主題は民族伝記ではなく、主人公とヒロインの選んだ愛の形ではないかと感じた。
【個人的振り返り用メモ】
【声優】
ぼくは声優にめっぽう興味がないので、声優の名前は確認していませんが、特段好きな声をしたキャラはいなかったです。これは悪い意味ではなく、単にぼくが声に興味がないというだけです。
キャラの感情や場面の臨場感・緊張感を演出する「演技」としての声では、特にサナちゃんのHシーンでの悲痛な叫びや、各キャラ√終盤の気持ちの込められたセリフが印象に残っています。とても良い演技でした。
【原画】
パッケージイラスト含め、立ち絵がきれいな塗りをしているなと感じました。
あと、背景もすごくきれいで楽しめました。
【演出】
シナリオ終盤のバトルシーンではバトル専用の立ち絵(カットイン)とエフェクトが使用されていました。
巫女服での戦闘というのもあって、戦闘イベントのCGがあっても良かったかもしれません。
シナリオの構成上、最大の見せ場となる主人公シュンの最後の選択の場面の演出はとても良かったと思います。
【エロ】
エロ要素は控えめでした。題材が伝記ものなのでエロを前面に出し過ぎるのも雰囲気が崩れるのでこれくらいでちょうどいいと個人的には思いました。
【設定・世界観】
石壁に囲まれた町、と聞いて進撃の巨人を彷彿とさせられましたが、この設定のおかげで民族伝記を描くのに必須である『コミュニティの社会的な閉鎖感』が感じられて良かったです。
タカギ家や『石』、若宮様や淡島様などの設定についてはVFBや過去の批評空間のレビュワーさんが書き留めているので、思い出したくなったらそちらを参照しようと思います。
【キャラ】
サナちゃん・アイリちゃんを除く二人は既にシュンのことを好きだった。これは昔からの付き合いでシナリオのスタート時点より前から親交があったから。
アイリちゃんはシュンとの関わり合いのなかで、自分に抱いている感情が恋だと知る。
サナちゃんはそもそも恋仲にならない。
アオイちゃんはキスこそするものの、√も無ければどの√でも無残に殺されるので救済はない。なのでシュンはどの√でもアオイちゃんの想いを知ることなく物語は終わる。悲しい。。。
水原くんは良い奴と見せかけて祭りのグル、とみせかけて主人公を助けようとしてくれる。いい奴だったのに死んじまうなんて。。。
ホノカさんは良い母親(血は繋がってないけど)だよ。子どものために身体を張れて、シュンの最後の選択もリスペクトしてくれる。
ユキちゃん:
僕が当初の予想でメインヒロイン(グランドルート設定)だと思っていたキャラ。結果的に違った。
舞台となった街から出た後、大学時代もシュンと共に過ごしていたことから、その思い出話とかしてほしかった。
アイリちゃん:
イベントCGが一番強かったキャラ。
シュンとの思い出の草原(シュンと両想いになれた場所)で、シュン亡き後に子どもに対して、かつてシュンにしてもらったように草花で作った冠をかけてあげるシーンはすさまじく印象に残り、強いカタルシスを感じた。
病弱属性・兄様呼びも個人的に好み。
ミオリちゃん:
見た目は本作で一番好みだった。
Hではなかなか挿入できなく、後で「ごめんね」といってご奉仕してくれたシーンがあり、思わずミオリちゃんに恋しそうになった。最初で最後のセックスで妊娠できたのは2人の愛のなせた結果なのかもしれない。
かつてはシュンに男と間違われたこともある長年の友人であったが、シュンの上京もあってか再開後も距離感が遠かった。これは仕方ないよね、久しぶりの再会だし、祭りの運命も知っていれば今まで通り接する方が難しい。
サナちゃん:
妹萌えとして、人懐っこい性格で「お兄ちゃん、ちゅーして?」とか言ってくれたので萌えの気持ちが強まった。
料理の好き嫌いに関するタカギ家の家訓で「さな、基本的な人権がなくなっちゃった」って言ってたのが面白かった。基本的人権を失くした妹、可愛すぎる。萌え。
HをしようとするとBADエンドなのが面白かったw
近親相姦はいけないよね、とシュンもといシナリオライターの強いモラル意識を感じました。この点で、フィクションに現実性を感じることができたのでシュンの倫理観はすばらしい。
Hシーンはどれもサナちゃんが可哀そうで見ていられなかった。性知識がないうえ、大好きなお兄ちゃんに乱暴されたら怖いよね。。。うっかりHしちゃったシュンが自殺するのも無理はない。
TRUEエンドでのサナちゃんからは家族愛を感じました。祭りについて、タカギ家の運命について何も知らなかったサナちゃんにとっては、お兄ちゃんが突然化け物になったあげく殺さそうになり、挙句の果てには自らの命も狙われるという、気が動転してもおかしくない状況で「お兄ちゃんを助ける」とシュンを支え続けたサナちゃんには感動した。形は違っても、ずっと家族だもんね。
