする京介、みんな同じ。
むしろ、自分の生き方を貫いた兄はかっこよくもあった。
だからこそ、魔王の死に際に「憎悪は人を・・・いや、愛も、また・・・」と愛の力を知り、
京介とハルも双方向への復讐の連鎖を愛によって断ち切った2つのシーンが心に刺さるのだ。