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shun-shunさんの月と太陽のラクシャルキの長文感想

ユーザー
shun-shun
ゲーム
月と太陽のラクシャルキ
ブランド
Ambivalence
得点
90
参照数
51

一言コメント

砂漠という雰囲気の作り込みを高く評価。シナリオの粗が目立つが、それを凌駕する世界観がそこにある。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

総じて、本作は砂漠を舞台とした雰囲気ゲーという評が目立つが、個人的には雰囲気ゲーの皮を被った「砂漠で暮らす人々を詳細に描写した、商取引の原則を描いた経済ゲーム」であると考える。

その例として、幾つかの細かい描写を挙げる。
①国王へ魔人の鏡を献上し、関税免除権を得た後の宴会で初めてヒロインと主人公が出会うシーンで、
他の貴族男性がいるにも関わらず主人公の所に行った理由が、

・踊り子としての市場価値の高さ故に男に媚びを売る必要がないから(年増の女性であれば踊りというフィールドではより若い踊り子に勝てないため貴族に嫁ぐ戦略を取る必要があるため)
・踊り子として人前に出る機会が多いため、男性の性的な目に敏感である(主人公は性的な目で見ていなかった)から

というのはロジックとして綺麗だと思った。

②踊り子が情熱的であるのは、砂漠という極限環境を生きるが故に、いつ死んでもおかしくないため、今を全力で楽しむという思想に起因するというのはとても筋が通っている。

③オアシスで胡椒が高値で売れるのは、砂漠があるため原産地からの絶対的距離が大きいため、水が高く売れるのは需要に対する生産量が少ないため、という商取引の基本原則が語られている

④商人は何度も足を運ばないと本音で話してくれない、というのも小売や卸売を経験した人間であれば納得できるのではないだろうか。

⑤クルアーンのシャーリアに定められたハッド刑の描写がある


シナリオ面では多くの不満があるのは事実。
例えば、あんな布面積の少ない美少女な踊り子を前にして性欲が湧かない主人公は聊か現実的とは言えないと感じた。
→この理由であるが、主人公は目利きの良い商人であり、常に物事に対して価値判断を行う生活をしているため、ヒロインの肢体を見た時に、性的欲求より先に審美眼の方が顕現したのではないかと私なりに考えたため、納得。

そのほか、目立った欠点としては、盗賊の緊張感のなさ、リーダーの謎の行動、サファリの意味不明な行動、へたれ主人公など、、、

しかし、本作の枠を超え、より巨視的な視点で見ると、砂漠やするクロードを舞台とした作品は大変珍しく、
ニッチな市場を現在も寡占している本作は、ノベルゲーム市場における価値は大変高いのではないかと思料する。