【シナリオ】
シュンの設定上、シュンは受動的な動きしかできないのが可哀そうだった。何も知られずに殺されるまで(見かけ上は)平穏な日常を送るのを見てるとプレイヤーとして僕もつらくなった。
シュンが各キャラと恋に落ちる過程がよく分からなかった。恋を自覚したタイミングは、
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当然、これからもみんなを同じくらい大事にしていきたいと考えていた。
そこに差なんて作るつもりも無かった。
・・・・・でも、ある時から自分の胸に、焦がれる想いが生まれていたことに気がついた。
あの子のことを考えるだけで、切ない気持ちに苛まれてしまう。
この想いに、僕は素直になりたいーーそう、強く思うようになっていた。
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とあるが、もう少し、主人公としての感情の変化の過程を知りたかった。当然、プレイヤーの想像に答えを委ねるために意図的に描かれなかった可能性もあり。
伝記要素でいくと、本編とは関係なく、ホノカさんが色々と実在ベースの民俗学的知識を教えてくれたのでSCを撮って勉強に使えた。
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このシナリオって「めちゃくちゃ固いスルメイカ」って感じだと思う。
膨大な設定とバックグラウンドがあり、共通パートでは容赦なく多量な情報を投げつけられるため、プレイヤーはなかなか理解できないが、頑張って調べたり何周か読み返したりすればパズルのピースがハマる感覚で楽しめる。
ただ、シナリオの構成上、共通√が長いのでプレイヤーはかなり重い腰を上げる必要がある。
まるで、めちゃくちゃ固いスルメイカのようなシナリオだと感じた。
水原くん・アオイちゃんの死やホノカさんの死闘など、サブキャラの重要かつ見せ場の演出があったが、残念ながら感情を揺さぶられることはなかった。
理由としては、シナリオ構成において、人物の掘り下げ・人物間の人間関係の2つの描写が不足していたからだと考える。
①サブキャラ含めヒロインたちの家系や両親との葛藤、想いのぶつかりあい
②ヒロインと主人公の馴れ初め、過去の思い出の回想
③過去に犠牲となった祭りの関係者の思い出
④もう少し分かりやすい伏線回収やダイレクトな設定解説
この4点があれば、シナリオとしての解像度が上がり、プレイヤーの理解度・キャラへの感情移入率も上がるのではないかと考えた。
和服を着た黒髪と銀髪の女性の古い写真とか伏線回収されていない気がする。VFBで補完されてる?
【良かったところ】
伝記要素よりも、個人的には主人公とヒロインが選んだ愛の形の方が興味がある。
以下、最終選択時の状況を3視点で。
・第三者視点
①主人公が生きる選択
若宮さまが完全に化け物になる。祭り関係者からすれば一番良くない選択。さっさと殺したい。なぜなら命の危険があるので。
②主人公が人間として死ぬ選択
これ以上の被害が出ず、祭りの儀式も終わるので大団円。これが一番いい。
・ヒロイン視点
①主人公が生きる選択
永遠に一緒に居られる、たとえ化け物として一体化しようとも。代償として、人間であることをやめる。
周囲の人間も化け物となり、計り知れない被害を与えてしまう。
②主人公が人間として死ぬ選択
主人公が死ぬので永遠の別れとなるつらい選択。しかし、ヒロインは人間として生きることができる。
・主人公視点
①主人公が生きる選択
基本的な点として、生きることができる。そしてヒロインと一緒に居られる。
しかし、人間をやめる。この場合、思考と身体のコントロールが化け物に支配されることを意味する。周囲の人間も化け物となり、計り知れない被害を与えてしまう。
②主人公が人間として死ぬ選択
死ぬ。したがって、ヒロインとは永遠の別れとなる。
しかし、思考や体を化け物に支配されることは無くなるため、ヒロインを傷つけず、ヒロインの命を奪わずに済む。もちろん第三者の被害もなくなる。
これ、究極の選択ですよね。。。
どちらが正解とかあるんでしょうか、僕はないと思います。
この問いに答えを出すには、
①シュンにとっての幸せ・愛とはなにか?
②ヒロインにとっての幸せ・愛とはなにか?
の2つを考える必要がある。
この際に天秤にかけるべきは、
・生きること、死ぬこと
・一緒にいること、いないこと
であり、その評価軸としては、
・(物理・非物理的)永遠性
・人間の実存主義的な存在価値
の2つがあると考える。